170. 異国に向かう二人
機械の世界で起きた出来事から、しばらくの時が経ったある日のこと。
「それでは、留守をお願いします」
女王スノーフィリアは、多くの従者や高官らに見送られ、新たな旅へ出ようとしていた。
青く澄んだ空、爽やかな風、心地よい日差し。
それらは、これからの出来事を良いものしてくれる予感を全員にさせた。
「陛下、お言葉ですが……」
「何でしょう?」
「随伴する者は、宮廷ハウスキーパーただ一人だけで良いのですか?」
本来なら、女王と共に行く者だけで数十名になる。
だが今回の旅は、ある事情から同行する者はルリフィーネただ一人のみだった。
「今回は客人としてではなく、一人の観客として見守ります」
「ですが、火竜の国は荒くれ者達が集う国、万が一にも陛下の身に何かあれば……」
目的地は、水神の国から北西にある四大大国の一つ、火竜の国だ。
そこでは数年に一度開催される、玉座の主を決める武術大会が行われようとしていた。
「問題ありません。ルリがついていますから」
いつもならば、各国の代表が呼ばれるはずだった。
しかし、今回はどういうわけか水神の国で招待された者は居なかった。
一国の長を決める大事な行事であり、そしてサラマンドラ政権復活が濃厚である今回の大会をじかに見守るべく、女王は他の高官の同意を得て今回の訪問を決めたのだ。
「ハウスキーパー、陛下の事頼みます」
「お任せ下さい」
だが、スノーフィリアとルリフィーネの真意は、見送る人々とは違っていた。
彼女達の今回の行動の流れは、女王とルリフィーネは二人で火竜の国で大会を見守ると見せかけて、女王は東方の国へ、専属使用人は火竜の国へ向かう。
こうすれば、サクヤが言っていたスノーフィリアだけで行くという条件を満たし、かつルリフィーネが大会の成り行きを見守ればいい。
帰りも道中で合流し、結果の報告を受ければ周りの人々からも怪しまれずに済む。
同行者をルリフィーネにして、かつ火竜の国の関係者には行く事を言わなければ、ばれる可能性は無い。
当然、その事を知るのは機械の世界で行動を共にした者だけで、他の誰にも伝えていなかった。
故にスノーフィリアは、面と向かって嘘をつく事に対して胸を痛めつつ、軽く頭を下げた後に馬車へ乗り、都から離れていった。
馬車は順調に二人を港へと運んでいき、何の問題も無く到着すると、他の誰にも見つからないように着替える。
そして、女王スノーフィリアとして王室専用の船に乗りこむのではなく、ユキとして平民らが使う船へ乗っていく。
「ユキ様、どうかお気をつけて」
「うん、ルリも気をつけてね」
こうしてユキは東方の国へ向かった。
船には乗らなかったルリフィーネは、不安そうな面持ちのままユキを見送った。




