190. 探すのは白熊の黄色い毛
スノーフィリアは混乱が生じないよう、村娘のユキとして伝説の吟遊詩人が滞在している村へ向かう。
そして現地に到着すると、共に来たルリフィーネと手分けして村人に話を聞き回った。
「少し良いですか?」
「はい、なんでしょう?」
「ここに伝説の吟遊詩人が来たみたいですが、見ていませんか?」
「え? そうなの? 初耳よ」
「……そうですか、ありがとうございました」
しかし、これといってめぼしい情報は得られない。
「あの、すみません」
「んー? どうしたお嬢ちゃん」
「ここに二人組の女の子達を、見ませんでしたか?」
「女の子? ヘラクスんとこのチビか?」
「えっと、伝説の吟遊詩人って言われてて、名前がディア、シセラっていうんです」
「知らんなー」
「ご迷惑をおかけしました」
それはユキも同様だった。
村人は、本当に伝説の吟遊詩人が居るとは思えない反応を返す。
ディアとシセラは、世界的に有名な人物であり、芸術に詳しい貴族だけが知っているというわけではない。
だからこそ、手がかりがまるで無いという事は、情報そのものが間違っていたという可能性を示唆させてしまう。
「こっちは駄目だった、ルリはどう?」
「私も何も得られませんでした」
「うーん、もう居ないのかなぁ……」
「間違った情報を伝えてしまったみたいですね、申し訳ございません」
「ううん、ルリは悪くないもの」
二人は合流し、お互い成果が得られなかった事を伝えた。
ルリフィーネはとても申し訳なさそうに深々と謝ったが、ユキはそんな使用人の手をぎゅっと握りながら、残念な気持ちを胸にしまいこみつつ笑顔を見せた。
「戻ろっか」
「はい」
もうこれ以上、ここに居ても意味が無いと察した二人は、村から去ろうとする。
その時だった。
「あの、すみません」
「はい」
隣から、ここの村娘と思われる少女が声をかけてくる。
「実はお願いがありまして……」
「なんだろう?」
彼女は、とても困った表情をしながら、ユキ達に何かお願いをしようとしてきた。
「すみません、今私達は急ぎの用事をしている最中なのです。ですから――」
しかし、流石に国の長に雑務をやらせるわけにはいかなかった為、後ろで聞いていたルリフィーネが前へ出て、やんわりと村娘の願いを断ろうとする。
「ホワイトポーラーベアの黄色い毛を、採ってきて欲しいのです」
だが、村娘はルリフィーネの話を無視して願いの内容を伝えた。
話の間に割って入られた使用人は、主人と目を合わせると思わずきょとんとしてしまう。
「えっと、ホワイトポーラーベアって、地霊の国に居る……?」
「はい」
ホワイトポーラーベアとは、水神の国より南方にある四大大国の一つ、地霊の国の寒冷地域に生息する白い毛並みの熊だ。
その事自体は既に習っており、実物を見ていなくても存在は知っていた。
「うーん……」
しかし、ユキが引っかかったのは、白い熊にも関わらず黄色い毛を採ってきて欲しいという内容だった。
別の地域ではあるが、黄色い毛の熊も存在していた事は知っていたので、そっちと間違えているのではとも思えた。
「そういえば、先ほど女の子二人組を探していましたよね?」
「うん」
「私、その子達を見たんです」
「えっ!」
真意をはっきりとさせるために、ユキから質問しようとした時だった。
村娘は、伝説の吟遊詩人を目撃した事を告げると、ユキは質問する事を忘れてしまう程に驚いてしまう。
「……ホワイトポーラーベアの黄色い毛を採っていただければ、その子達についてお教えします」
「解った。やれるだけやってみる」
結局、この村娘の願いを叶える事が目標に一番早くたどり着けると信じたユキは、ホワイトポーラーベアの黄色い毛という不思議な注文を受ける事を告げた。
「ありがとうございますっ!」
今まで困り顔だった村娘の表情が年相応の明るさになっていき、ユキ達もそんな無邪気な様子に胸をほっこりとさせてしまう。
「出来れば三日後までにお願いしますね! それじゃあ!」
「えっ、ちょっとー!」
だが、あまりにも短い期日を伝えられると、ユキは身をすくませてしまう。
どうにか期日を延ばして貰おうと試みたが、村娘はそそくさとどこかへ行ってしまった。
「……とりあえず相談かな」
「そうですね」
このまま約束を反故に出来なくはないが、折角手に入れたチャンスをみすみす手放してしまうのは惜しかったため、ユキとルリフィーネは一旦王宮へと戻り、有識者へ相談する事を決めた。
――水神の国、王宮内の執務室にて。
「と、いう訳なの。マリネは知らないかな?」
まず彼女達は、新世界でも頭脳として働いていたマリネの下を尋ね、今回あった事を簡潔に伝えた。
「うーん、生物学は専門外だから、詳しくは解らないわねえ」
マリネは魔術もそうだが、特に錬金術と練成術に知識が深い。
それ以外にも、豊富な人生経験を生かして、ユキ達へ有用な助言を幾度としてきた。
しかし、そんなマリネでも解らなかった。
「ホワイトポーラーベアは、その名前の通り白い毛で覆われた生き物です。その生き物の黄色い毛とはどういう意味なんでしょう?」
「そうだよねえ、それが私も気になってて……」
誰もが疑問に思っていた、白熊の黄色い毛。
その答えを導き出せない三人は、各々別々の体勢で悩んでしまう。
「ミズカもくろも、専門は錬金術や魔術だから、生物学に対する知識は私と似たような感じね」
「そうだよね……」
「他の学者に聞く?」
「勝手に頼みごと受けたなんて知れたら、怒られるよね……」
「まあね」
頼める人たちでは情報が手に入らず、他の専門家を頼ることは出来ない。
「じゃあ、もう打つ手は一つじゃない? あなたの事だから直接行くんでしょ?」
「出来れば行きたい」
そうなれば、ユキ達がする事は一つ。
実際に地霊の国へ赴き、ホワイトポーラーベアの黄色い毛を直接見て確かめる事だ。
「まあ、あの国なら、独特な宗教体制を視察という名目で行っても違和感は無いわね。でも、行くなら私も付いていくわよ? ただでさえ随伴者が少ない、専属使用人だけというのは心許ないって文句言ってる人らもいるし」
当然だが、女王が長期間城を空けてはならない。
今までどうにか腐心しながらも理由を作って出て行ったが、それも限度がある。
「ありがとう……」
今までの出来過ぎた展開に、宿命じみた何かをユキは感じつつも、知識知見があるマリネの随伴を喜んだ。
「それじゃあ早速出発の準備をしましょう」
「はい」
「かしこまりました」
こうして一行は、地霊の国へ向かう事となった。
各自は早々に準備を済ませ、水神の国を出立した。




