160. チェリー・ブロッサム・ドリーム ~それぞれの決意の交差②~
マリネはサクヤとの密談を済ませると、すぐに王都へと戻った。
そして緊急の会談を開くと、サクヤが機械の世界の住人を救うために手助けしてくれる事と、その為の条件を参加者全員に伝えた。
「え、東方の国へ私も一緒に?」
サクヤが提示した条件。
一つは東方の国へ行く事であり、もう一つはその旅にユキも連れて行く事だった。
当然、ユキは身を仰け反らせて驚いた後に、何故自分が指名されたのか理由を考えた。
「私もご一緒しては、駄目なのでしょうか?」
「それも聞いたわ、でもユキとだけで行きたいって」
最も信頼しているルリフィーネの同行すら、認められない。
サクヤが一体何の為にそうするのか、何故そこまで二人に拘るのか。
その理由がまるで見えないユキは、無意識の内にマリネやミズカの方へ視線を向ける。
「えー、そんなん罠に決まってるじゃん。どうせまたユキを洗脳しようとか考えてるよ」
「決めつけるのは良くないとは思っていても、まあそうよねえ」
誰の邪魔も入らなくなった時を狙って、ユキを再び欲望の白魔姫ネーヴェへと変えてしまう。
そしてどういう理由かは解らないが、この国をもう一度氷漬けにする。
目があった二人の答えは、どちらも一致していた。
その答えに対してユキも、真っ向から否定をする事が出来なかった。
「……それでも、私行きます!」
たとえ罠であったとしても、ユキは機械の住人達を見過ごす事が出来ず、体を震わせながら声を振り絞り自らの決意を表した。
「駄目よ」
しかし、その熱量もマリネにはまるで届かず、彼女は女王の願いを即座に拒絶してしまった。
「お願い、今度は大丈夫だから。もしも何かあれば天使の力を使ってでもどうにかするから」
「ふむ……」
「マリネ、みんな、お願い」
だがユキの強い思いは潰えてはいない。
どんなに否定されても、止められたとしても、ユキがユキであるうちは困っている人を放っておく事なんて出来ないからだ。
「ちょっと考えさせて、今すぐは決められない」
「うん」
マリネは、そんなユキの危うい熱をはっきりと理解していた。
故に即時否定はせず、返事を先送りにするよう伝えると、彼女は頭を抱えながら会議室を出て行ってしまうと、会談は終了して各自はそれぞれ本来の執務を行うべくあるべき場所へと帰っていった。
マリネが自身の執務室へと戻る時だった。
「ねえマリネ」
「あらミズカ、どうしたの?」
てっきり魔術研究所へ帰ったと思われたミズカに、呼び止められる。
「どうしたの?じゃないよ。何考えてるの?」
「何って……」
「専属メイドさん戻ってきたし、私はあの世界にはもう手出さない方が良いと思ってる。でもあなたは勝手にサクヤと会ったり、あの世界を助けようとしたりしてる」
ミズカもサクヤと同じ意見であった事に、マリネは少し驚き戸惑っていた。
だが新世界時代、彼女は最もサクヤの側で行動していた事を思い出し、一番影響を受けていると考えるといつもの気持ちを取り戻せた。
「さらに、マリネは女王様のわがままを叶えようとしている。そうでしょ?」
そして心中を読まれていた事に対して、マリネは不敵な笑みをみせると腕を組み、顎に手をあてながら口を開く。
「解っていた事じゃない」
「どういう事?」
「私が弱い者を助けたい性分だって事!」
「ねえ、もしかしてあの時の……」
「やだー、その話はナシよ」
ミズカはマリネの浅からぬ過去について触れようとしたが、即座に中断させられてしまう。
この時、”女装した高官”はいつも通りのまったりとした口調だったが、その瞳の奥に映るものはミズカを閉口させるには十分だった。
「大丈夫よ。ユキちゃんとサクヤが一緒だもの。あの二人なら何だって出来るわ」
窓の外には小鳥が囀っている。
今日も天気は良く、とても穏やかで平和な一日だ。
別の世界では、決死の抵抗が繰り広げられているなんて、誰も気づかないし想像もつかないだろう。
そんなごく当たり前の風景に視線を移しながら、そう話す。
その様子は、どこか遠くて儚い。
「解ったよ……、もう何も言わない」
マリネの気持ちに変わりはなく、また彼女の強い意志を止める事も変える事も出来ないと察したミズカは、視線を落としながらそう伝えた。
「でも! 私も行くからね!」
「あら、魔術使えないのに?」
「エーテルさえどうにかすればいいんでしょ! そのくらい克服してやるんだから!」
「頼もしいわねぇ~」
苦楽を共にしてきた仲間として、やはりマリネを放ってはおけないミズカは、自身も向かう事とエーテルの皆無な世界で魔術を使用する方法の確立を約束すると、鼻息を荒くさせながら研究所へと戻っていく。
小柄だが、その頼もしい背中を見たマリネは、自然と笑顔になっていた。




