227. スノーフィリアの旅の結実②
――火竜の国、王都では。
全てを諦めた武官の一人が、寡黙な天使の無慈悲なる攻撃によって命を落とそうとした瞬間だった。
「必殺、直王邁進!!」
聞き慣れた声が聞こえた後、鈍い打撃音と共に襲い掛かった天使は、粉々に砕けて消滅してしまう。
「な、あなたは……!」
「久しぶりだな」
武官は恐る恐る目を開けていく。
そこには、ルリフィーネとの死闘を経た後に、行方をくらましていたサラマンドラが居た。
全身の毛は燃え尽きた時の同じく灰色のままだが、瞳にはかつてのぎらぎらとした輝きが戻っていた。
「サラマンドラ国王!! よく戻ってくださった!!」
武官は手を合わせ、深々と頭を下げて王の帰還を喜んだが……。
「感動の再会をしている暇は無いぞ」
それに対してサラマンドラは、厳しい表情のまま武官を叱咤すると、大量の天使達が舞い降りてくる空を見つめる。
「あの小娘が戦っている……。ルリフィーネも一緒か」
その時、神樹ラファエルと戦うスノーフィリアの虚像も視界へ入ると、サラマンドラは水神の国で世界の命運を賭けた戦いが繰り広げられているのを理解し……。
「ふん……」
少女達が無事である事や、生まれかわったスノーフィリアの姿を見て、少しだけ表情を緩ませると……。
「よく聞け民達! うろたえるな! 我こそは火竜の国の王サラマンドラなり!!」
大きく息を吸った後に、国中に響くくらいの大声でそう宣言する。
「サラマンドラ?」
「あの使用人に負けた元国王……?」
「でも、あの姿……」
彼の言葉を聞いた民衆は、逃げている足を止めると、一斉に声のした方へ振り向く。
「この国は窮地に立たされている! 今ここで逃げれば、この瞬間は生き長らえるだろう。だが、所詮は一時的なもの。愚者の浅知恵に過ぎん!」
サラマンドラは、ルリフィーネに負かされてから一人でずっと考えていた。
そして、自身が本当に欲しているものに改めて気づき、火竜の国へ戻ったのである。
「さあ民よ戦え! 大切なものを守る戦いから逃げるな!」
その激励を言いきった途端、サラマンドラは再び空に映るスノーフィリアの姿を見た。
「お、俺はいくぞ! あんなわけ解らない奴なんかに、俺の家族を奪われてたまるか!」
「俺もだ……。俺はまだ死にたくない!」
彼の言葉と熱気は、臆病な人々の心に火を点けた。
貴重品をしまったカバンをその場に置き、代わりに武器を携えたのだ。
「全員、行くぞ!!」
「うおおーーー!!!」
そしてサラマンドラの号令と共に、全員は天使達の群れへと突撃していく。
それはまるで、火竜のように猛々しい。
――水神の国、霧の村にて
かつて仮初の賢者の力で人々は惑わせ、今では平穏な日々を満喫していたこの村も、天使達の襲撃を受けていた。
「もうおしまいだー!」
「早く村から逃げないと!」
辺境の村には自警団が存在していた。
しかし、野盗程度を追い返す力はあれど、顔の無い天使の猛攻から人々を守るほどの力は無かったため、戦わずに避難を優先させたのだ。
「おい! お前も逃げろ!」
「ぼ、僕は戦う……」
村の人々が着の身着のままで、顔の無い天使から逃げようとしている中。
偽賢者の少年は、震える足を広げて地面をしっかり踏みしめながら、自警団の男にそう告げる。
「はぁ!? お前馬鹿か! 賢者ごっこしてる場合じゃないだろ!」
霧の村ミスティの、不思議な力は既に解けている。
当然、村人から見たこの少年は賢者でも何でも無い。
「い、いやだ……」
「ほらほら”けんじゃさま”、さっさと行くぞ」
自警団の男は、頑なに動かない少年を担いで無理矢理避難させようとする。
「そうだ! 僕はこの村の賢者だ!」
少年は、そんな男の行動を振り払うと……。
「だから……、僕が守らなきゃいけないんだーーーー!」
そう叫びながら利き手の平を顔の無い天使の方へ向けた。
すると、彼の手からは稲妻が放たれ、顔の無い天使を黒こげにしてしまったのだ。
「う、嘘だろ……」
「それ、本当かよ……」
誰もがその様子を見て、半信半疑だった。
そして、普段はぱっとしない、ただの村の少年に隠された力を見て呆然とした。
少年は、空に映ったスノーフィリア達の姿を見つめると、無言のまま頷いた後に顔の無い天使達へ歩み寄っていった。
スノーフィリア達が戦う姿は、世界中ありとあらゆる場所に映し出された。
そして、それを見た人々は、絶望から立ち直り希望を持った。
希望は力となり、無気力だった人々を動かした。
ある者は天使へと立ち向かい、またある者は傷ついた人々を介抱したり、必死に立ち向かっている女神に祈りを捧げたりした。
人々は、スノーフィリアを中心に纏まろうとしている。
優しい少女の厳しい旅は、無駄ではなかった。




