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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Last ∞th Part. 地に墜ちた雪花は、天へと昇る
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210. 不浄なる福音

 巨大な氷柱は、天使を抱いたまま粉々に砕けてしまった。

 きらきらと緑色の氷の粒が周囲に舞い散る様は、この場に居た全員が息をのむくらいに美しくて切ない。


「ふう……」

 スノーフィリアは一つため息をつき、水晶の乙女へ視線を向けて頷くと、乙女はほんの少し口角をあげた後に光の粒となって消えてしまった。


「終わった……の?」

「やりましたね、スノーフィリア様」

 戦いは終わった。

 世界に終焉をもたらす存在の最期は、誰もが認めるくらいにあっけないものだった。


「スノーフィリア……様?」

 召喚した存在が最高の力をふるった時、スノーフィリアの変身を解けて元の姿へ戻る事を事前に聞いていたルリフィーネは、一行に変身が解けず、返事もしないままただ呆然と立つ女王に対して不安げな表情をしながら声をかけた。


「どうかされましたか? 召喚術の使いすぎですか?」

 連続して召喚術を使った反動なのか。

 それとも他に何か思うところがあるのか。

 主の真意を確かめるべく、そう問いかけた時だった。


「人間風情が、私に気安く話しかけるな」

「えっ!?」

 スノーフィリアは、酷く寒く冷たい口調で誰もが耳を疑う言葉を発した。


「あ、あれ。わ、私何変なこと言ってるんだろ……」

 ふと我に返ると、両手を口に当てながら戸惑いを見せてしまう。


 天使に立ち向かうべく変身してから、スノーフィリアにはいつもとは違う何かを自覚していた。

 それは、気持ちの昂りが抑えられないという事だった。


 元々、変身した時は気分が高鳴るのを自覚していた。

 強弱はあれど、姫として、女王として、天使として変身するときは共通してその思いがあった。

 だが、今回は違っていた。

 いつもならば自制がきくはずなのに、今回はそれが出来なかったのだ。

 その結果、ルリフィーネや苦楽を共にした仲間に対して、絶対に言わない言葉を口に出してしまった。


「君はもう気づいているはずさ、感じているはずさ」

 言った当人も含め、全ての人がスノーフィリアの発言に戸惑っている中。

 聞きなれない声が、何も無い空間から聞こえてくる。


「だ、誰!?」

 全員がその声と共に、緩んでいた気を再び引き締めて周囲を見回していた時。


「やあ、僕だよ」

 黒い喪服ドレスを着た銀髪のポニーテールの少女が、何の前触れも無く突然全員の目の前へ現れる。

 それだけでも驚かせるには十分であったが、少女の背には、先ほどの天使と同じ様に逆さまの翼が生えていた事が、よりこの場に居た一同を驚愕させた。


「何あれ、誰なの?」

「あの少女も天使なのでしょうか?」

「君なら解る筈さ」

 少女は、ミズカやルリフィーネの発言には一切興味も関心も示さず、光が宿っていないエメラルドグリーンの瞳でスノーフィリアを見ながらそう告げた。


「まさか……」

「スノーフィリア様、あの方がどなたか解るのですか?」

「……姿を見るのは初めて、でも私は知っている」

 スノーフィリアは少女の方を見つめると、胸のペンダントを握り締めながら、不安げな面持ちのまま語り始める。 


「私がアレフィに襲われた時、聞こえた声と同じ」

「それって、じゃあ……」

「あの子が、私に変身する力がある事を教えてくれた。解放の言葉を知らせてくれた」

 少女の声は、かつてスノーフィリアが窮地に陥った時、どこからか聞こえてきた声と同じだったのだ。


「そうだよ! いや~、一人目はタイミングが遅くて失敗しちゃったから、二人目は早めに教えてあげたんだけれど、意外とぎりぎりみたいだったからね」

 その発言によって、スノーフィリアだけではなくサクヤも同様であると知ると、雪宝石のペンダントを握る力はより強くなった。


「ねえ教えて! 私は誰なの? この力は何なの?」

 だがそれ以上に、真相を知る存在が目の前にいるという事実が、スノーフィリアを焦らせた。

 女王は必死な面持ちのまま、召喚術の事や自身の正体について、少女の天使へ問いかけた。


「いいよ、教えてあげる。君はここまで実にいい働きだったし、僕はとても優しいからね!」

 そんなスノーフィリアに対して、少女の天使は両手を腰において、とても誇らしそうに言う。


「あいつ、なんか腹立つ……」

 少女の天使の純粋で子供っぽそうな態度には、どこかわざとらしさがあった。

 それが癪に障ったミズカは、腕を組み聞き足をぱたぱたとさせながら苛立ちを露にした。


「まずは君の正体から話そう! 自分でも察しがついているとは思うけれど、君は天使だよ」

「やっぱり……」

「スノーフィリア様……」

 やはりスノーフィリアは天使だった。

 正体が明らかになると、全員は女王の方を見つめながら予想通りと思う反面、どこか畏怖の念を感じてしまう。


「でも、他の天使とは違うんだ」

 付け加えてそう告げられると、視線は再び少女の天使の方へ向けられる。


「天界っていう天使達が住む世界には、天使達を統べる主がいるんだけども、何らかの理由によってその主が不在だった場合、新たな主となるための天使が生まれるんだ」

「まさか、私って」

「そうだよ! 君はその天使なのさ! 天使は本来、髪は明るい金髪で瞳は青色なのだけど、特別な天使だけはその特徴に当てはまらない。その銀色の髪と緑色の瞳が何よりの証拠なんだよ」

「ラプラタ様が言ってた話と全てが繋がった……」

 突拍子も無い真実に、全員が固まっていた。

 スノーフィリアも事実を聞いて体を動かせずにいたが、ラプラタから前に聞かされた話と今打ち明けられた話の内容が一致すると、今まで胸の中でもやもやとしていた何かが無くなったような気がした。


「その特徴なら、あなたも同じじゃない?」

 少女の天使の言う事が本当ならば、金髪碧眼じゃない天使は天界の主となりうる存在となる。

 それは、今まで人の神経を逆撫でしつつ偉そうに語ってきた、この少女の天使も当てはまっていた。

 その事に気づいたミズカは、腕を組んだまま少女の天使に負けないくらいの強気っぷりを見せつつ質問したが……。


「人間のクソガキがいちいち入ってこないでくれる?」

 その一言で一蹴されてしまう。

 この時ミズカは、少女の天使を自身の魔術によって消し去ろうとも考えた。

 だが、今まで謎だった女王の力と存在が解ろうとしているこのチャンスを、独断でふいにする事も出来ず、杖を握り締めながら怒りとぐっと堪えた。


「でも僕は優しいから、下賎な種に対しても寛大に接するよ! 僕達は失敗作だからね。見た目は変わっていても、主になれる天使とは別なんだ」

 ”自身は失敗作”という自分を否定する言葉を吐いても、嬉々としている姿を見たミズカは、少女の天使に対する怒りよりも不気味さをより強く感じてしまい、身を半歩ほど引いた。


「ねえ」

「なぁに?」

「それなら私は天界へと帰って、主にならないといけないの?」

 スノーフィリアの発言により、今まで側に居たルリフィーネはとても悲しそうな表情で主人を見つめる。

 それは、天界の主にならなければいけないという事がどういう事かを理解したからだった。


「んー、別にならなくていいんじゃないかな!」

 意外な別れを予感したその時だった。

 少女の天使は、明るい声のままそう告げる。

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