202. 花をまき散らす者にあらず
水神の国へ戻ると、マリネは一足先に宮殿へと戻っていき、ユキとルリフィーネはホワイトポーラーベアの黄色い毛を求めていた少女の下へ向かった。
そして、目的の物が手に入らなかった事を告げると、村娘はとても悲しそうな表情をしながら……。
「黄色い毛が無いだけじゃなくって、約束の期日も遅れるなんて、嘘つきなの?」
そう冷たく言い放ち、ユキ達から去って行った。
「あ、ちょっと待って! あのね!」
ユキはここまで至った経緯を話そうと呼び止めたが、村娘にはその言葉も届かない。
「追いますか?」
「……うん、ちゃんと本当の事話したい」
普通の権力者ならば、恐らく二度と会わないであろういち村娘の理解なんて、意に介さないだろう。
「それでは行きましょう」
だがユキは違った。
彼女は人と人との理解こそ、全員が幸せになる道の一つだと信じていた。
吟遊詩人の情報が手に入らなくとも、不誠実で不愉快な思いをさせたままではいけない。
そう思い、ルリフィーネに対して一つ頷くと、村娘が去っていた方へ走った。
村はさほど広くなかった為、大した時間もかからず見つける事が出来た。
彼女は、人影の少ない草木が生い茂った場所で、別の少女と一緒に立っていた。
「来ると思ってたよ」
別の少女は、去って行った村娘とは異なり、どこか不思議で神秘的な雰囲気を漂わせつつ、もの思わしげな表情で来た二人へそう告げる。
「あなたは……?」
ユキは、そんな彼女の面持ちに戸惑いながら、別の少女の正体を尋ねた。
「この子の知り合い……になるのかな」
この時、別の少女が自身の名前を名乗らなかった事に少し疑問を持ちつつ、言葉を詰まらせながらも次に何を話せばいいか戸惑ってしまう。
「地霊の国で見たものを聞かせて欲しい。その為に追いかけて来たんでしょう?」
「……うん」
つかみどころの無さに、どう接すればいいか解らないままだったが、ユキは話そうとしていた事をなるべく簡単に包み隠さず二人へ伝えた。
ユキの話を聞いた二人のうちに、村娘は近くの木へともたれながら、からかいの眼差しでユキ達を見つめる。
もう一人の少女は村娘とは異なり、胸に手を当てながら、極上の料理を味わった後のようにゆっくりと頷きつつ、どこか満足げな表情をしていた。
「この世界は理不尽に溢れている」
そしてもう一人の少女は、ユキ達の周りを静かに歩きながら、ゆっくりと語り始める。
「それはあなたが見て体験した以外にもあって、今でも続いている。それをあなたは無くすと告げた」
「うん」
「出来ない事を言うなんて、無責任極まりないね。しかも相手を期待させる分よりたちが悪い」
ユキが告げた言葉と事実、決意をもう一人の少女は真っ向から否定した。
この時も、少女は満足げな表情を崩していなかったが、ユキはそれが自身を試しているように感じてしまい……。
「やってみせるよ」
少しムキになりながらも、自分の気持ちが変わらない事とやりぬく思いをぶつけた。
「何の根拠があって? 天使様ってそんなに凄いの?」
「えっ……」
「あなたがスノーフィリア女王なのは、解っていた」
だが、唐突に女王の正体を見抜いている事を告げられると、ユキの中には別の疑問が生じた。
それは、錯覚の魔術を突破したこの人物は何者なのかという事だった。
「まあ、今はそんな事どうでもいいけどね」
今まで木にもたれかけて話を聞いていた村娘は、ユキともう一人の少女の話に割って入ってきた。
その様は、ユキが二人の謎の少女について考えようとしているのを、邪魔したようにも見えた。
「それで、本当に出来るの?」
もう一人の少女は、ぐっと強くユキを見つめながら、再び問いかける。
「うん、変わらないよ」
対してユキも、真剣な眼差しを向けたまま、もう一度やりぬく決意を露にした。
「”具体的に何をするか”なんて聞けば、あなたはきっと困るでしょうね?」
「……」
少女の言うとおりだった。
ユキは具体的な案を、何一つ持っていなかった。
強い気持ちに対して、それ以外がついていかないもどかしさを、改めて思い知らされてしまう。
「これを」
「これは?」
「王宮に戻ったら開きなさい」
どうしようもない、もやもやとした気持ちになっている中、もう一人の少女から一通の手紙を渡される。
「ねえ!」
「じゃあね!」
何故このタイミングで手紙を渡したのか。
その意味を聞こうとすると、二人の少女はそそくさとその場から去っていってしまう。
「ユキ様、戻りましょう」
「うん」
結局、少女達にユキの思いが伝わったかは解らなかった。
ユキは手紙を大事に抱えると、ルリフィーネと共に王宮へと戻った。
――水神の国、王宮内にある女王の私室にて。
村娘から女王としての相応しい姿へ着替えなおしたスノーフィリアは、少女から受け取った手紙を開封する。
「これって!!」
スノーフィリアは手紙を見た瞬間、今まで暗かった表情に明るさが戻っていく。
「やりましたね」
その手紙には、こう記されていた。
”水神の国の芸術祭で歌います。詳細はこちらから後日連絡します。
吟遊詩人ディア、シセラより”




