185. サクヤとユキの旅 ~人形達が生みだされた場所~
ユキの視界の中に入ったもの。
「こ、ココ? 何でどうして!?」
それは、ユキの親友であるココが、透明なガラスの檻の中でぐったりと眠りにつく姿だった。
彼女は現在、紹介した画家の下で絵を勉強しているはず。
どうしてこの場所に居るのか?
そう思った時だった。
「この少女は、かつてあなたと対峙した、ジョーカードール・アーテスタと呼ばれる人形です」
カグヤの言葉を聞き、ユキは過去を思い出す。
初めて出会ったのは、風精の国の地下水道だった。
そこでユキは、彼女の発言によって自身がした行いを省みさせられた。
また、次に出会った時は、力でユキの仲間を傷つけた。
それら暗い出来事と、この人形の出生を振り返ると、必然と気持ちは沈んでいった。
「じゃあ、もしかして……」
「申し遅れました。私はこのジョーカードール研究施設の管理者であり、人形達の生みの親」
そして、カグヤの本当の正体が解ると、ユキの胸中が酷くざわめきだした。
「あなたがそうだったのね……」
「はい」
「ねえ、この場所って……」
「ユキ様の想像の通り、ここはサクヤが所属していたトリニティ・アークが、身寄りの無く、かつ先の短い少女達を救済するために作られた場所なのです」
神を祀る場所で行われている、神聖とはとても程遠い行為。
それらの概要を知ったユキは、カグヤの話す言葉のある部分が引っかかってしまう。
「先の短い?」
「多くの国々を巻き込んだ大戦。その戦火はあらゆるものを飲み込んでいきました」
「戦争で、身寄りが無くなった子達を改造したんでしょ! そんなの救済じゃないよ!」
先の短いというのは、一人では生きていけず孤独死してしまう事だと思い、ユキはカグヤの言葉に強く反論した。
「……そうではありません」
「じゃあ何? こんな事をしても許されるほどの理由が、あなた達にはあるの!?」
カグヤは、荒々しいユキとは逆に静かに否定した。
この時、彼女の穏やかな表情は曇ったような素振りを見せたが、ユキはそれでも強い口調のまま迫った。
「戦争は、数多くの非人道的な魔術や奇術を生み出してきた。その中で、特に女児のみを狙う魔術があったのです」
それとジョーカードールと何の関係があるのか?
そう思っていた時だった。
「その魔術にかかった女児は急激に老化が進み、大した時間を待たずに衰弱死してしまう。恐らくは将来的な脅威を潰えさせる目的でしょう」
大戦に勝てば領地も大きく広げる事が出来、国力の大幅な増強にも繋がる。
だからこそ戦に参加した国は、他のどの国よりも技術や科学を研究した。
カグヤの言った魔術に関してユキは知らなかったが、その過程で生み出されたモノの一つなのだろうと、察すると共に、その魔術の非道さに顔をしかめてしまう。
「組織はその魔術の撲滅をすると同時に、魔術にかかって幾ばくの命しか無い彼女達を救うため、そして我々の目的の為、ここに集めて改造したのです」
「それでも……、そんな事していい理由にはならない!」
その魔術にかかった少女が、理不尽な理由によって命を散らせてしまう。
だがそうであったとしても、兵器として生きた少女を人体兵器ジョーカードールに改造していい道理なんて無い。
ユキはさらに強い口調で、かつ手振りまでつけてカグヤへ反論を続けた。
「はい。だから私達の行いを正当化したり、許して欲しいだなんて思っていません。私達は目的の為なら犠牲を厭わないと誓った身。その目的が果たされた時、どんな責め苦も受け入れましょう」
「目的って、サクヤと同じ世界を救う事……?」
「そうです。あなたと同じです」
ユキが現実にも似た夢で見た風景。
何者かによって国も、民も、大切な人も、自分さえも死に絶え壊されてしまう。
それは絶対に阻止しなければならない。
世界の破滅を食い止めるため、ジョーカードールを生み出しているという事を理解したユキであったが、それと同時に一つの疑惑が浮かび上がる。
「ねえ、私がここへ連れてこられた目的って、私を改造するの?」
それは、ユキがここへ連れてこられた理由だ。
自分自身をジョーカードールとして改造し、破滅に対抗する兵器へと仕立て上げようとするのではないのかという悪魔じみた計画。
そう思ったユキは、胸の雪宝石のペンダントを握り締め、いつでも変身出来るよう身構えた。
「先ほどもお伝えしたとおり、ユキ様に一切の危害は加えません。それに、あなた様の力は得難いもの。それを損なうのは我々の目的に反するのですよ、スノーフィリア女王陛下」
だが、カグヤは再び穏やかな表情をしながら、すかさずそう伝えた。
「じゃあ何をしたいの?」
「もう少し奥へいけば、お教えしましょう。もう一度だけ敢えて言います、あなた様には一切の危害は加えません」
「……解った」
ここまで連れてきて何をするのか?
胸が悪くなるくらいに酷い行いをしてきた彼女達の、次の一手は何か?
ユキは不安を募らせながら、カグヤに導かれるまま、人形達の生まれた場所のさらなる奥へと入っていった。




