165. パラレル・ディストピア ~母の真意~
「ワタシの目的、それはルリフィーネを手に入れる事」
マザーと呼ばれる巨大な機械の一部分に映し出された女性は、しばらく沈黙した後に本当の目的を語る。
「早速おかしいんだけど……、そんなに大事なら奪われないようにするとか、奪っても頑張って取り返すとかしなさいよ!」
ルリフィーネがマザーにとって大事な者である事は、スノーフィリア達も解っていた。
だからこそ、マザーの答えに疑問を感じ、いち早くミズカがその疑問をぶつけた。
「ですが、ワタシの手元から離す必要があった」
「どういう事?」
「彼女には人間として必要不可欠な要素を得て、ここへ戻ってきて欲しかったのです」
「必要不可欠な……要素?」
「希望、好奇心、楽観、愛情……。誇り、不信、羨望、絶望……。それらは、ワタシ達では最初から持っておらず、また生み出す事も出来ない」
マザーは、憂いを見せながらルリフィーネを敢えて放流した理由を話していく。
「人間のデータベースを参照すれば良いだろう!?」
アイザックの言うとおりだった。
これだけ技術が進歩しており、かつ過去の人々の記録があるならば、そこから欲しかった感情を作る事が出来るのではないのかと他の全員も思った。
「勿論、最初はそうしていました。ですが駄目でした、それがアナタ方の世代なのですよ」
「ふーん。どうりで、アイザック達だけ人と同じ見た目な訳ね」
そして、これだけ無駄を省いた無機質な世界で、滅んだ種族に似せた機械達が居る事を告げられて辻褄が合うと、機械達も含めた侵入者達は同じ様に唸った。
「それで……、ルリが戻ってきたら何をするの?」
確かに、ルリフィーネは機械の世界で生み出された。
だがこことは異なる世界で育ち、人と苦楽を共にしてきた今の彼女は、もはや人だ。
そんな人となった機械の少女を手にいれ、何を成すのか?
スノーフィリアはそれが理解出来ず、不安な面持ちのままマザーへと問いかけた。
「感情の湛えたルリフィーネをワタシに組み込めば、ワタシは完璧な存在へと生まれ変われる」
「えっ、それって……」
「当たってしまったわね……」
マザーの言葉を聞いた瞬間、全員は正解に近いある予想をした。
それは、かつてこの大地の支配者であり、そして自らも含む全ての生命を絶滅させた存在である”人”になるという事。
だが……。
「ワタシは……、”神”になる」
「そのオーブは!」
スノーフィリア達の世界でも、居るかどうか不確かな、人よりさらに上位の存在の名前を告げると、マザーの胴体の一部が開く。
そこにはただの少年を大賢者に仕立て上げ、また古代遺跡を起動する時に使っていた瑠璃色のオーブと同じ物が設置されており、オーブが強く輝くとスノーフィリア、ルリフィーネ、サクヤ以外の全員はその場で倒れてしまった。
「ルリ! みんな!」
それと同時にルリフィーネはゆっくりと、ゆっくりと、マザーの方へと歩み寄っていく。
表情に生気はなく、歩き方はどこかきごちない。
その時の様子は、かつて霧の村で大賢者の少年と対峙したのと同じだった。
「くっ……!」
マザーの野望を阻止するべく、サクヤは引き金を何度も引いた。
そして手持ちの拳銃の弾を撃ちつくすと、新たに重火器を呼び出してマザーへ無数の弾幕を見舞った。
「鉛と銅の化合物……。アンチメタルコーティング完了。先ほどは不意を突かれましたが……。今となってはそれも無意味ですよ、そんな旧世代の武器は通じない」
だが、サクヤの放った幾多の攻撃の、ただ闇雲に煙と音を撒き散らすだけで、どれも有効打にならなかった。
「ルリ!」
「お……、おかあ……、様……」
「さあルリフィーネ、もっとこちらへ」
サクヤの攻撃の空しく、ルリフィーネは操られているかのように母を呼びながら、ゆっくりとマザーへと近寄っていく。
「スノーフィリア! さあ早く攻撃しなさい!」
「スノーフィリア・アクアクラウンが命ずる。彼方の大地にその名を轟かせた剣豪よ、我の下に姿を現し、その曇りなき刃で傲慢なる因果を断ち切れ! 白雪水晶の剣豪!」
サクヤの叫びと共に女王は、自身の大切な人を救う思いを胸に秘め、マザーをしっかりと見据えながら詠唱を終える。
すると、スノーフィリアを中心に光り輝く魔法陣が展開されていき、魔法陣はどんどん広がっていってある一定の大きさになると、今まで女王を幾度も助けた剣豪が現れた。
「また会えたな。サモナーよ」
「お願い、あの機械を止めて!」
スノーフィリアが呼び出した剣豪は、主の命令を聞くと何も言わずにマザーの方を向き、腰に下げていた剣の持ち手をぐっと強く握って腰を深く落とす。
「ふんっ!」
そして右足で地面を強く蹴り、一気にマザーとの距離を詰めた。
この時、剣豪の速度に追いつけなかったのか、それとも別の思惑があるのか。
マザーは一切の抵抗見せなかった。
剣豪は難なくマザーへと近づく事に成功し、持ち手を引いて剣を抜くと、大きく振りかぶった後に剣を勢いよく下ろす。
光をも凌駕する神速の剣ならば、相手がどんなに頑強であったとしても斬れるはず。
スノーフィリアは集中したまま、自らの術と召喚した剣豪に対して絶対の自信を持ち、この状況を見据えた。




