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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Seventh Part. 日常から御祭へ
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192. 神秘と信仰の大地へ

 約一日の船旅を終えたユキ、ルリフィーネ、マリネは、地霊の国の港へと到着し、かの国の大地を踏みしめる。


「ようこそ、地霊の国リゾートへ! 遊んでいかない~?」

 それと同時に、目が痛くなるほどカラフルなシャツと半ズボンを着た男の人が、陽気な声でユキ達に話しかけてきた。


 地霊の国は、現在二つの大きな勢力が覇権争いをしている。

 実際の武力行使は当然だが、商業や観光も同様に互いがしのぎを削っているのだ。

 風体から、声をかけてきた人はその勢力の片方であり、地霊の国の土着民であるルナティックの人達なのは、ユキも察しがついていた。


「今は急いでいるの、ごめんなさい」

 だが、ユキはそのようなもてなしを受けている場合ではなかった。

 ホワイトポーラーベアが生息する土地は、地霊の国でも南方の山を越えた場所で、移動に時間がかかるからである。

 だからユキは、彼の誘いを丁重に断った。


「そ、そんな! ほら、きっと期待されていますよ! ね!」

 しかし、派手なシャツの男は意味深な言葉を言いながらどうにか引きとめようとしてきた。


 何を期待しているのか?

 それは越権行為なのではないか?

 ユキはそう思いつつも、隣に居たルリフィーネの方を見ると……。


「うーん……」

 自身の使用人が、他の観光客と同様に下着のような姿で、砂浜を走っている風景を想像する。

 ユキはルリフィーネの裸を真剣には見た事はなかったが、それでもその姿はとても美しく、絵になる光景だった。


「私はこの服を脱ぎませんよ?」

 だが、察したルリフィーネはいつもの穏やかな笑顔で、自身は着替えない事を”強く”伝えた。

「そうだよね……」

 この時、ユキはどこか残念そうだった。


「ユキ様こそどうでしょう?」

「わ、私?」

「はい」

 そう言われると、ユキ自身が同様の格好をしている姿を想像する。

「私、ルリ程ないもの……」

 そして、視線だけ下の方へ向けると、大きなため息を吐きながらそう言った。

 ルリフィーネは、残念そうな主人に対して申し訳なさそうにしながら、笑顔でなだめた。


「じゃあ私がしてみようかしら?」

 そんな花も恥らう年頃の少女達のやり取りに、今まで腕を組んで静観していたマリネが割って入ってくる。

「……」

「……」

 その言葉につられ、今までと同様にマリネの薄着姿を想像しようとした。


「い、いきましょうか。ユキ様」

「ごめんなさいっ!」

 だが、その想像が明瞭になるまえに嫌な予感を察知したユキとルリフィーネは、大きく頭を下げてその場をいそいそと去ってしまう。

「もー、遠慮しなくていいのよ?」

 マリネは鼻を一つならすと、淑女のような佇まいのままそんな二人を追いかけていった。



 一行は、なるべく戦争の影響が少ない地域を抜けていく。

 馬車を何台も乗り継ぎ、山を越えていき、日が最も高くなった頃に、ようやくホワイトポーラーベアがいる地域へ到着した。


 ホワイトポーラーベアの生息地は寒冷地帯であり、昼間なら水神の国の格好でも問題ないが、日が没すれば心もとない。

 その地域の村にある宿の一室を借りた一行は、早々に部屋へと入り着替えを済ませていく。


「ユキ様、その格好では体に障ります。これをお召し下さい」

 この時、ルリフィーネはユキが寒さで体調を崩さないよう、自身お手製のケープを渡した。


「あったかいー」

「ふふ、喜んでいただきありがとうございます」

 ユキは笑顔でそのケープを受け取り早々に着替えると、ケープに顔を寄せたり、その場でくるりと回ったりする。

 そんな無邪気な様子を見たルリフィーネは、笑顔でユキへ感謝した。


「ルリちゃん、本当何でも出来るわねえ」

 裁縫は勿論、他の家事炊事全てを完璧にこなす。

 あまりの優秀さに、マリネは素直に感心してしまった。


「主人に不便が無いよう、最善を尽くしてきました。ですが、私は万能ではありません」

 何でも出来る最強のメイド。

 しかし、そんなルリフィーネも全知全能ではない。


「魔術は一切使えませんし、あと専門的な知識となればその道のベテランに劣ってしまいます。私がこうやって使用人として専念出来るのは、優秀な皆様がユキ様を支えて下さっているからなのですよ」

 機械の世界で生まれた者であるが故に魔術は一切使えないというのも、彼女が完全無欠ではない事を裏付ける要因の一つだ。


「まあ、神様じゃあるまいし確かにそうね。でもお世辞はベテランの域よ。うふふ」

「ありがとうございます」

 ルリフィーネの言葉に”ベテラン”であるマリネは気分を良くしたのか、頬に手をあてつつ少し得意げな表情した。


「着替えも済んだし、早速行きましょうか」

「うん」

「はい、かしこまりました」

 そして全員が寒冷地向けの身支度を済ませると、ホワイトポーラーベアが居る場所へと向かった。



 近隣の村から歩いてしばらく経った時。

 ユキ達は目的地であるホワイトポーラーベアが群生している土地に到着する。


「行く時期によっては、地面が凍って猛吹雪になるって話らしいけど、今はその時期じゃなさそうね」

「ちょうど良かったね」

 この地域は本来、雪と氷で覆われる場所らしい。

 一同は、目の前でのどかに歩いている白熊達を見ながら、動きやすい時期に行けた幸運を喜んだ。


「さあ、時間がありません。明日の早朝までには出発しないと水神の国には戻れませんからね」

「うん、解った」

 ホワイトポーラーベアの黄色い毛を採取する。

 そんな不思議な依頼をこなして伝説の吟遊詩人の情報を得るべく、三人は別々に行動し、一匹ずつ白熊達を見てまわった。

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