225. 天の華、未だ暁を覚えず
自らが放つ光を反射して煌びやかに輝く、膝より下に毛先がある銀色の髪。
オーロラのように僅かな風に揺れる、薄手の生地で出来たロングドレス。
背中に雄々しく生える、大きく広がった六枚の白き翼。
それら全てが先端へ行くほど七色に淡く彩られ、自身の瞳も同じ色の輝きを宿す。
それは姫、名を失った少女、堕落した者、天使……。
全ての特徴を兼ねた、今までに無い全く新しい存在。
紛れも無く、神そのものだった。
「……」
女神スノーフィリアは変身を終えると、無言のままラファエルの方を見つめた。
「そんな目で、私を見るな!!」
その眼差しがとても不快に感じたラファエルはそう叫びながら、深緑の祝福を纏った蔓と枝を放つ。
「私の祝福を……、一瞬で消した……!?」
しかし、その不浄な攻撃は、女神スノーフィリアに届く前に眩い光の粒となって消えてしまった。
「お、おのれえええ!!!!!」
ラファエルは表情を歪ませ、先ほどより多くの蔓や枝、木の実や木の葉を大量の降り注がせた。
「届かない……、そんな馬鹿な!!」
それでも、女神スノーフィリアには一つも届かない。
彼女の体を傷つける事はおろか、身に着けているドレスすら綻んでいなかった。
「もう、終わりにしよう」
女神スノーフィリアは、天界の主として目覚めた。
その事により、ラファエルがどんな思いでこの現状に至ったのかを理解した。
「あなたの背負った定めも、私が全て受け入れるから……」
だからこそ、彼女を一方的に責める事はしなかった。
真の主である自分が、その業を背負うべきと信じて疑わなかった。
不憫な”わが子”に、これ以上苦痛の中で生きて欲しくなかった。
そんな願いを胸に、女神は神樹へそっと手を差し伸べようとする。
「認めない……、認めてなるものか!!!!」
だが、ラファエルはその慈悲深き行為を拒絶した。
女神スノーフィリアが居る場所から後方、翼の陰に隠れて死角となっている部分から、木の根を這わせて一気に襲い掛かったのだ。
「ははっ……! ははははは!!! そうか! お前はまだ目覚めたばかりだ! 力は完全には扱えていない!!」
女神を守る結界の隙間だったのか、それとも手を差し伸べた隙を突かれたのか。
ラファエルの言うとおり、完全覚醒を成していないのか。
這わせた木の根は防がれる事も無いまま、女神スノーフィリアの自由を奪う事に成功する。
「うぅっ……」
「さあスノーフィリア、一つになろう……! 今のお前とならば、私は全てを救う事が出来る!」
神樹ラファエルは、絡めとった女神をじりじりと自分の方へ引き寄せていく。
そして、当初の予定通りスノーフィリアと一つになって完全な存在へと生まれ変わり、天界を救う目的を達成しようとした。
「何も苦しむ事は無い、お前の悲願も叶うのだからな……」
女神はゆっくりと確実に、神樹へと近寄っていく。
ラファエルは樹の一部を、食虫植物の口のような形へ変化させて、再びスノーフィリアを取り込もうとする。
共に戦い、彼女を守ってきたルリフィーネもセーラも、ラファエルの手によって倒されてしまった。
世界の破滅を、決死の思いで食い止めようと尽力してきたサクヤも、もう居ない。
このまま、ラファエルの思い通りになってしまうのか?
神として目覚めても、誰も救う事が出来ないのか?
スノーフィリアは、最後の最後までもがいた。
ラファエルの呪縛からの脱出を試みた。
しかし、絡んだ木の根は取れない。
無情な現実と未来だけが、スノーフィリアの眼下に広がっていった。
その時だった。




