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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Seventh Part. 日常から御祭へ
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189. 祭りに向けて

 二人がそれぞれの旅を終えてから、しばらくの時が経ったある日。


「ルリ、話があるの」

「はい、何でしょうか?」

 公務がひと段落したスノーフィリアは、真剣な面持ちのままルリフィーネに呼びかける。

 普段の女王の態度とは違う事を察した使用人は、同じ表情をして主人の言葉を待つ。


「お父様とお母様はどこにいるの?」

 そして、ルリフィーネ失踪の際に得られた情報から、導き出された可能性をぶつけた。


「随分はっきりとお聞きになるのですね……」

 そのあまりにも大胆で真っ直ぐすぎる意思に対し、ルリフィーネは少し気おされながらそう言うと、一つ鼻を鳴らした後……。


「スノーフィリア様が思われている通り、前国王殿下と王妃殿下はご存命です」

 今まで襲撃を受け、死んだと思われていた女王の両親が生きている事を告げた。


「じゃあ――」

 その嬉しい知らせを聞き、スノーフィリアはすかさず所在を聞こうとした。

「それは出来ません」

 しかし、使用人は女王のこれから下される命令を、頑なに拒絶する。

「どうして!」

 この時、スノーフィリアは冷静さを欠いていた。

 普段からは想像もつかないくらいに荒々しく、大きな声でルリフィーネへ言えない理由を問いかけた。


「申し訳ございません。お二人のご命令なのです」

「そんな……、どうしてなの……」

「ですが、”全てが終われば、再び会おう”とも、言われておりました」

 何故子供に会わないのか?

 どうして国を捨てたまま隠者として暮らしているのか?

 意味深な言葉だけを告げられたスノーフィリアは、当然二人の真意を理解出来る事もなく、たちまち表情は悲しみの色に染まっていった。


「……解ったよ」

「ご理解感謝致します」

「こっちこそ大声出してしまってごめんなさい」

 これ以上、ルリフィーネに問い続けても彼女が困るだけだ。

 最強の使用人は、主人の命令には絶対に背かない。

 その事は身をもって解っていた為、目をこすりつつ声をあげてしまった事を謝ると……。


「それでは、まず直面に控えている事から片付けましょう」

「うん、そうだね」

 気分と話題の転換をするべく、二人は別の問題について話し始める。


「近々行われる、水神の国最大の祭典、アクアクラウン芸術祭に関してですが……」

 水神の国は、芸術の国と呼ばれている。

 それは過去の実績も大きいが、それと同じく数年に一度の間隔で国が総力をあげて開かれる、当時の国王の姓を借りた祭典にもあった。

 風精の国建国祭、火竜の国の国王決定戦、水神の国の芸術祭は世界三大祭典と呼ばれており、国内外から多くの人が集まる催し物だ。


「大体人選も済ませているし、物資の手配も終わっているよ。マリネ達のお陰だね」

「はい。皆様有能ですからね」

 大規模な祭典故に、前準備も相応の時間がかかる。

 従来ならば、その準備に数十日はかけてきた。

 だが今回は、旧新世界の”お祭り好き達”の頑張りによって、この十数日で芸術祭の準備はほとんど終わっていたのだ。


「ですが、まだ芸術祭の主役の方と出し物が決まっておりません」

「うん……」

 しかし、有能な人達の頑張りでも解決出来なかった問題が一つだけ残っていた。


「候補の人は何人か居たんだよね?」

「はい」

 芸術祭の主役。

 それは芸術家にとって大変な名誉であり、目標にしている者も多い。


「ですが……、全員辞退してしまったのです」

 ゆえに責任も重大であり、万が一醜態を晒せば芸術家生命はまず間違いなく絶たれてしまう。

 今までも、候補にはあがったが敢えて主役を辞退する者も居た。


 そして今年はなんと、今回は候補者全員がそうだったのだ。

 その結果、主役不在という状況に陥ってしまったのである。


「スノーフィリア様、一つ提案があるのですが」

「何か良い案があるの?」

「二人組の吟遊詩人を、呼んでみたらどうでしょう?」

 ルリフィーネが口にした人物。

 名前はディアとシセラといい、彼女達を知る水神の国の著述家達は”世界を平和にする一番の近道は、彼女らの演奏を聞く事である”、”彼女らの演奏は魂にまで響く”、”女神という存在がいるとするならば、それはメロディーを奏でている彼女らの事だろう”と評するほどの実力の持ち主である。


「うーん、それは無理だと思う……」

 しかし、彼女達は全てにおいて気まぐれだった。

 世界各地を回り、音楽を通じて人々を活気付かせる活動をしているせいか、いつ、どこに現れるか全く解らず、仮に彼女達に接触出来たとしても、演奏してくれるとは限らない。

 今まで多くの貴族や王族が彼女達に魅入ってしまい、彼女達を囲おうとしたが、どんな好条件を提示されても首を縦に振る事は無かった。


 それら振る舞いから、彼女達の存在はもはや伝説となっている程だった。


 スノーフィリアは、彼女達の演奏を聞いた事は無かった。

 だが、噂としてその事は知っていたため、伝説の吟遊詩人に頼むのは不可能と考えていたのだ。


「何でも、今王都近くの村に滞在しているみたいですよ。直接お会いになられて、駄目元でお願いしてみても良いかと」

 彼女達の所在を口伝で知ったルリフィーネは、その事を主人へと告げる。

 この時、使用人の表情はいつもの優しく穏やかなものになっていた。


「うん、解った。一緒に行こう」

「ありがとうございます」

 万が一、彼女達を芸術祭の主役と出来たのなら、今までで最も盛り上がるだろう。

 スノーフィリアはそう思い、村娘の格好へと着替えなおして、ルリフィーネと共に近隣の村へと向かった。

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