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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Third Part. 修道女から魔術師へ
51/232

50. きっかけ

 翌日。

 ユキ達はラプラタの執務室へ集合した。

 そして、組織と繋がりがあるであろう御用商人に対して具体的にどうするかを各自は考える。


「じゃあ、商館へこっそり忍び込むとか?」

 まず意見を出したのはホタルだった。

 ホタルは難しい顔をしたまま、御用商人がいるであろう彼の商館へ潜入して、何らかしらの手がかりを掴む事を提案する。


「確かに手っ取り早くて、最も成果をあげやすいと思うわ」

「でしょ? ラプラタ様もそう思うだろう~?」

「でも、万が一にも捕まったら大変な事になるわよ」

 ラプラタが敢えておどろおどろしく言うと、ホタルはしかめっ面になりながら大きくため息をつく。

「……牢屋送りか?」

「それで済めばいいわね。この件にもしも組織に関わっていたら、どうなるかはホタルちゃんなら想像出来るんじゃないかしら?」

「あ、ああ……」

 顔色がやや良くないのは、やはりホタルがかつて組織に捕られていて、想像もつかないような酷い仕打ちを受けてきたからなのだろうとユキは思い、丸めている背中をかるく撫でた。


「遠回りだと思いますが、まずは聞き込みから始めましょうか。商会の噂とか、御用商人や商館に何か変わりは無いかとか」

「私はルリの案に賛成かな。忍び込むのはそれから後でも良いかも」

「まあ、そだな~。じゃあ各自聞いて回ってみて、時間が経ったら再び落ち合うという事で」

 いきなり危ない方法をしなくても、時間は十分にあるはずだから。

 ましてや相手は御用商人だもの。

 ルリの言うとおり、慎重な作戦でいった方が良いはず。

 ユキはそう考えるとルリフィーネの意見に賛同し、ホタルもユキの思いを察したのか同じ様に同意する。


「それじゃあ夕刻までにラプラタ様の執務室に戻るという事でよろしいでしょうか?」

「うん」

「おー!」

「ユキ様は商館があって城から近い東の区域を、ホタルさんは城から離れた西の区域を、町の外は私が引き受けます。セーラさんはユキさんの護衛をお願いします」

 ホタルは城下町の西の区域、ルリは町の外周と周辺の村々、ユキとセーラは商館のある東の区域へ行く事になった。

 こうして三人は各自別々行動をして、風精の国の城下町へとくりだしていく。



 ――風精の国の都、東の区域にて。 


 ユキは、ルリフィーネの言うとおり御用商人が居る商館へ向かい、中へ入り様子を覗う。

 どうやら御用商人は居ないらしく、商館で働く人たちはそれぞれの仕事を黙々とこなしている。

 前に来た時の手厚い歓迎とはまるで正反対だ。


「あ、あの……」

 多少の近寄りがたさを感じながらも、勇気を出してユキは働く人達に声をかけようとする。

 しかし、それすらも無視されてしまった。


「うーん、どうしよ……」

 このまま負けじと声をかけ続けても邪険にされるのを解っていたユキは、何も出来ずただ途方に暮れてしまう。

 いきなり商館へ向かうのは無茶だったのかな……。

 最初は話をしてくれそうな町の人に聞くのが正解かも。

 そう思いながら、何ら収穫が得られなかった事に落胆し商館から出ようとした時だった。


「ねえ!」

「うわっ!?」

 いきなり声をかけられたユキは、思わず身をすくませてしまう。

 快活な声の正体を見ようと、商館から出ようとする足を止めて背後を振り向く。


「あなた、魔術師団の人でしょう?」

「あ、はい。ユキと申します」

「ふーん、ユキさんね。徽章が見えないから新人さんかな?」

「そうです」

 風精の国の兵団に所属している人達は、各自の階位が解るように徽章を付けている。

 確か、金銀銅と種類があったっけかな。

 私はまだ来たばかりで、一応ランク査定中という話をルリ経由で聞いた事がある。

 彼女はきっとその事を知っていたのだろう。


「まあいいや、ちょっと話があるからこっちへ行こう」

「え、ちょっとー!」

 ユキの思いをまるで気にしないように、突然現れた少女はユキの手をとって商館の外へと連れ出していく。

 ユキはいきなりの事で何ら抵抗出来ず、少女の赴くままに人気の少ない裏路地へと連れてかれてしまう。


「はぁー……、あれ? ここは?」

「ここなら誰も居なさそうね。急にごめんね、あなたにだけ話しておきたかったから」

 人の居ない場所を選びながら走り続けたせいか、ユキの息はすっかりあがってしまい、何とか呼吸を整えようとする。


「話って何を……?」

 確かに今居る裏路地は人が居ない。

 私達の会話が誰かに聞かれる事はないと思う。

 でも、そこまでして、この女の子は何を話したいのかな?


「お願い、お父様を救って欲しいの」

 あまりにも唐突でかつ一切想像していなかった話に、ユキは聞き間違えたのかと思いつつ、目を丸くしながら無言で少女の方を見る。

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