151. 行方を追って ~ルリフィーネの失踪編⑥~
「ルリちゃんって、人間味が無いのよね」
その言葉は、スノーフィリアにとって予想のつかない一言だった。
「だって、これだけ整理整頓されてたら、むしろ過ごしにくいと思うもの。几帳面にも限度があるわ」
そう言われた女王は、もう一度だけ自身の使用人の部屋を見回す。
この時、綺麗で快適よりも、どこか息苦しさを感じたスノーフィリアは、自分でも気づかないうちに胸に手を当てていた。
「一つ聞きたいのだけど」
女王が部屋の中を再度見ている時、マリネは扉を開けて外で控えていた正教の関係者へと話しかける。
「はい、なんでしょうか?」
「この部屋はルリちゃんが居なくなってからも、誰かが掃除していた?」
「ええ、他のメイド達は喜んでしますよ。”お姉さまの部屋は楽だから”とね」
「ふーん……」
定期的に掃除をしていたとはいえ、数年空けていてもここまで保存状態が良い事を異常と感じたマリネは、腕を組みながら顎に手をあてて視線を窓から見える景色へとうつした。
「あ、これ!」
「ん? 何か見つけたの?」
マリネが遠い景色の方を向いていた時、スノーフィリアが声をあげる。
「これって……、あなた達が持ち帰った瑠璃色のオーブ、よね?」
「でもどうしてここに……」
化粧台の引き出しの中。
そこには、霧の村で少年から手に入れた瑠璃色のオーブと同じ物が、窓から差し込む日の光を反射してきらきらしていた。
「このオーブについて何か知っているかしら?」
「それは、ルリフィーネがここへ来た時に、着の身着のままの彼女が唯一持っていた物です」
正教の関係者は、まるでその時の情景を思い出すかのように、目を閉じながらそう言う。
それは身寄りの無い少女が、たった一つだけオーブを持っているという状況は、珍しかったからだった。
「危険物の可能性も考慮し、一度は我々の方で調べましたが、全く未知の物質で出来ているという事しか解らなかったのです」
瑠璃色のオーブは、どういう原理かは不明だが持つ者の願いをかなえる。
ルリフィーネも同じ物を持っていた。
今それらは共に行方知らずとなっている……。
「そういえば、古代遺跡ってくぼみがあったわよね」
スノーフィリアが今までの状況を頭の中で整理していく中、マリネは腕を組んだまま、視線を上を向けてつぶやく。
「これをはめこめば……?」
「かもしれないわね」
そしてスノーフィリアとマリネは、お互いに視線を合わせて、新たな発見と好奇心に喜ぶ無邪気な笑顔に満ちた表情をした。
「ねえ、これを持っていってもいいかしら?」
次にしなければならない事が解るとマリネは、大人気なく多少慌てながら、ルリフィーネの私物を持ち出す許可を得るべく正教の関係者に聞いた。
「本来、持ち出しは禁止なのですが、現在の主人である女王陛下たっての願いとなれば断る理由はありません。ルリフィーネが居なくなったと聞いておりますし、彼女を探すための手がかりになりうるかもしれません。どうぞお持ちください」
二人の熱に少し気おされながらも、大国の王の願いを断るわけもいかないため、正教の関係者はありきたりな理由をつけて私物の持ち出しの許可を出した。
「ありがとうございます」
「女王陛下、古代遺跡へ行くわよ」
「はい!」
その許可を貰った事にさらなる喜びを感じながら、二人は用意されていたであろう宴席にも参加せず、ただ真っ直ぐ水神の国へと帰っていった。




