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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Third Part. 修道女から魔術師へ
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45. 冷たい暗闇に吹く春の風

 夜。

 ユキとホタル、ルリフィーネは相変わらず人の気配が無い風精の国の街中を探索する。

 前日と同様に手荷物はオイルランタンだが、今日の灯はどこか心強い。


「ユキ、何だか顔色がよくないけども大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ」

 ホタルはふと、ユキの顔色が優れない事を気にして声をかける。

 ユキはそんなさり気ない優しさに対して、笑顔で自分が大丈夫である事を告げた。


「きっと本を一気に読みすぎたんだなー。仕事熱心でえらいえらい」

「えへへ」

 確かに集中して本を読んだせいで多少目の疲れは感じていたけれども、基本的に体調は問題ないし任務に差し支えがあるわけでもない。


 具合が悪そうに見えた理由。

 それは熟読による疲労とは別にユキの頭の中には、一つの懸念があったからだ。


「それで、ラプラタ様に渡した本はどのような内容でしたか?」

「えっとね、不思議な生き物の日常が書かれているの。ご飯を食べたり、お友達と遊んだり、仕事にも熱心だったよ」

「随分とほのぼのとした内容だね?」

「うん」

 借りた本を読み終えた時から、ラプラタが言っていた召喚に成功すれば通り魔をどうにかなるという言葉がとても信用出来ずにいた。

 それはその物語内の生き物が、通り魔をどうこうするとは思えなかったからである。


「そんな生き物を呼び出して、本当に通り魔の女の子に勝てるのかなって思っちゃって……」

「ユキの話を聞いた感じだと、戦う事に向いてはいなさそうだねえ」

 ホタルお姉さまの言うとおり、呼び出せたとしても一方的にやられちゃうかもしれない。

 それどころか、ルリの邪魔になるかもしれない。

 本を読めば読むほどに、そういう考えが強くなっていくのをユキ自身も実感していた。


「ラプラタ様がそんな無為な事をするとも思えません、今はあの方を信じるしかないでしょう」

「うん」

 そうだ、ルリの言うとおりだ。

 確かに戦う事は、向いていないかもしれない。

 でも、何か思いもよらない事が起こるのかもしれない。

 だからラプラタ様を信じて、通り魔の女の子が来たら予定通り本の中の生き物を……。


 そう自分自身に言い聞かせていた最中。


「む、皆様来ましたよ」

 ルリフィーネの一言でこの場の雰囲気が一気に張り詰める。

 昨日もそうだったが、暗闇の中でもルリフィーネには通り魔の少女が来ているのを察知出来ているようだが、ユキやホタルには相変わらず解らない。

 凶器を持って、自分たちを害そうとする存在が見えない場所から迫る恐怖は、ユキの小さな足を後方の暗闇へ引きずりこもうとさせる。


解放する(リリースオブ・)白雪姫のホワイトスノープリンセス・真髄エッセンス!」

 そんな闇に振り払おうと、解放の言葉を宣言し両手を広げる。

 自らの恐れを払拭したいという少女の健気な思いに答えるかのように、ユキの体からは膨大な青白い光が溢れ出ると着ていた服が細い光の糸に分解され、ユキは生まれたままの姿となる。

 そして自ら放った青白い光は同じ色のドレスとなってをユキを優しく包み込み、ユキは壮麗かつ優美な姫への変身を遂げた。


「雪花繚乱! スノーフィリア聖装解放!」

 スノーフィリアの変身の影響により、周囲は照らされ暗闇が払われていく。

 たまたまなのか、前回と同じく少し離れた場所で通り魔の少女が赤い瞳でこちらを無表情のまま見つめていた。


「スノーフィリア・アクアクラウンが命ずる。春の楽園に住まう甘美なる聖獣よ、我の下に姿を現し、暗黒の刃を退ける帳となれ! 白雪水晶(ホワイトクリスタル・)の桃鳥兎ストロベリーモンスター!」

 通り魔の少女が攻勢へ転ずる前に、スノーフィリアは半ば急ぎつつも意識を集中させ、ラプラタから借りた本に描かれていた生き物を想像しながら詠唱を完遂すると、スノーフィリアを中心に光り輝く魔法陣が展開されていく。

 魔法陣はどんどん広がっていってある一定の大きさになると、スノーフィリアは通り魔の少女の方に指を向け、そこから一粒の雪の結晶のような光が零れ落ち、水晶を削って作られたような兎のような耳を持った、一見鳥のようだが胴体を垂直にして足で立っている生き物が魔法陣から現れた。


「いてて……、あれ? ここはどこだ?」

 スノーフィリアが呼び出した不思議な生き物は、周囲をきょろきょろと見回しながら独り言をつぶやく。

 どうやら自分がこの世界に呼び出された自覚が無いらしい。


「おまえはだれだ!」

 スノーフィリアの姿を見つけると、座ったまま指をさして言い放つ。

 突然別の世界にわけも解らず呼び出されて、どうやら動揺しているようだ。


「スノーフィリア・アクアクラウンです。よろしくねスプリングベリーちゃん」

「あれ、どうしてぼくのなまえをしってるなだ?」

 本を熟読したスノーフィリアが名前を知らないわけは無かったが、謎の生き物スプリングベリーにとっては、初めて出会う相手が自分の名前を知っている事に驚きを隠せずにいる。


「ごめんなさい。あなたの力を借りたくて、あなたのいる世界から呼び出したの」

「はむはむ。そうか、ぼくはよばれたのか。なっとくした」

「そこは納得するのか……」

 スノーフィリアは困惑しているスプリングベリーへなるべく簡潔に現状を伝えると、スプリングベリーは短い腕を組みながら誇らしげに何度も頷き、状況を理解した事を示した。


「あの子を何とかして欲しいんだけども……、出来そうかな?」

「ぼくはたたかいはきらいだ。ものづくりがすきなだ」

 確かに本の中で戦闘描写は一切無く、スプリングベリーは物作りしかしていない。

 この謎の生き物が言うとおり、戦う事に関して疎く、そもそも好かないと言うのも納得だ。


「でもきみはぼくのしりあいにどこかにてる。かあいいし、たすけてあげるなだよ」

「う、うん」

 このまま断られてしまうのかもしれない。

 そうスノーフィリアが思いかけた矢先。

 スプリングベリーはゆっくりと立ち上がって尻についた埃を叩いて払うと、どこからともなく木製で出来た古そうなワンドを取り出す。


「むむむむ~~~、ふぁいあーぼると!!」

 なにやら術の名前を言い放ち、通り魔の少女にワンドを振るう。


「おお、強そうな名前だ。雰囲気出てるし意外とやるんじゃないかこいつ?」

 見慣れない風体の割には妙な迫力がある。

 そのせいで、ホタルが思わず感嘆してしまったが……。

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