157. パラレル・ディストピア ~ルリフィーネの秘密編③~
「いろいろ面白い話を聞かせて貰ったわ」
話の区切りがつくとマリネは、腕を組みながらどこか得意げな表情をしてそう言った。
「それで一つ質問。どうしてルリちゃんを手に入れることが出来たの?」
そして体勢はそのままで、話の流れで生じた疑問を解消するべく初老の男性へと問いかける。
「マザーとて完璧ではない。機械を生み出す過程で、ごく稀に”バグ”が……、お前達で言うところの突然変異が製造される」
初老の男性は少しの間目を閉じると、固く握った拳を広げて、再び冷静な口調で淡々と質問に答えていく。
「バグのある機械らは、概ね何らかしら特筆すべき性能がある。例えば私は基本的な演算処理能力だけは現行世代をはるかに凌駕しており、あそこの物は力だけでは次世代機と互角だったり、あっちの物は記憶容量が膨大だ」
そう説明しながらも、部屋で黙々と作業をしている他の機械を指差していく。
どれも特別見た目が凄いというわけではなく、ごく普通の容姿をしている。
だが、やはりどれも人間味を感じられない。
「その人らの力を合わせて、ルリちゃんを手に入れたって事かしら?」
「ああ、そうだ。元々はマザーのプログラムを”旧世代の機械を処分しない”ように書き換える予定だったが、突如それが叶わなくなってな。処分実行を頓挫される目的で、マザーが開発している自身のパーツの一部を奪取した」
「で、それがルリちゃんだったってわけね」
「そうだ。まさか、我々と同じ世代の形状だったとは想像もつかなかった」
今までマリネと語ってきた初老の男性は、近くにあった椅子に座る。
機械だから疲れを感じないと思いきや、彼は本物の人間の老人のように、自身の腰と肩を手で何度か叩いた。
「第九世代のマザー用プロセッサ、ルリフィーネは人から生み出されたのはでなく、マザーによって作られた存在だ」
ユキ最愛の使用人の知られざる出生の秘密、そしてユキらの世界へ来た理由。
彼女の隠された過去が明らかになると、ユキら一行はルリフィーネの方を見つめる。
「だが、ルリフィーネは人と同じ様に感情を持ち合わせ、人と同じ目線を以ってお前達に接する。何故マザーがそうしたかまでは解らないが……」
そんな一行に対してルリフィーネは、いつもと変わらない笑顔を見せた。
「それで、あなた達の世界で言うポータルを作って、マザーの手の届かない場所……、すなわち別の世界へルリちゃんだけ送ったってわけね」
「そうだ」
「随伴しなかった理由は?」
「勿論他の仲間も付いて行った、だがポータルは完全ではない。ルリフィーネだけが帰ってきたという事は、他の物は別の世界へ行ったか、あるいは転送する過程で空間の歪みに巻き込まれ原子へと帰ったか」
「原子に帰る?」
「バラバラになって存在すら無くなる状態だ」
「ひえっ、ちょっとリスキーすぎやしない?」
「だがこうするしかなかった。この世界に居れば、確実にマザーに捕捉されてしまう」
ルリフィーネが向こうの世界で孤児として発見されたのは十数年前。
これだけの科学力によって作られた存在ならば、たとえ幼子の姿であったとしても野盗に負けるとも思えず、全員が初老の男性が言葉を否が応にも信じるしか無かった。
「ユキ様、こんな私が怖いですか? お嫌いになりましたか?」
そしてルリフィーネは、表情を変えないままユキへ問いかける。
その様子は、どこか寂しさがあった。
「ううん。そんな事ないよ」
「ユキ様……」
「だって、ルリは私の大切な人だって事、変わらないから」
ルリフィーネが例え人ではなくても。
それでも今まで面倒を見てくれた、共に居た家族である事に変わりは無い。
「ずっと一緒に居てね、お願いだからもう離れないで」
ユキは自身の純粋な思いを、少し瞳を潤ませながら率直にそして簡潔に伝えた。
「はい。かしこまりました」
その少女の真っ直ぐな気持ちに胸打たれたのか、ルリフィーネは笑顔のまま深々と頭を下げると、ユキの願いを快く受け入れた。
「それに! 私だって人じゃないかもしれないんだよ?」
「ほう、人ではない? 我々と同じか?」
「う、うーん」
「興味深い。聞かせてくれないか」
「実は……」
話の流れでつい口を滑らせてしまった事を戸惑いながらも、ユキは初老の男性に自身が変身して召喚術が扱えるようになる事と、天使にもなれる事を伝えた。
「驚きだ。まさかそんな空想上の存在が居るとは。しかも変身とは……。生物には羽化と言った変態する者が居るとは知っていたが……」
ユキが天使であると知った初老の男性の表情には、新たな発見と常識を疑う事実による驚きに満ちていた。
「……それで、これからどうするの? マザーっていう”ご主人様”をどうにかするんでしょ?」
初老の男性がユキに対して興味を持っている時だった。
マリネは体勢を変えないまま、これからの事について問いかける。
「そうだ」
他の世界へ繋がるポータルを作り、同胞を犠牲にしてまでも主人に反逆し続けてきた。
当然、このままでは済ませない。
「これからその作戦を伝える」
温かで穏やかな雰囲気が切り裂かれ、いよいよ彼ら旧世代の生存を賭けた戦いが始まる。
ユキら一行は彼の方を向き、そして彼の目を見て、話を一文一語も聞き漏らさないように耳を傾けた。




