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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Second Part. 使用人から修道女へ
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27. 明かされる思いと輝き

 いち早く部屋に戻ったユキは、夕食の前に話していた事に関して窓越しから夜空を眺め、再び考えを巡らせていく。


 あの審問官の力、アレフィの時と同じような感じだった。

 変身後の姿は全然違っていたけれど、変身中や雰囲気がとても似ているような気がした。

 もしかしてアレフィの時も腕に刺青が……?

 ユキはそう思って記憶を呼び起こしたが、あの時は襲われてそれどころじゃなかったし、部屋も暗かったから解らなかった。


 それに、何故審問官は私の命を狙っていたのだろう?

 公には死亡扱いとなっているし、もしかして私が生きていたら都合が悪い……?


 ユキは今まで起きた出来事を振り返り、様々な考察を巡らせた。

 そんな最中にふと現実へ戻り、蝋燭が短くなっている事に気がつく。

 そういえば、ホタルお姉さまはまだ戻らないのかな?

 大して考えていないのに、随分時間が経ったような気がする……。


 ユキはホタルの戻りの遅さが気になり、自室を出て食堂の方へと向かう。


「あれ、お姉さま?」

 戻っていく最中に、修道院の外へ一人で出て行くホタルの後姿を見つけたが、どこかいつもと様子が違ったので、気になったユキは何となく後を追っていく事にした。



 ホタルを追って到着した場所は、審問官が来た日にホタルと語り合った砂浜だった。

 夜の海はどこか吸い込まれそうで、波に飲み込まれたら二度と帰ってこれなさそうな雰囲気を感じたユキは、波打ち際からなるべく離れつつホタルに近づいていく。


「ユキか」

「うん」

 歩く時に砂浜を踏みしめる音で気づいたのだろうか。

 ホタルは後ろを向いたまま、ユキがいる事に気がつき話しかけると、ユキも特別隠しはせずに一言だけ頷きつつも答えた。


「どうした?」

「あ、お姉さま……って呼んでいいかな」

「可愛い子にそういわれるのは悪い気分じゃないねえ」

「じゃ、じゃあお姉さま。ここで何しているの?」

「あー? 夜風にあたりに来ただけだぞ? どうしてそんな不安そうな顔してるの。さあ、何も無いからユキは戻った!」

「は、はい」

 正直、ホタルお姉さまがどこか遠いところへ行ってしまいそうな感じがした。

 それはこの真っ暗闇の海中深くか、夜空の星々よりも遠い空の果てか。


「なあユキ。眠くないのか?」

「うん? 考え事してたら眠れなくて」

「あー……、そういやパンしか食べてなかったな……、うーん」

 何故そんな事を聞くのだろう。

 私の事を心配して言ってくれているの?


「……今から言う話は、皆には内緒だぞ? 勿論ユキのメイドさんにもだ」

「なんだろう?」

「手紙を出した人に心当たりがあるんだ」

 ホタルから打ち明けられた、誰にも言ってはいけない秘密。

 それは突然すぎて、私にはあまりにも突拍子もなくて。

 しかしそれは、今一番欲していた答えだった。


「本当!?」

「ああ、その人はユキの言ったとおり、ここの神父に個人的な恨みを持った人なんだ」

「そんな……、あんなに出来た人なのに、どうして?」

 私の予想は当たっていた。

 神父さまに恨みがあって、それを晴らしたいからわざと手紙を出した。

 でも、あんなに良い人を怨むなんて。


「神父様もいろいろあるからね」

 ホタルお姉さまがそう答えた時、”神父は昔、音楽家をやっていた”と言われた事を思い出す。

 その時に何かあったのかな?


「あのさユキ」

「はい」

「どうしようも無く許せないクズが目の前に居たら、ユキはどうする?」

「お姉さま……?」

「やっぱり解りあおうとする? それとも我慢できず暴力に訴える?」

「……解らない」

「そうだよね、ユキはまだ子供だからね」

 唐突な質問に、かつて自身も似たような局面に置かれた事を思い出したが、ユキはどう答えていいか解らなかった。

 この場の雰囲気や、いつもとは違うホタルの態度が気になっていたのもあった。

 咄嗟に答えの思いつかないユキが解らない事を告げると、ホタルはどこか寂しげな笑顔を見せつつ口を開いた。


「愛する事と憎む事は表裏一体なのさ、誰かを憎む事が出来なければ誰かを愛せない。私はそう思っている」

「何を言っているの? お姉さま……」

 元々ふわふわしていて、マイペースで掴みどころの無い人だと思っていたけれども、今はいつも以上に何かがおかしい。

 こんな事を言う人ではないのに……。

 なんだろう、掴みどころが無いというよりは儚くて切ない、お姉さまらしくない感じ。


「ごめんなユキ」

「その傷は!?」

 ホタルは一言だけユキに謝ると、修道院へ来て当日にユキが気になって聞いた腕の包帯を解いていく。

 すると手首には、審問官と同じ弧が三つ重なったような刺青が刻まれていた。

 怪我をしていたと言ったのは嘘で、その刺青を隠すためにずっと包帯をしていた……!?

 どうしてお姉さまが?

 なぜ!


「晩飯の野菜スープによく眠れる薬を入れておいた。たとえ最強のメイドでも今頃はぐっすり夢の中だろうね」

「まさか……、お姉さま……?」

 ユキの頭の中で、今まで解けなかったパズルのピースが埋まっていく。

 それと同時に、ユキにとって最もおきて欲しくない展開になりつつある事を、嫌でも確信してしまう。


「今度こそ正真正銘のさよならさ」

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