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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Second Part. 使用人から修道女へ
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31. ランピリダエの過去 ~全てを失った瞬間~

 ――それからしばらく経ったある日。


 その日は何気ない日常だった。

 アッティラと仲間達は酒を飲みながらいつも通り陽気に話している。


「おーいホタル! 今日の勉強は終わったか~? 酒無くなったぞー! つまみ作れや!」

「勉強は終わってる。お酒持ってくるついでに何か簡単なもの作ってくるね」

「おう! 頼むぜ。ガハハハハ!」

 それはまるで、音楽家シュプリーの出来事が無かったかのような感じだった。

 アッティラの人となりは、嫌な思い出をいつまでも引きずるようにも見えないが、それにしてはあまりにもさっぱりしすぎている。

 そうユキが思いながらも、再び穏やかな日々が戻ってきたと思った矢先。


「おい、静かにしろ」

「どうしたの?」

 アッティラの雰囲気が、穏やかなものから急に重く張り詰めたものになる。

 それと同時にごろつき集団の仲間達は自らの得物を持ち、各々が家具の陰へと身を隠した。


「ホタル、俺の合図と共に裏口から全力で逃げろ。そしてここからなるべく遠くへ行け」

「何で、どうして?」

 ホタルは何が起こっているのか全く理解出来ず、ただおろおろとその場を右往左往するだけだったが、余程緊急な状態だったのか、アッティラは彼女に逃げる事しか伝えられず厳しい顔のまま扉の方を凝視し続ける。


「逃げろ!」

 そうアッティラが叫んだ瞬間だった。

 扉が勢いよく開くと、黒いフードとマスクで首から上を覆った人達が次々とアッティラのアジトへと入っていく。

 この時ユキの全身が痺れ、酷く寒くなってしまう。

 何故なら、今まさにアッティラのアジトを襲撃している人達は、婚約の儀でユキの父親と母親を襲撃した奴らと同じだったからである。


 アッティラの仲間達は黒フードの侵入者に対して襲い掛かり、最初に入ってきた数人を仕留める事には成功したが、黒フードの侵入者は次々と扉から入っていき、さらには窓からもアジトへ入ってくる。


「ちっ、数が多すぎる……」

 圧倒的な物量差に奮戦していたアッティラとその仲間達もやがて疲弊し、ついに全員捕まってしまう。

 ホタルお姉さまの姿が見えない?

 もしかして、上手く逃げられたの?

 お願い、逃げていて!


「おいてめぇら、どこのモンだ?」

「お前に語る義理は無い」

 アッティラは、敵にばれないよう周りを確認しながら、自分らをこんな目に合わせた相手の正体を聞く。

 黒フードの侵入者は一切の情報を漏らさなかったが、本当の目的はホタルが無事に逃げたかを確認したいアッティラにとっては、今更どうでもいい事だった。

 そしてホタルがこの場にはおらず、逃げ切ったであろうと安堵した時……。


「きゃああ!」

「ホタル! くそ、裏口も既に居やがったか……」

 裏口のある方から、手首を縛られたホタルが半泣きになりながら連れられてくる。

 この瞬間、アッティラの唯一の願いも壊れてしまった。


 アッティラとその仲間達の敗北が確定した。

 黒フードの侵入者達に取り囲まれ、全員が縄で縛られてしまい自由を奪われている。

 もうどうする事も出来ない、絶体絶命の最中。


「お前……!」

 タイミングよく、アジトの入り口から一人の男が現れる。

 アッティラとホタルとユキがその男を見た時、驚きを隠しきれずにいた。


「さあ皆さん、掃除お願いしますよ」

「てめぇ!」

 赤い布地の縁を金糸で飾り付けられた上着を着ている。

 紛れも無く、少し前にアッティラへ嫌がらせをした音楽家のシュプリーだ。


「何故だ、何故俺らを狙った!」

「新規ギルドの運営には別の人達がやりたいという希望がありまして、つきましてはあなた方が邪魔なので消えてもらいます」

「俺らには関係ないだろ? まさか、報復でもすると?」

「そうです」

「馬鹿馬鹿しい!」

 あの時の侮辱的な行為では飽き足らず、今度は命までも奪うのか?

 アッティラはそう目で訴えながらも、何故こんな事をするかを問いただす。


「もうお話は終わりです。あなた方の息は臭くて仕方ない」

 シュプリーのその言葉と同時に、拘束されていた仲間達の首が無慈悲に落とされていく。

 部屋は僅かな悲鳴の後に鮮血の赤へと染まっていき、ホタルの立っていた場所まで仲間達の流血が広がっていく。

 その時シュプリーは、清潔なハンカチで自らの口と鼻を押さえていた。


「やめろ! ……てめぇ! このクソ野郎!」

 ついに我慢の限界だったであろうアッティラは縛られたまま立ち上がり、一矢報おうとシュプリーの方へと駆け寄ろうとする。

 しかし、黒フードの侵入者の背後からの一突きを受けてしまい、アッティラはその場で崩れるように倒れてしまった。


「ああっ……、みんな……、親父……」

 少女ホタルの目の前で、父親や大切な仲間達の命が次々と奪われていく光景。

 それはかつてユキが体験したものと同じであった。

 ホタルの記憶を見ていたユキもまた、ホタルと同じ様に泣きそうな顔になりながら、何も出来ずただ震えて立ち止まっている。


「この少女も殺しますか?」

「んー、この子はあなた方の組織に差し上げましょう。ちょうど年頃の子が欲しいって言ってましたよね?」

「いやああ! 離して! 親父! おやじいいいいいい!」

 この場所での用事が済んだシュプリーと黒フードの侵入者一行は、大切な人達が殺されてしまい半ば錯乱状態になっているホタルを無理矢理連れて行ってしまう。

 一切の慈悲も無い。

 少女にはあまりにもむごい場面であり、そんな凄惨な光景の記憶を見せ付けられたユキは、ついに耐え切れずその場で膝を屈してしまい泣き出してしまった。

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