205. 力の根源②
「その本ね、実は私が即興で書いた物なのよ」
「えっ?」
「特別何も言わなかったから、伝記か古いおとぎ話だと思ったでしょう」
ラプラタの言うとおりだった。
あの借りた本は、そういった類の書物だと信じていた。
だからこそ、本がラプラタ直筆だという事を知ると、スノーフィリアは勿論、近くで話を聞いていたルリフィーネも同様に驚き硬直してしまう。
剣の達人、伝説の吸血鬼、おとぎ話の住人……。
今までは別の世界の住人を一時的に呼び出したと思ってきた。
しかし、振り返れば振り返るほどに、過去に呼び出した者達は、スノーフィリアが今まで読んできた様々な本に出てきた生物ばかりだ。
当然、その中にはフィクションもある。
ならば、スノーフィリアはどこから呼び出しているのか?
そう疑問に思い、考えた結果……。
「じゃあ、私の力って……」
「そう、あなたの力は誰かを呼び出す力じゃない、自身の思い通りに何かを生み出す力、自身の描いた未来を創りだす力。さしずめ創造術と言うべきかしら?」
何かを呼び出すのではなく、全く新しい何かを生み出す力。
それが、スノーフィリアの力の正体だったのだ。
「そうなると、私って」
「あなたは天使よりも、さらに高みにいる存在って事になるわね」
無意識のうちにしていたとはいえ、創造なんて行為はまるで想像もつかず、実感もわかない。
自分の本当の正体について考える事も出来ず、また何故そんな大層な力を身に着けているかも解らず、スノーフィリアの思考は停止したままだった。
「ねえ、どうして地上に降りたかは思い出せない?」
「はい」
確かに天使として地上に降りた。
しかし、それは何のためなのか?
千年単位で地上から姿を消していた天使が、何故今になって現れたのか?
「でも、最近夢を見たんです」
それらの謎を解決する糸口が、今まで見た不可思議な夢にあると直感したスノーフィリアは、真摯な面持ちでラプラタへ話しかける。
「どんな夢かしら?」
「世界が何者かによって壊されていく夢や、古い古い昔の天使達が直面した出来事……」
サクヤも見た、世界崩壊の夢。
自身が見た、天使達の記憶。
それらは断片的であり、接点はあるかどうか怪しいが、今考えれば全く無意味とも思えない。
今まで見た夢と、ラプラタから告げられた真実を結びつける何かを模索している中、スノーフィリアはさらにある一つの事実に気づく。
……サクヤも同じ創造の力を持っている?
「うーん、それだけではちょっと解らないわね」
そう思った時、ラプラタは笑みを残しつつも少し困った表情でそう告げた。
「でも、やはりあなたは私達では想像もつかない役割を担って生まれてきたという事ね」
「……はい」
三人の思考は深まるばかりで、まだ答えには至らない。
結局、この場で悩んでも無駄と察し、ラプラタは会釈を一度して部屋を出て行き、スノーフィリアとルリフィーネは芸術祭の最終調整へと出向いた。
水神の国の街外れにて。
「それにしても……」
ラプラタは、思わせぶりな表情をしながら、スノーフィリア達が居る宮殿の方を見つめる。
「あの子達が退けた”脅威”といい、私が対峙した”天使”といい……」
宮廷魔術師長は、スノーフィリアを含めかつて面倒を見てきた子らを振り返る。
彼女達は例外なく、史上最悪の困難に立ち向かった。
挫けてしまえば、世界の喪失という事態も乗り越えてきた。
「お祭りを楽しんでいる暇はなさそうね」
そう一言だけ誰も居ない場所で呟くと、ラプラタは魔術を使って瞬間的に風精の国へと帰った。




