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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Last ∞th Part. 地に墜ちた雪花は、天へと昇る
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221. 完全な存在の綻び

 ルリフィーネが必死の攻防をしている時。

 ジョーカードール・エンジェリアと一つになったセーラは、神樹ラファエルの愛によって生まれ変わったスノーフィリアと対面していた。


「あなたもお母様の邪魔をするの?」

「……」

 濁った緑色の瞳で、セーラの方を見つめながらそう問いかけるが、セーラは一切の反応を返さずスノーフィリアの方をじっと見つめているだけだった。


「沈黙は同意とみなす……、故にあなたは死になさい」

「……」

 何ら反応が無い人形を抹殺するべく、スノーフィリアは漆黒のドレスの姫袖が揺れる程度に腕を動かして指をセーラへと向け、呼び出したルリフィーネをけしかける。

 猛然と襲い掛かる最愛の使用人に対して、セーラは冷静な表情を崩さない。


 呼び出されたルリフィーネは拳を振りかぶり、セーラを全力で殴り倒そうとする。


「……」

 今までのセーラならば、ルリフィーネの剛拳を受ければひとたまりはない。

 しかし、エンジェリアの一つなった今の彼女は違っていた。


 最強の使用人の拳を軽々と受け止めると、呼吸を一度だけ深く行い、背中に生えた白い翼を大きく広げる。

 そして、一瞬だけ受け止めた拳へと気合を入れると、呼び出されたルリフィーネは粉々に砕けてしまった。


「天使スノーフィリアが命ずる、大樹の導きよりいずる守護者よ。母に仇なす者を抹消したまえ! 神翠水晶のアンホーリークリスタル神判竜ホワイトジェッジメント!」

 模造とはいえ、最愛の存在が粉微塵になったにも関わらず、スノーフィリアは再び術を発動させる。

 次に呼び出したのは、かつて宰相オルクスを倒した巨大な体と強大な力を携えたドラゴンだった。


 ドラゴンは、術者の直接の指示が無くともセーラの方を向く。

 緑色の霧で視界がほとんど無い中、ドラゴンの力によって攻撃の対象となったセーラが居るところだけ明るくなっていき……。


「……」

 光の波動が、敵諸共周囲全ての生物を焼き尽くす……はずだった。

 だが、セーラは翼を広げて燕のように飛びながら、持っていた短剣でドラゴンの首を落としたのだ。


 ドラゴンの頭と胴体が離れると、明るかった景色は再び緑色の霧に包まれると共に、ドラゴン本体は光の粒となって粉々になってしまった。


「……違う」

 短剣を持ち、消滅してゆくドラゴンを見下ろしながらセーラは一言だけそう告げた。

「天使スノーフィリアが命ずる、大樹の導きよりいずる――」

 余程の小声だったのか、それとも本当に聞こえなかったのか、意を介する必要が無かったから無視したのか。

 スノーフィリアはセーラの言葉にも、かつての窮地を救った存在が消されても、それらにはまるで反応せず、一切動じずに再び術を発動しようとする。


「ぐっ!?」

「はぁ……」

 そんな自分以上に味気なくなってしまったスノーフィリアに対し、セーラは一つため息をつくと、再び高速で飛翔して距離を一気に詰め、短剣を握り締めたままの拳で主人の腹部をえぐるように殴って術の発動を阻止する。


「ねえ、覚えている? 死にそうな私を救ってくれたこと」

 術の妨害に成功したセーラは、スノーフィリアからゆっくりと離れていきそう問いかけた。


 二人の出会いは、決して恵まれたものではなかった。

 セーラは自身が生き長らえるため、極度の渇きを満たすために無実の人々やスノーフィリアを襲った。


 しかし、当時姫だったスノーフィリアは、そんな彼女にも手を差し伸べた。


「どうでもいい事……」

「やはりあなたは違う」

 運命的な出会いすらも味気の無い言葉で返されてしまうセーラだったが、落ち込んだりはせずに、対峙している主君を真っ向から否定した。


「大丈夫? セーラ」

「サクヤ……」

 そんな中、体力と疲労の回復が終わったサクヤはセーラを合流する。


「あいつはスノーフィリア様じゃない」

「どういう事……?」

「あいつは全く別物。妹が教えてくれている」

 エンジェリアと一つになり、強大な力を得た人形が放った言葉は、サクヤを考えさせるには十分だった。


「なら、スノーフィリアは何処に……」

 目の前に居る水神の国の女王が偽者だとするならば、本物は何処に居るのか?

 サクヤは緑色の霧に覆われてしまった大地を見ながら、視線を落として少しの間沈黙すると……。


「……まさか」

 目を細めて眉間にしわを寄せながら、そう一言漏らした。 


「セーラ、ラファエルと戦っているルリフィーネと合流するわよ」

「解った」

 二人はスノーフィリアへの動向を気にしながらも、神樹と戦うルリフィーネに合流しようと地上へ降りていく。


「お母様のところへは行かせない」

 当然、そんな二人を黙って見ているわけもなく、スノーフィリアは再び木製の剣を携えて猛然と二人へと襲い掛かった。


「……」

 セーラは無言のまま、偽者と思わしき女王を迎撃するべく、腰に下げていた短剣を何本か投げつけたが、全て軽々と弾かれてしまった。


 しかし、セーラは投げた短剣に気をとられ、僅かに隙が出来たスノーフィリアの腹部を蹴ると、女王との距離を離す事に成功し、二人はルリフィーネが戦っている場所へ無事に到着したのであった。

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