155. パラレル・ディストピア ~ルリフィーネの秘密編①~
少年の後を追い、ユキらは街の中へと入っていく。
この時も一行は不安だった。
それは、またあの謎の物体に見つかるかもしれないという、まるで脆く崩れそうなつり橋を渡っているような、非常に危うい状況だからであった。
この時、先ほど使った爆弾がまだあったかもしれないという期待を胸に、マリネはふとカバンの中に手を入れる。
しかし、現実は非情だった。
彼女が手に触れた物は、どれも戦いにおいては役に立たない物ばかりだったからだ。
「ねえ、どこへ連れて行くつもり?」
「こっちだ」
そんな彼女達に不安を無視し、謎の少年は何も無い壁にそっと手を当てる。
すると、そこの壁が人の潜れる程度の大きさに消失し、奥へと入れるようになった。
「こんな所に扉があるなんてね……」
まさかこんな仕掛けがあると想像もつかなかったマリネはそう一言漏らすと、警戒しながら建物の中へと入っていく。
中は点々と人工の明かりが備え付けられており、歩くには十分な広さもある。
それでも不安である事に変わりはない。
この先には何があるのか?
何が待っていて、どういう結果が待っているのか?
全員がこれから訪れる近い将来を予測しながらも、口の中が乾くくらい緊張しがら奥へと進んでいく。
そして歩いて間も無く、薄い壁で遮られた複数の部屋がある場所へ到着する。
そこには、今まで先導してきた少年と、同じ格好と雰囲気を持つ人々がたくさん居た。
「なんかここって、新世界の隠れ家を思い出すわね」
「あー、確かにそう言われればそうかも」
マリネやミズカの言うとおり、部屋の中に居る人らは表情こそ出さないにしろ、新世界の仲間達と似たような感じがしていた。
それが、今まで警戒と緊張と不安に支配されていた彼女らの気持ちに、ほんの少しだけ親近感という明るい感情をもたらした。
「ここだ」
一行は少年に導かれるまま、さらに奥へと進んでいく。
やがて一際大きな広間へ到着すると、そこには……。
「ねえ、あれって……」
フリルが付いたふわふわな姫袖と二段のパフスリーブが特徴的な、まるでドレスのように豪華なワンピースと同色のエプロンがセットになったメイド服を身に着けている、ホワイトピンクアッシュの長い髪が綺麗な少女がユキらに気づくと、何も言わずに穏やかで優しい笑顔を見せる。
「ルリ!」
その人物は、今までユキがずっと探していた人であり、ユキにとって最も大切な存在であるルリフィーネだった。
「良かった! 無事で良かった! ううぅっ……!」
「ユキ様……」
ユキはルリフィーネの姿を見ると、何の躊躇いも無く彼女の服の上からでも膨らみの分かる胸へと飛び込み、号泣しながら再会を喜んだ。
「急に居なくなってしまい、申し訳ございません」
そんなユキを、まるで自身の娘を愛しむような眼差しで見ながら、背中を何度も撫でる。
感動の場面に、今まで緊張しっぱなしだったマリネの表情は緩み、ミズカは少しだけ瞳を潤ませた。
「すんっ、すんっ……。ねえルリ、もう体は大丈夫なの? どこもおかしいとこ無い?」
親愛なる人の胸で散々泣いて感情を発散させたユキは、真っ赤になった瞳を雑にこすって涙を拭うと、失踪以前は何をやっても戻らなかった体調について尋ねる。
「はい。私は元気ですよ」
主人の質問に、ルリフィーネは軽く頷き笑顔でそう答えると、ユキは再びぬくもりを確認するために胸へとくっついた。
「ねえルリちゃん、間に入ってごめんなさいね」
「大丈夫ですよ」
「ねえ、あなたにはいろいろと聞きたい事あるんだけど……」
二人の世界を邪魔してしまう事に対して、申し訳なさを感じながらもマリネは、少しばつの悪い顔をしながら、ここに至るまでの経緯を聞いた。
「……そうですね、話さなければいけませんね」
くっついているユキを優しく抱きしめたまま、ルリフィーネは少し視線を落としながらそう言うと……。
「ここは、私が生まれた場所なのです」
決意の満ちた強い眼差しで、マリネ達へそう答えた。
「えっ、じゃ、じゃあ別の世界から来たの!?」
容姿や立ち振る舞い、性格や性質から孤児とはいえもっと別の何かを想像していたミズカにとって、ルリフィーネの答えは予想外だったらしく、目を見開きつつ声を裏返られてしまう。
「そうなのです。私もここへ来てそう告げられました」
ルリフィーネは、実はユキ達が居る世界とは別の世界の住人だった。
その事に驚くのは当然だという認識があったため、彼女はミズカの言葉にも寛容に対応した。
「って事は、ここって……」
「ミズカさんの思っている通り、ここはユキ様達が住んでいる世界とは別の世界です」
そして、ルリフィーネは一切を包み隠さず、率直に真実を打ち明けた。
「やっぱり別の世界ってわけね」
「ひえー、本当にそんなんあるんだ」
「ふむ……」
ここが今までいた世界とは別の世界であると確定した瞬間、全員は別々のリアクションで驚きを表現した。
「それで、ここが私達の世界とは別の世界で、かつあなたの故郷だという事は解ったわ……」
マリネは視線を落とし、あごを撫でながら独り言を言うようにそうつぶやく。
魔術を研究する上で、生まれ育った地上とは別の世界が存在する可能性も、無ではないというのは知っていた。
だが、まさかこんな形で存在するとは、予想外だったからだ。
「けど一体、ここって何なの? 相当科学が進んでいるみたいだけど」
だからこそ、マリネは視線をルリフィーネの方へ戻し、この世界について問いかけた。
「この世界は魔術ではなく、機械や化学が発達しているのです」
「機械ってのは、さっき私達を襲った謎の物体の事?」
「あれもそうですね」
「あれもって事は、他もなの?」
「形は様々ですが、この世界の全ての物はそうです」
この世界の全ての物。
その言葉を聞いた瞬間、全員の表情が凍る。
「ルリ、全てって事はもしかして……」
この世界の全ての物は、生命ではなく機械という自動で動く物体。
そしてルリフィーネは、この世界で生を受けた。
これら事実から導き出される、一つの結論。
「その物は、マザーが生み出した第九世代プロセッサの生体コアだよ」
その未だかつてない程の衝撃をもたらす結論に、全員が痺れていた時だった。
背後から若い男の声が聞こえてくる。




