150. 行方を追って ~ルリフィーネの失踪編⑤~
居なくなったルリフィーネの手がかりを掴むため、スノーフィリアとマリネは中央精霊区にある世界メイド協会へ向かう。
中央精霊区は各四大大国のある大陸の、丁度中心にある小島のため、一行は船を使って目的地へ行く事となった。
その道中、船内にて。
最愛のメイドの行方をくらましてから数日が経った事実は、スノーフィリアにとって重く圧し掛かっていた。
故に、気が知れた仲であるはずのマリネが同席しているのにも関わらず、終始無言だった。
「ねえ、懐かしいとは思わない?」
そんな重い雰囲気を変えようと、今まで景色を眺めていたマリネがさりげなく女王の方を見て口を開く。
それに対してスノーフィリアは、不安な面持ちのままマリネの方を向いた。
「初めてここに来た時は、あなたは立場を追われていて、私は新世界の幹部の一人に過ぎなかった」
あれからどのくらいの時間が経ったのだろう。
最初は大主教ブカレスから、組織の情報を聞くために赴いた。
結果としてブカレスは殺害されてしまい、新世界の人々は窮地に追いやられ、みんな散り散りになってしまったけれども……。
「今じゃ女王と政府高官だもの、やっぱ想像つかないわよねえ」
遠回りはしたし、代えがきかない人や大切なものが、犠牲になった。
「あの時だって苦難の毎日だった。でも今は明るい未来を掴んだ」
けれども今は、叶えようとした通りの未来になっている。
組織の手によって、悲しい人が生まれない世界になろうとしている。
「そんなに心配しないで、きっと今回もあなたなら望んだ未来を手に入れられるから」
「ありがとう……」
だから、今回だってきっと上手くいく。
ルリフィーネは戻ってきて、お父様やお母様とも再会して……。
スノーフィリアは自身の暗い気持ちを振り払おうと、明るい未来図を頭の中で描いてどうにか気持ちを前向きにしようとする。
その様子を見たマリネは少し笑顔になると、再び窓の外に広がる水平線を眺めながら、潮風の匂いを楽しんだ。
船に乗って数日が経った。
女王を乗せた王室専用船は、ルリフィーネの故郷である中央精霊区へと到着する。
予め話をしていたお陰か、船から降りた直後に正教の人々の出迎えがあり、彼らの案内によってスムーズに協会本部へと到着する事が出来た。
「女王陛下、この度はよく来られました。こちらに歓迎の宴の準備が出来ておられます」
「お気遣い感謝します。ですが今はルリフィーネの部屋への案内を、お願いできますか?」
「はい、かしこまりました。ではこちらへ」
そして、世界メイド協会本部に到着した一行は、一国の主ならば受けて当然の祝宴を暗に断った後、早々にルリフィーネが使っていた部屋へ通して貰うよう願うと、相手は少し驚きながら女王の要求に答えるべく
賓客を迎える部屋とは逆の方へと招かれた。
「あの……」
部屋へと向かう道中。
厳かな雰囲気の中、多少の話にくさを感じつつもスノーフィリアは、案内をしてくれている正教の関係者へ話しかける。
「何か?」
「私の使用人はここを出てから数年は経っています。それなのに、どうしてまだ部屋があるのでしょうか?」
「彼女は元々身寄りがありません。世界メイド協会は、身寄りのない子らが戻ってこられるよう、使っていた部屋を卒業してからも何年かは残しているのですよ」
ルリフィーネは、元々孤児だった。
一人で居るところを、正教の関係者に拾われた。
当時は小さな孤児院であり、そこで生活するようになった。
「特にルリフィーネは品行方正かつ成績優秀な、非の打ち所の無い生徒であり、メイド達の模範となる人物に相応しい」
孤児院はそこに居た子らの自立をさせる一環として、メイド協会を設立した。
ルリフィーネは協会を最高の成績で卒業し、最大の栄誉である白いメイド衣装の着用許可を貰った。
そんな彼女の協会内での生活は、もはや偉人レベルと言われる程に後世へと語り継がれている程だ。
「だから、数の少ない個室ですが、今までも残しているのです」
スノーフィリアは、そんな従者の過去を知っていた。
それでも、改めて正教の関係者から良い評判を聞くと、自分事のようにとても誇らしく感じてしまった。
「さあ、こちらです」
そんな会話と感情の中、目的の場所へと到着する。
正教の関係者は、鍵を開けると扉を開いてスノーフィリア達を中へ招いた。
「私は外で待っております。では、ごゆっくりどうぞ」
そしてそう一言だけ告げると、軽く頭を下げた後に扉を閉める。
丁寧な対応に、スノーフィリアも同様に頭を下げて感謝の意を表した後に、かつてルリフィーネが生活していた部屋の探索を始めた。
「ここがルリの部屋……」
綺麗に物が片付けられた棚。
しわ一つ無い、全く汚れていないカーテンと寝具。
埃や塵が少しも落ちていない。
無駄な物が何一つ無い空間。
そこは、万能完璧なルリフィーネの人となりを表現しているような空間だった。
「なるほどねえ」
スノーフィリアが自身の従者の部屋に対して、良い感情を抱いていた時。
一緒に居たマリネが、何やら納得のいかない表情をしながら、ため息まじりにそう言う。
「何か気になる事があるの?」
「んー、あなたの前で言うのは忍びないと思うんだけれど」
その言動が気になったスノーフィリアは、首を少しかしげながら理由を聞くと、マリネは腕を組んで少し天井を見た後に、女王の方を向き話し始める。




