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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Seventh Part. 日常から御祭へ
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195. 汚辱の象徴たる者

「……で、ここがその洞窟ってわけね」

 三人は、獣人の長が指示した通り東へ進んでいくと、横穴の洞窟へと到着した。


「うーん、いかにもって感じだよね」

 洞窟の入り口は、まるで悪魔が生贄を待っているかのように、がっぽりと口が開いている。

 そこからは、暗くどんよりとした雰囲気が漂っており、全員が入る事を躊躇ってしまうほどだった。


「私が先に一人で行って、様子を見てきましょう」

 明らかに危険と解る場所へ、主君や非戦闘員を先行させるわけにはいかない。

 そう思ったルリフィーネは、ぐっと手を握りしめながら単独で洞窟内へ入ろうとした。


「ルリが行くなら私も行く」

 ルリフィーネは主従の関係と思っていても、ユキはそうではない。

 彼女は自身にとって家族同然の存在だ。

 そんな人を、一人で危ない目にあわせたくないという思いが彼女の気持ちを奮い立たせると、ルリフィーネの白い手をぎゅっと握り締めながらそう伝えた。


「ミズカの時みたいに、魔術使われたらルリちゃんだけじゃきついからね」

 格闘術の達人であったとしても、魔術の前には不利である事を過去の経験から知っていたマリネは、主君の大切な人が危険に晒される事が見逃せず、腕を組みつつ片手を頬に当てながら彼女よりも前へ出た。


「お気遣い感謝します。それでは私が先頭を進みますので、皆様は後方をお願いします」

「うん」

「了解~」

 全員はルリフィーネの指示の受けると一つ強く頷き、意を決して洞窟の中へと入っていった。



 洞窟の中は松明が点々と壁にかけられていたため、日が届かない奥地でも十分な明るさはあった。

 そしてそれは、この場所が何者かの生活拠点になっている証拠でもあった。


 三人は警戒しながら、一歩ずつゆっくりと歩いていく。

 正面だけではなく、歩いてきた背後や頭上、床にも気を配りながら進んでいき……。


「お、女の人!?」

 ある程度進むと、一人で倒れている女性を見つける。


「近寄っては駄目です、罠かもしれません!」

 こんな場所で、倒れて動かない女性が居る。

 その事が既に異常事態であり、無抵抗の人を利用した辛辣な罠という可能性もあり得る。

 そう思ったルリフィーネは、助ける為に近寄ろうとしたスノーフィリアを呼び止めた。


「しかし、いよいよ怪しくなってきたわね」

 また、マリネもルリフィーネと同感であり、うかつに倒れている女性には近寄らず、ちりちりと燃える松明を見ながら今後どうするかを考えた。


 その時だった。


「誰か居るのか?」

 洞窟の奥から声を聞こえると共に、獣人の男が現れる。

 その者は廃墟の町で出会った者達とは異なり、体の大きさはルリフィーネ達の数倍はあり、薄汚れた腰巻しか身に着けておらず、いかにも野蛮そうな雰囲気を出していた。


「それ以上は近寄らないでください!」

「お、おい……」

 ルリフィーネに圧倒されたのか?

 それとも別の何かを懸念したのか?

 この洞窟の侵入者三人よりも大柄な獣人の男は、震えながらその場でたじろんでしまう。


「どうした? 何かあったのか?」

「新手!」

 狼狽している獣人とは別に、新たな獣人が奥から現れる。

 両者の只ならぬ様子に、新たに現れた獣人も同じ様に慌ててしまう。


「あれ……、お前達……」

「致し方ありません。これ以上増援を呼ばれる前に……」

 このままでは次々と仲間を呼び出されてしまい、ユキやマリネをより危険にさらしてしまう。

 そう思ったルリフィーネは、すかさず獣人へと近寄ると……。


「ぐはぁっ!?」

「お、おい! うあぁっ!?」

 二体の獣人の懐へ入り込み、強烈な一撃を食らわす。

 彼らの大きな体が一瞬地面から離れると、白目をむき泡を吹いてそのまま後方へ倒れてしまった。


「ふぅ、危うく取り囲まれるところでした」

「さすがルリだね」

 究極の格闘術を身に着けた獣人サラマンドラと戦った使用人にとって、並の獣人はごく普通の人と変わらない。

 ルリフィーネは一切呼吸を乱さず、純白のメイド衣装が汚れる事も無く、この場を治める事に成功したのだ。


「でも、長の言うとおりかもしれないわね」

「醜悪な獣人の討伐……」

 マリネとユキは、倒れている獣人を見ながらそうつぶやくと共に、ある出来事を思い出す。


 それは、世界大戦終結から間も無い時に起こった。

 普段は人目につかないような場所でひっそりと暮らす獣人達であったが、その中の一部が人間達の町を襲ったのだ。


 平常時ならば、常駐していた兵士達によって町は守られただろう。

 だが、その時は運悪く兵士達は別の理由で町を離ていた。


 町は外敵に対抗する武力もなく、女子供と老人と僅かな民兵しか居なかった。

 攻めてきた獣人達は町に残っていた男達や老人を殺害し、女は年頃の娘は勿論の事、成熟した女性や、成人の儀も終えていない少女すらも犯しぬいた。


 ユキもルリフィーネもマリネも、直接その場に居合わせたわけではない。

 だが、戦後の混乱に乗じた卑劣で残忍な歴史として、有識者や本から習っていた。


「とりあえず、倒れている人を助けよう」

「うん」

 その時の町を襲撃した獣人達の行方は、今も掴めていない。

 もしも、この洞窟に潜む者達がそうだったならば……。


「多分酷い事もされて……、あっ」

「どうかしましたか?」

「この人、怪我してる」

「やっぱり……、既にやられていたなんてね」

 三人の予想通りの展開になっていく。

 この人は既に、獣人達に何もかもを蹂躙された後……。


「あれ、これって……」

 そう思った時だった、ユキはあるものを見つける。

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