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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Seventh Part. 日常から御祭へ
198/232

197. 追うのは希少品か、憤怒の権化か?

 一行はとりわけ会話も無いまま、洞窟を出て宿への帰り道を歩いていく。

 この時、廃墟の町へ寄る事はせず、隠れている獣人達にも青年剣士の事は伝えなかった。

 それは、彼らが巧みに隠れていて気づかれないだろうという期待もあったが、それ以上にユキの精神的な疲労を懸念したからだった。


 そして宿に到着すると、夜も遅かったので荷物を簡単に整理した後に、ベッドで眠りについた。



 翌朝。


「ねえルリ」

「はい」

「私、やっぱり放っておけない」

 目が覚めて帰りの支度のしている中、ユキは下を向きながら、自身のワンピースのスカートをぎゅっと握り締め、今まで溜めていた思いを打ち明けた。

 

「あの人の気持ちだって大切にしたい。でもこんなやり方は間違っているもの」

 青年剣士の底なしの憎しみ。

 それを受け止める事が出来るのは、もうこの地上で誰も居ない。

 彼の言うとおり、獣人達を根絶やしにするしか、彼の荒れた気持ちを治める術は無いのかもしれない。


「いいの? 彼を追えば帰国が遅れるわよ?」

 また、彼にこれ以上関わる事は、すなわち伝説の吟遊詩人の情報が得られなくなるという事だ。

 ユキの決断は本来の目的から大きく逸脱し、また真に欲しいものを永久に得られなくなってしまう事を意味していた。


「ユキ様、彼からは異様な殺気が感じられました。これ以上は危険です。ご自重下さい」

 それどころか迂闊に関われば、自分達の身も危ない。


「……それでもこのままじゃ帰れない。二人とも、わがまま言ってごめんなさい」

 ユキもそれらの事は十分解っていた。

 それでも、彼を放ってはおけなかった。


「そう、それがあなたの意思なら、私達は全面的に手伝いしないとね」

「かしこまりました。このルリフィーネ、全力でお二方をお守り致します」

 これ以上の深入りは危険であるのを、全員は解っていた。

 しかしそれでも、”いつもの女王の答え”を聞けたマリネは、満足げな笑みを見せながら立ち上がり、出かける準備を簡潔に済ませていく。


「地霊の国で、他に獣人の住んでいる場所が無いか、情報を集めるわよ」

「そうですね」

 またルリフィーネも同じく、女王の決断に対して前向きな表情を見せると、ユキと自身の身支度を手際よく済ませていき、全員が再び不慣れな大地にて情報収集をしようと決意を新たにした時だった。


「こっちだみんな!」

 宿の外から、声が聞こえてくる。


「この姉ちゃん達だよ! 獣人が隠れていた場所へ向かったのは!」

 それから間も無くして、ユキ達を獣人の隠れ家としている町の場所を教えた少年や、この村に住んでいる人々が次々とユキ達が居る宿の一室へと入ってくる。


「おいおい、誰かと思えば若くて綺麗な……」

 その中でも、特に身なりがいい中年の男性が三人を見回していく。

「うふっ」

「コホン、一部例外は居るようだが……」

 だが、マリネと視線があった瞬間、わざとらしく咳払いをして自身の発言を訂正した。

「いけずねえ」

「何かご用でしょうか?」

「いや失礼。村の子が獣人の町を襲った犯人を知っていると言ったもんで、もしやと思い来たのですが……」

 その言葉を聞いた瞬間、廃墟の町で隠れていた獣人達も、青年剣士の手にかかってしまった事を確信してしまう。

 夜も更けていた、疲労もあった。

 それでも洞窟からの帰路で、どうして町に寄らなかったのか?

 そんな後悔が、ユキ達の心を侵食していった。


「でも、この姉ちゃん達が……」

「獣人は力が強い。こんな妙齢な女性がとても敵うわけ――」

「村長、あの白い服の使用人って、火竜の国で元国王とやりあった人では……」

 さらに村人達の一人が国王決定戦を見ていたせいで、ルリフィーネの正体がばれてしまう。


「ふーむ、そうなのですか?」

「はい」

 火竜の国に居た時は、色こそ同じだがデザインの違う使用人の服を着ていた。

 だが、それでも誤魔化せないと察したルリフィーネは、隠さないで本当の事を告げた。


「ならば……!」

「待ってください、確かに私は国王決定戦に乱入しましたが、獣人達の命を奪ってはおりません」

 あれだけの壮絶な戦いを繰り広げた人物ならば、獣人達を倒すことも可能だと判断した村の住民達は、手に持っていた農具や工具を握り締める。

 ルリフィーネは、そんな彼らの誤解を解くために手を広げ、武器を持っていない事と戦う意思がない事を全力で示した。


「だが、君達が何の様であんな場所に行く? 怪しいじゃないか!」

「私達はホワイトポーラーベアの黄色い毛を探すため、そこの少年から情報を得て獣人の住む地域へ赴いたのです」

 そして、この旅の目的や獣人の住処へ至るまでの経緯を簡単に伝えると、住民達はお互いに顔を向き合いながら構えを解いた。


「あと、獣人達を襲った犯人を目撃しました。犯人は輝きの国の生き残り、獣人達に故郷を滅ぼされ、復讐の旅を続けている剣士です」

「なんと……」

 付け加えて、獣人の住処を襲った真の犯人の正体を言うと、村人達はざわめきだす。


「疑ってしまってすみません」

「いいえ、解ってくれてありがとうございます」

 村人達は、三人が犯人ではないことを確信すると、どこかばつが悪そうな雰囲気を出しながら、彼女達に軽く頭を下げて謝った。


「私は、その剣士を追っているんです。誰か見た方は居られませんか?」

 そんな中、今までルリフィーネの後ろに隠れていたユキは前へ出ると、青年剣士の情報を得ようとその場に居た村人全員に問いかけた。


 今までざわめいていた一同は、途端に静まりかえってしまった。

 その反応を見たユキは、彼らから情報を得られないと思い、肩を落としてしまう。


「お、おら、そいつ見た事あるぞ! 青い鎧を来た、えらい顔立ちのいいあんちゃんだろ? ここから南西へ行ったぞ!」

 その時、村人の群れの後方に居た、麦わら帽子を被った色黒の男性が、小刻みに震える手を上げながら遠慮がちにそう言う。


「南西? 何かあるのでしょうか?」

「具体的な場所までは解りませんが、このあたりには獣人の集落が三つか四つほどあるのですよ。恐らくはその一つかと」

「……みんな、行こう」

「はい」

「了解~」

 青年剣士は、既に獣人が集まる場所を二箇所襲っている。

 そして今から向かう南西の方角は、今まで襲った場所とは異なる方角だ。


 これ以上の犠牲者を、増やさせるわけにはいかない。

 そう思ったユキは、村人の情報を頼りに南西の方へと急いで向かった。

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