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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Second Part. 使用人から修道女へ
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17. 丘の上の修道院へ

 ユキは女使用人の部屋へ戻ると、ココが買ってくれた服を取り出した後、”かせいふ”として強制的に着せられていた機能性の無いピナフォアを脱いでいく。


「例の館で囚われていた女の人、旦那様が責任をとるって言ってたよ」

「……」

「……今まですまなかったよ。お前があんな事になっていたなんて知らなかったんだ」

 散々嫌がらせをしてきたシトラス三姉妹の長女スウィーティは、不慣れな笑顔を見せながら淡々と着替えるユキに何度か頭を下げてつつ自身の申し訳ない気持ちを伝えようとしていた。

 その言動によって、今朝起きた出来事がもう既に使用人たちの間で広まっているという事を理解する。

 しかしユキはそんなスウィーティを無視しつつも、大きなパフスリーブの白いブラウスに袖を通す。


「ねえ、お姉ちゃんがこんなに謝っているのに無視っておかしいと思わないの?」

 妹のリメッタはそっけないユキの態度が癪にさわったのか、いつも通り高圧的に突っかかってくる。

 だがそれでもユキは無視し淡々と青色のスカートを穿いて、黒いコルセット型ベストを上から着て胸の紐を結う。


「やめろリメッタ、私達が悪いんだ。なあユキ、あのな……」

 そんな妹をスウィーティは制止しつつ、何かをユキへ言いたそうにするが言葉が出ずにいた。


「あなたの妹のクレメンティンも、アレフィに酷い目にあわされたんだよね?」

「あ、ああ……」

 スウィーティは、結果はどうであれ絶対に逃れられないと思われていたアレフィの呪縛から逃れる事が出来たユキに、一抹の期待を抱いていた。

 今までのどの使用人とも違う、ユキの大いなる可能性に気づいたスウィーティは、今も呪縛に囚われ続ける末妹を救ってくれるかもしれないと思ったのだ。


「ココ、必ずあなたは元に戻る。あなたの画家としての夢を、絶対に叶えて見せるからね」

 着替えが終わったユキは、手ぶらのまま使用人達の寝室を出ようとする時、自らの命を絶とうとして救助され、以降意識の戻らないココをぎゅっと強く抱きしめながら伝えたが、何の反応も無かった。


「お、おい待てよ!」

 今まで嫌がらせをしてきた事実は消えない。

 自分がとても都合の良い事をしている最悪な人間である事を、スウィーティは十分理解していた。

 それでも千載一遇のチャンスをつまらない禍根で棒に振りたくは無いという一心で、ここから居なくなるユキを必死で呼び止めているのだ。


 コンフィ公爵は家門にかけても何とかすると言ってくれたけれども、私は私でなんとかしてみせる。

 たとえ今は駄目でも、いつか必ず……。


 ユキの心の中では既にクレメンティンも救う事は決まっていたが、はっきりと伝えておいた方が良いと思い、少しも振り返らずに一言だけ告げて部屋を出て行った。

「大丈夫だよ。酷い目にあわされた人達は全員助けるから」

 その言葉に対しスウィーティは何も言えず、少しだけ涙目になりながらユキの背中を見送った。



「あなたは……?」

 屋敷を出て少し道を歩いたユキを待っていたのは、かつてユキをこの屋敷に連れてきた御者だった。

 相変わらずやつれた印象が強い。


「旦那様より、あなたを送り届けて欲しいとのご命令です。どうぞ中へ」

「今度は私をどこへ連れて行くのですか?」

「国内にある修道院です」

「そう……」

 やっぱり何も教えてくれない。

 使用人の次は修道女になるの?

 御者の冷めた対応に多少の嫌気を感じつつも、このままでは生活のアテが無いのも事実だったユキは、しぶしぶ馬車へと乗り込む。


 馬車の窓は布で覆われており、縁が貼り付けられていてめくれないせいで、外を確認する事が出来ない。

 修道院とは言っていたが、具体的な場所は解らないまま。

 しかしコンフィ公爵の別邸へ行く時に比べれば、心細くもないし動揺もしていない。

 それはきっと、使用人として鍛えられたおかげなのかもしれない。

 そう思いながら、”まずは現地へ着かないとどうしようもない”と割り切ったユキは、アレフィの騒動からずっと起きっぱなしだった事を思い出し、体力温存のため横になって眠りについた。



「到着しました。起きてください」

「うん……」

 次にユキが気がついた時は、既に馬車は止まっていた。

 ユキは御者に促されながらも眠たげな目を何回かこすって馬車から降りる。


 どのくらい眠っていたのだろう?

 そしてここはどこだろう?

 山奥で人気が少なそうのは解ったけれども……。

 そう思いながらユキは馬車から離れて辺りを見回しながら、木々の合間から遠くに見える修道院と思わしき建物へと歩いていく。

 はっと気がつき後ろを振り返ると、ユキ自身を乗せた馬車は既にどこかへ行ってしまった後だった。


 どうやら私が他の選択肢を取る事は出来ないみたい。

 ユキは修道院へ行くというキーワードだけで、これから自分に起こる様々な出来事を予想しながら歩き続け……。


「ここかな?」

 日が沈みかけて空が夕焼けになる頃には、修道院へと辿り着くことが出来た。

 ユキは修道院の扉を開け、中庭を抜け礼拝堂の中に居るシスターへと近寄っていく。

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