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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Third Part. 修道女から魔術師へ
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49. 新たな任務

「折角集まっているし、セーラちゃんも目覚めたみたいだから次の任務の話をしましょうか」

 セーラがユキの新たな仲間の一人になったところで、ラプラタは一つだけ手を叩くと次の任務の話に移る。


「セーラさんも私たちと一緒に行動するのですか?」

 念のためなのかな?

 ルリフィーネはセーラが共に行動する事を再度ラプラタへ確認する。


「その方が良いみたいね。ちょうどユキちゃんに懐いているし」

「確かに」

「あはは……」

 気がつけば、母親から離れようとしない子供みたいに、ユキのマントの裾をぎゅっと握っている。

 そんな様子を見たルリフィーネはラプラタの言葉を頷きながら理解したが、当事者のユキは身動きが取りづらそうにしながら苦笑いした。


「でもさー、組織の人体兵器だろ? そんなんと一緒とか大丈夫なのか?」

「ホタルちゃんの言う事も一理あるけれど、今回に限っては心配ないわ」

「と言うと?」

 ホタルお姉さまの言葉が気にならないわけではなかった。

 通り魔として顔や姿が他の人には解らなかったけれども、組織は知らないわけがない。

 ”捨てられた魔術兵器”が一緒に行動していれば、怪しまれてしまう。


「今のセーラちゃんは、組織とはもう関係が無いの」

「……結論すぎて、どういう意味が解らないぞ」

「人体兵器なんて超イレギュラーでばれたら危ない存在を、こんな人目のつく場所へのさばらしておく? 私だったら誰にもばれないようこっそり研究するし、不要になったとしても保管しておくわね」

「うーむ、そういわれれば……」

 確かにそうなのかもしれないと、ユキは思いながら頷いてしまう。


「だから製造には成功したけれども、大量の血が必要だった。運用が出来ないと見た組織はセーラちゃんを捨てたというところかしら?」

「捨てるって……、もっとやり方があるだろう? 何もこんな街中に放り出さなくても……」

「私もそう思って調べたけれども、追跡や諜報の魔術の痕跡は無かった。私の考えの及ばない何かがあるのか、あるいはこの子を作った人の気まぐれなのかもしれないわね」

「人の命をそんなふうに扱うなんて……」

 この時ユキは、ホタルも組織によって不思議な力を与えられた事を思い出すと、自身でも気がつかない内に胸に手を当てて涙ぐんでいた。


「通り魔事件の最中も、ユキちゃんの部屋に向かう道中で組織におかしな動きがないところから、彼女の存在は組織の中でもごく一部の人にしか知られていないかもしれない」

 真剣な表情のままラプラタは、淡々と自らの考察を話し続ける。

 一見無表情とも捉えられたが、どこか漠然とした辛さをユキは感じていた。


「まあ、作られた理由や組織の真意までは知る由が無いけれど、兎も角セーラちゃんとは一緒に行動して問題ないわ。書類上はホタルちゃんとペアって事にしておくから、今後は四人で活動なさい」

 セーラがとりあえずは組織から離れ、以降も大丈夫だという事を伝え終えると、ラプラタはセーラを兵団へ入れるための書類をごく短い時間で作成してルリフィーネへ手渡した。

 ルリに渡したという事は、騎士団に所属するって事なのかな?


「なあラプラタ様。もしかして、最初から通り魔の正体を知ってたのか?」

「なんとなくね」

「ははっ、意地が悪いなー! 教えてくれても良かったのに」

「ごめんなさいね。セーラちゃんである確証が無かったのと、ユキちゃんの実力を知りたかったからね」

 私の身に降りかかる最近の出来事や、セーラちゃんを生み出せるくらいの力を持つ裏ギルドの存在。

 どれも作り話のようなことばかりだけれど。


 それを解決したラプラタ様って、本当に凄い。

 ルリの言う事に間違いは無かった。

 前にホタルお姉さまが冗談で悪魔って言ってたけれども、今なら納得してしまいそう。


「さて話は戻って任務の事だけれど」

 ユキが宮廷魔術師長の凄みを改めて確認し、驚嘆している最中。

 ラプラタは話を切り替え、一通の書簡を机の上に置く。


「この書簡を御用商人へ届けて欲しいの」

「はい、解りました」

 御用商人とは、国王の直接の命を受けることが出来る商人だ。

 他の国では御用聞きとか、特級商人とか言われているみたい。

 それだけ重要な仕事を請けられるほどに実績、人望、地位、財力、どれも他の商人より優れている。

 そうルリから学んだ事があった。


「ふーん、結構簡単じゃないか。ちなみに何が書かれているんだ?」

「特に差し障りは無いから言うけど、最近パンの値段が上がっていて国民からも一部不満が出ているから、なるべく価格をあげないようにって注意ね」

 風精の国に限らず、殆どの国は主食であるパンはそもそも個人の家庭で焼く事が許されておらず、国が認めた商人や商会からの購入を強制されている。

 普段は国民の不満が出にくいよう価格を抑えられているが、どうやら今回はそうではないみたい。


「今から持って行きますね」

「ええ、お願いね。何か変わった事があったら教えてね」

 食べ物が無くなり、民が暴動を起こした歴史を事前に学んでいたユキは、なるべくすぐに解決する為にも書簡を受け取り、今回はセーラちゃんのような事にはならないと思いながら御用商人の居る商館へと向かった。



 そして間も無く一行は、到着した。

 ユキ達の来訪を事前に察知していたのか?

 出迎えたのは商館で働いている人ではなく、商会を仕切っている御用商人だった。


「これはこれは騎士様と魔術師様達、こんな場所へご足労ありがとうございます。今日はどういったご用件でしょうか?」

「えっと、この書簡を届けに来ました」

 ユキはごく自然な流れで、ラプラタから受け取った書簡を御用商人へと手渡す。

「ほお、失礼ですが早速中身を拝見させていただきます。フムフム……」

 御用商人はユキ達の目の前で結っていた紐を解き、開いて中身を確認する。


「実は今年は小麦の収穫量が少なく、それでも価格を抑えようと我々も身を切る思いで善処しましたが、このままではここの従業員を解雇しなければならなくなり、仕方なく値段を上げたのです」

 彼の言う理由はユキにも十分理解出来た。

 風精の国は豊かな土地とはいえ、日照りや大雨が続けば収穫が出来なくなる事だってある。

 しかし、御用商人の丸々と肥えた体格と悪趣味な程に身に着けた貴金属類のせいか、彼の発言にはまるで説得力が無かった。


「ですが、国の命令とあれば今一度価格を見直す必要性がありますね。近い内にこちらから連絡いたしますので、今日のところはこれでお引取り願います」

「はい」

 私達に課せられた任務は書簡を渡すこと。

 だから余計な事をして迷惑をかけるのはいけないと思い、多少気になりつつも御用商人の言うとおり、一行はラプラタの下へと戻った。



「早かったわね」

「はい」

「何か言ってたかしら?」

「えっと、小麦の収穫量が少なくて値上げしたとのことです。価格を見直すとも言っておりました」

「うーん。私がこっそり農園で聞いた話では、小麦の収穫量は例年通りなのよ。だから何故パンの値段をあげたのかなと気になっていたんだけどね」

「ええっ、そうなんですか!?」

 御用商人とラプラタ様。

 二人は逆の事を言っている。

 どうして……?


「その様子だと、御用商人は何か隠しているわね」

 ラプラタは笑顔のままそういうと一つ鼻をならし、ユキ達の方を見据えた。


「なあラプラタ様、また何か知っているんじゃないか?」

「ふふ、それは内緒よ。と言いたいけれど、今回はちゃんと話すわ。そしてあなた達がやってもらう本当の任務についてもね」

「本当の、任務……?」

「あなた達が解決した通り魔事件と、パンの値上りには関係があると思うの」

「あれか? 御用商人が人体兵器を作る手助けをしていて、その資金稼ぎのためにパンの値段をあげたのか?」

「その通り、ホタルちゃんは賢いわね」

「当たりかよ!?」

「あくまで私の推測でしか無いから、何ら証拠があるわけでもないし、他の別の理由があるかもしれない。今回の任務は、そのあたりをはっきりさせること」

 御用商人とも繋がっているほどの組織だなんて……。

 ユキが思っていた以上に、秘密結社トリニティ・アークが強大な実権を握っている事を知り、思わず考え込んでしまう。


「じゃあそのあたりの調査を続ければよいのですね?」

「ええ」

 私はこの風精の国へ向かう旅の道中、組織について聞いた事があった。

 その時、ルリやホタルお姉さまは言葉を濁したまま何も教えてくれなかった。

 今なら何故そうしたか、理由が解ったような気がする……。


「でも、危ない事はしちゃ駄目よ?」

「解っております」

「今回も全員無事で、任務を成功させましょう」

 そうだ、今回はセーラちゃんもいる。

 だから絶対に成功させるんだ。


 ユキは任務の成功を心で祈る。

 しかし、この任務がユキの考えを大きく変えるきっかけになるとは、まだ誰も知らない。

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