184. サクヤとユキの旅 ~祀られし場所へ~
「()」内の言葉は東方の国の言語であるため、ユキには理解出来ません
二人はしばらく歩くと、ある場所へ到着する。
「さあ、着いたわ」
悠然と構えている独特な形をした門をくぐり抜けると、砂利が敷き詰められて綺麗に整備された庭園の中に、赤と白を基調とした木造の建物が佇む、ユキが今まで体感した事無いような空間が広がっていた。
「なんか不思議な感じ……」
東方の国の社は、その地域の神々を祀る場所だ。
ユキはその事を知らなかったが、どこか厳かな雰囲気を感じたのか、周囲を見渡しつつ感嘆しながらそう口にした。
「(おかえりなさい、サクヤ)」
そんな中、建物の中から一人の女性が出てくる。
その人物は、すらっとした体型を腰からは上は着物と同じ構造の白い服と朱色の襞状のスカートで包んだ、長い黒髪をしわ一つ無い紙で結っている、切れ目が印象的な女性だった。
「(ただいま、あなたも元気そうね。カグヤ)」
東方の国の言葉でやり取りをする二人。
ユキには彼女達の言葉は理解出来なかったが、サクヤが先ほど出会った少女と話している時と同じ表情をしていたため、彼女にとって親しい人物なのだろうと察した。
「彼女はカグヤと言って、このお社様の巫女を務めているわ」
そうサクヤから紹介され、ユキは再びカグヤの方を見る。
うっすらと浮かぶ微笑、瞳の中の強い輝き、巫女用の着物と思われる衣装にはしわ一つ無くて、一切着崩していない。
神に仕える特別な女性と裏付けるには、十分すぎる程の人物だった。
「(サクヤ、彼女があなたの伝えてくれた人?)」
「(そうよ。連れてくるのが遅くなってしまってごめんなさい)」
「(いいえ、大丈夫よ。ようやくですね)」
「(ええ)」
「初めまして異国の方。私はここの巫女を務めているカグヤと申します」
今まで東方の国の言語で話していたカグヤは、改めてユキへ簡素な自己紹介を済ませる。
「名乗っていただきありがとうございます。私はユキです」
突然、世界共通言語で話されてしまったため、ユキは少し戸惑う。
だが、姫として女王として、対外的に要人と何度も接してきた経験が生きたのか、すぐさま礼を失さない様に返事をする事が出来た。
「ユキ様、よくこの東の果ての国までお越し下さいました。今日はここでゆっくりと体を休めてくださいませ」
「言葉、喋れるんですね。凄い……」
何の淀みもなく、つっかえる事も無く。
たどたどしい部分も一切無い、まるで日常生活で使ってきたのかと思わせるくらい流暢に話されてしまい、ユキは思ったことを率直に伝えた。
「ふふ、ありがとうございます。ですが、サクヤに比べればまだまだですよ」
両国の言葉を巧みに使い分け出来ている二人の少女に、ユキは感動してしまう。
「さあ、立ち話も何ですから、こちらへどうぞ」
「はい」
お互いの挨拶が終わると、ユキとサクヤは社の中へと通される。
そして、その中にある客室で簡素なもてなしを受けると、旅の疲れを癒すべく早々に床へついた。
翌日。
サクヤとユキは、軽い朝食をとった後、カグヤに社の奥へと連れられていく。
「おはようございます。昨晩はよく眠れましたでしょうか?」
歩く時、木造の床がきしむ音しかしない中、カグヤはほんのりと笑顔を見せながらユキへ話しかける。
「はい」
「それは良かったです」
ユキは船旅の疲れを癒す事が出来た。
それは、かすかな水のせせらぎと虫の音、そして外から抜ける涼しい風によって、寝床が変わってもとても気持ちを落ち着かせる事が出来たからだ。
その事を聞いたカグヤは何も言わず微笑むと、三人は無言のまま社の最奥の部屋へと入る。
そこは、この社に祀られている円形の鏡が置かれている場所だった。
「あの、どこへ行くんですか?」
ここまで来ても、この旅の目的を打ち明けて貰えていない。
今更サクヤが何か良からぬ事を企てているとは思えない、だがそれでも過去の経験上、来て欲しくない未来を想像し、ユキは不安になってしまう。
「この社の地下。私とサクヤとごく一部の人しか知らない禁忌の地」
その言葉を聞き、不安はより一層強くなってしまう。
禁忌の地とは一体何なのか?
そこで何をするのか?
今更戻る事も出来ず、助けを求めるにもここは異国だ。
「ご心配なさらずに。あなた様には決して危害を加えたりは致しません」
ユキのそんな心境を察したカグヤは、再び穏やかな笑顔を見せながらそう言った。
カグヤは、サクヤの味方である事は疑いようが無く、その発言が絶対に信用出来るという保障も無い。
しかし、彼女の発言はどこかユキを安心させた。
そんな会話の後、カグヤは祭壇にある鏡に手を当てる。
すると鏡が鈍く淡く輝きだし、部屋の床の一部が抜けて下り階段が現れると、一行はその階段を下っていく。
「あの」
「何でしょうか?」
「サクヤとカグヤさんって仲がいいんですね」
長く薄暗い階段が続く中、ユキはサクヤとカグヤについて聞いた。
「サクヤの母と私の母は、四人兄弟の長女と次女なのですよ。縁者は他にも居ましたが、特に交流が深かったのがサクヤで、幼少の頃は本当の姉妹のように遊んでおりました」
「そう、カグヤは私を理解してくれる数少ない人」
誰も理解せず、自身の考えを打ち明けない。
そんな印象が強かったサクヤからの、想像もしない一言。
それはユキに、それだけお互いが強く信頼しあっていると思わせるには十分だった。
「到着しました」
二人の強い絆を、改めて確認した時。
長かった下り階段は終点を迎え、目の前には一つの木造の扉が現れる。
「少々お待ち下さい。今開けますので」
そう言いつつカグヤは、木造の扉へ手をかざす。
すると、手の平と扉の取っ手部分が輝きだし、大した時間をおかずして、扉は重く鈍い音を発しながらゆっくりと開いていく。
「これは!」
扉の先に広がるモノを見たユキは、一切予想しなかった光景に思わず声を上げてしまう。
「そう、ここが人形達の生まれた場所。ジョーカードール発祥の地であります」




