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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Sixth Part. 国から国へ
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180. サクヤとユキの旅 ~東の果てにある小国へ~

 ユキは平民達が利用する商船へと乗りこむ。

 他の乗客と共用の客室の隅へ座ると、船は出港して東方の国と水神の国の中継地点にある孤島の港町へと向かう。

 この時、ルリフィーネとは既に離れており、久しぶりの一人旅に懐かしさと好奇心と不安感を抱いていた。


 船内は人が多いにも関わらず静かで、仮眠をとったり本を読んだりして、各々は退屈な時間を潰している。

 当然、ユキが水神の国の女王スノーフィリア・アクアクラウンである事に、気づく者はいない。


 ユキは、外の海原を見てこれからの事を考えていた。

 サクヤと個人的に出会い、旅をする。

 そこには最も信頼しているルリフィーネの同行すら許されない。

 そこまでして何を成したいのか。

 ユキの想像は、いい意味でも悪い意味でも羽を広げたが、どれも決定的な根拠が無かったため、そのまま空中へ飛び去り霧散していった。



 それから半日後。

 商船は孤島の港町へと到着する。


 東方の国は鎖国政策が施行されており、一部の船以外は国へ入る事すら許されない。

 仮にその取り決めを破った場合、魔術とは異なる独自の不可思議な力と、海戦が得意な彼らの手によって船は沈められてしまうだろう。

 だからこそ、この国と国の中間に位置する港町が交易地点となっており、そして東方の国へ向かうのもここから別の船に乗りなおさないといけないのだ。


「よく来てくれたわね」

 孤島の港町へ到着したユキを出迎えてくれたのは、サクヤだった。

 彼女もまた、ユキと同様に深紅の精霊石がはめ込まれた指輪をつけ、錯覚の魔術によって他人である事を装っている。


「早速向かうけれど大丈夫かしら?」

「うん。疲れてないし、船酔いもしてないよ」

 ユキは、旅の前日に公務を早々と切り上げ、十分な睡眠をとっていた。

 故に、狭い船室内に半日居ても大した疲労は無く、このまま東方の国へ向かえる事を告げた。


「じゃあ付いてきなさい」

 サクヤはそんなユキを見ると、ほんの少しだけ頷いた後、別の波止場へと向かう。

 そしてそこへ到着すると、ユキがこの港町へ行く為に乗った船よりもさらに小さい船へ乗り込み、二人は出港した。



 それから、しばらく経った。


「……」

 元々この船は、東方の国へ入国を認められた者しか乗れない。

 かの国への入国許可を持つ者は多くなく、定期船とはいえ乗客はサクヤとユキだけだった。


「……」

 因縁浅からぬ二人は当然会話が弾むわけもなく、お互いに終始無言のまま波の砕ける音と、魔術を原理とした動力機関の音しか聞こえない。


「東方の国へ行くのは始めて?」

 そんな中、今まで頬杖をつきながら薄目で物思いに耽っていたサクヤが、ふとユキへそう問いかけた。

「うん」

 小国とはいえ、独自の文化と長い歴史を経てきたかの国について、書物や教師から、様々な知識を教えられてきた。

 だが、直接行った事が無かった。


「そう……、到着は明日の朝になる。それまでゆっくりするといいわ」

 未知の場所へ向かう恐怖はあったが、同時に好奇心もあった。

 だがサクヤは、そのユキの思いに気づかないのか?

 そっけない態度を見せると、再び視線を落として自分の世界へ引きこもってしまった。


「……」

 再び沈黙が流れる。

 ユキは何度かサクヤの方を見たが、サクヤはユキの方を一切見ない。

 ずっと体勢はそのままに、色白で端麗な顔つきに愁いをうかばせている。


「ねえ、サクヤ」

「何?」

「どうして、私を東方の国へ?」

 この重苦しい雰囲気の中で、ユキはずっと聞き出せなかった事を聞いた。

 サクヤは顔を上げ、横髪を手ですくいながらユキの方を見つめると……。


「あなたの力を貸して欲しいの」

「私の力?」

「詳しい事は、現地に着いたら教えるから」

「うん」

 そう簡潔に伝え、再び物思いに耽ってしまう。


「……」

「……」

 ユキは何も語らないサクヤを見て、マリネやミズカが言った言葉を思い出す。


 ”えー、そんなん罠に決まってるじゃん。どうせまたユキを洗脳しようとか考えてるよ”

 ”決めつけるのは良くないとは思っていても、まあそうよねえ”


 確かにここは海の上で、今から向かう東方の国にユキの味方は絶対に居ない。

 襲われたらひとたまりもないし、無事で帰ってこれる保障も無い。

 ユキはそう思いながら、心のざわめきを沈めようと、胸に手を当てた。


「そんなに警戒しないで、別に危害を加えようなんて考えていない。用事さえ済めば、あなたは無事に水神の国へ戻れる」

 そんな時、サクヤは体勢や視線をそのままに、ユキの思考を読み取ったかのような的確な発言をする。

 その言葉にユキは、ぎょっとして思わず手を下ろしてしまう。


「……」

「……」

 今回の旅は、ユキへ悪意あるものではないと伝えられた。

 しかし、サクヤの考え込む理由が解らなかったユキは、再び始まった沈黙の最中に、サクヤと窓から見える風景を交互に見る。


 それから、しばらく時間が経った後の事だった。

 サクヤは手を組んでユキの方を見つめると、再び口を開いていく。

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