219. 犠牲の上に生まれ変わる世界①
水神の国で、世界の存亡をかけた戦いが繰り広げられている中。
他の国でもラファエル降臨の影響が出ていた。
――火竜の国にて。
突然空から舞い降りた翼が上下逆さまで顔の無い天使が、無辜の民へと襲い掛かっていた。
顔の無い天使は、人々を見つけると棘のような指で体を貫こうとする。
そして、その天使の攻撃によって傷つくと、体に腐敗が広がっていき二度と動けなくなってしまうのだ。
「な、なんだこいつらは!?」
「助けてくれえ!」
本来、火竜の国の民は武術に長けており、肉弾戦において無類の強さを誇る。
しかし不気味な容姿の天使が無数に現れ、ほんの少しでも傷つけられてしまえば死に直結すると解ると、人々は狼狽し家や財産を捨てて我先に逃げた。
「うろたえるな! 我々は常日頃から心身を鍛えてきた。今こそその力を発揮する時ではないか!」
そんな中でも、顔の無い天使に立ち向かおうとする勇敢な者もいた。
武官の一人が前線に立つと、逃げ惑う民を鼓舞して次々と来る天使達を拳一つで退けていった。
だが、彼の決死の努力と体を張った勇気ある行動は、全て徒労に終わってしまう。
「国王も居ない、強者も居ない。もう終わりだ!」
「この国はもう駄目だ!」
現在、火竜の国は王が不在の状態だった。
国王決定戦でフィレが倒れてしまい、残ったサラマンドラとルリフィーネも行方が解らなくなってしまった。
別途開かれた大会で、ある一人の著名な武術家が玉座を勝ち取ったが、この事態が発覚すると彼は民を捨ててどこかへ逃げてしまった。
「なんと嘆かわしい……。だが、国王不在ではそれも已む無しか……」
強者によって支配されてきた世界で、その強者が不在となれば、民衆の統制が取れるわけもない。
今まで懸命の攻防を繰り広げてきた武官は、手を下ろして目を閉じる。
全てを諦めた者に待っているのは、暗黒の死であった……。
――風精の国にて。
「騎士団はランクの高い者から前線へ行き、天使達を何としてでも街に入れるな!」
「魔術師のみんなは、後方で騎士達のサポートをお願い!」
他の国と同様、突然空から舞い降りた顔の無い天使が、無差別に人へと襲い掛かっていた。
かつて天使と対峙した事もあった”特別な存在”であるラプラタは、その天使の襲来と脅威を瞬時に見破ると、民衆を城内へと避難させ、戦場の最前線に位置する郊外の広場で指揮を取ると共に、自らも魔術で迎撃をしていた。
「ちょっと! こんなん聞いてないわよ!」
「多分、九十パーセントの確率で負ける……」
「シャーリン、ジェリー、泣き言言わないでさっさと詠唱する!」
風精の国の魔術師団で上位ランクといえば、選りすぐりの精鋭揃いだ。
その魔術師であったとしても、ぎりぎりどうにか倒せるくらいに顔の無い天使は強い。
それらが無尽蔵に現れるため、状況は劣勢へと追い込まれていき、戦う者達の士気も必然と下がっていった。
「ねえ、これって……」
「あの時に近いかも……」
その戦場の中、一人の騎士と魔術師が不安げな面持ちのまま顔を合わせる。
彼女達もまた、ラプラタと同じく”特別な存在”であった為、当事者ではなくとも今起きている状況がどういうものかをおぼろげだが察知していた。
「ほーらご両人、イチャついてないで戦った戦った!」
二人の仲の良さは風精の国内でも有名であり、こんな緊急時でも手を繋いでいたせいか、別の魔術師が冷やかし半分でそう告げる。
「いこう、今はこの街を守らないと」
「うん」
「最悪……、変身使うかも」
「その時は私も一緒だからね」
二人は、一部の人達にしか伝えていない隠された力を持っている。
それを使えば、国には居れなくなってしまうかもしれない。
そのリスクを覚悟の上で、彼女達もまた顔の無い天使達との戦いに身を投じていった。




