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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Omnibus Part 始まりから転機へ
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139. スノーフィリアの旅 ~霧篭りの大賢者編②~

 先ほどの大賢者や取り巻きの村人とは裏腹に、案内された宿はいたって普通で平凡だった。

 ユキはベッドへと座り、歩き続けた足を自由にさせて一息つくと、サクヤへこの霧に包まれた村について口を開く。


「サクヤ、どう思う?」

「やっぱり何かおかしいわね」

「うん、私もそう思う」

「住人の様子が変だし、あなたのメイドもどこか様子が変だった」

「やっぱりそうだよね。ルリがあんなにぼぅっとしている事、今まで無かったもの」

「このまま様子を探るか……、それとも早々に村を出るか……」

 得体の知れない何かを察知していた二人は、一刻も早くこの村から出て行くという考えもあった。

 しかし大賢者と呼ばれる存在から、情報を引き出せるかもしれないという期待も捨てきれなかったため、早急に答えを出す事は出来ず、二人は難しい顔をして沈黙してしまう。


「ねえユキ、あなたのメイドは?」

 そんな、霧の中に入るような行く末が見えない中、サクヤはルリフィーネの所在をユキへ尋ねる。

「ルリならさっき、外を散歩してくるって」

 宿へ向かう途中でルリフィーネはユキに、この村の様子を探ってくると一言だけ告げて別れてしまったのだ。


「……私たちも行きましょう」

「うん」

 その事を知ったサクヤは、表情には出さないにしろ多少慌てながらルリフィーネの後を追う事を決めると、ユキも付いていった。



 ユキとサクヤは宿屋を出て、村の広場に到着する。

「何やってるんだろう?」

 そこは村人が何かを囲むように集まっているが、人だかりのせいでそれがユキ達には解らなかった。

 二人は人ごみをかき分けていき、その何かの正体を確認しようとする。


「少し待ってごらん」

 人の中心に居たのは、先ほど紳士な態度で宿へと行くよう伝えた大賢者の少年だった。

 どうやら少年は鉄板で肉を焼いているらしい。

 ユキの目から見ればそれは至って普通の行為であり、何かが起きるとも思えなかったが、村人達は固唾を飲んでこの状況を見守っており、あまりにも厳かな雰囲気にユキはとても声をかけることが出来なかった。


「ほら、こうやって肉を焼くと両面綺麗に焼けるんだ」

 そして満を持して行われた事は、持っていた鉄棒で焼かれた肉をひっくり返す事だけだったが、この時の少年の顔は、どこか満足げで得意げだ。


「えっ……、それって当たり前――」

「きゃー! さすが大賢者様!」

「今日もまた我々に英知を授けてくださった!」

「素敵! 抱いて!」

 特別何か凄い事をしたわけでもない。

 ましてや、もったいつけた結果が”ただ肉を焼いただけ”という現実に、思わずつっこもうとしたユキの言葉を遮り、村人達がまるで歴史を塗り替えるような大発見を目撃したように少年を賛美し、村娘達は失神しそうなくらいの黄色い声をあげた。


 ユキは、正直今この状況を理解出来ずにいた。

 ついには少年を直視出来ず、視線を無意識のうちに逸らそうとした時、自身の使用人を人ごみの中に見つける。


「ルリも居たんだ。大丈夫? さっきからずっと様子変だったし――」

 どうにかこの場から離れようと、話しかけようとした。

「ユキ様!」

「は、はい。どうしたの……」

 だがルリフィーネは自身の主人の言葉を遮り、目をキラキラと輝かせながらユキの両肩に手を置くと……。


「大賢者様はとても凄い方ですよ! 是非国の重鎮として、いいえあなた様の伴侶としてお迎えください!」

「えええっ!?」

 至って平凡で普通な事をした大賢者の少年と、結婚する事を強く主人へ薦めてきた。

 その様子は、今までのルリフィーネとは思えないくらいに力強くて、妙な迫力があった。


「さ、サクヤ~」

 彼女の気迫に圧倒されてしまったユキは、少し涙目になりながらサクヤへ助けを求める。

「落ち着きなさい。彼のしている事は何も凄くないわ」

 熱狂しているルリフィーネとは違いサクヤは、無表情のまま冷静な判断を率直にかつ即決に伝えた。


「大賢者様の偉業を足蹴にするとは! なんたるやつめ!」

「なんなのあの女? 何様のつもり?」

「さては大賢者様を奪おうとする泥棒猫ね!」

 そんな発言を聞いていた村人達は、今まで大賢者の少年を見ていた眼差しとは真逆に、酷く冷たい視線を投げかけた。

 だがサクヤは、村人達の反応にもまるで動じなかった。


「まあまあ、みんな落ち着いて」

「ねえ大賢者さまぁ~、あんな奴やっつけなよぉ~」

「駄目だよ」

「まあ! なんてお優しいの! 素敵素敵好き好き~」

 この時で、ユキもサクヤもこの村の違和感の正体に気づく。

 それは、”理由はよく解らないが大賢者の少年が異様なまでに持ち上げられる”という事だ。

 よく見てみれば、若い娘が目立っていたが村人は子供から老人まで一部の例外もなかった。


「はぁ……、頭痛がするわね」

「う、うん」

 流石の異常な状況に嫌気が差したサクヤは、頭をかかえてため息をつき、そう漏らしてしまう。


「ルリ、宿に戻ろう?」

「ユキ様」

「うん?」

「ユキ様もサクヤさんと同じですか?」

「うーん……」

 この時のルリフィーネは、そんな大賢者の少年を無条件で贔屓する村人と同じ表情をしており、少年をまるで神のように崇めて称えているような感じすらあった。

 ユキはここで否定しまえば、危害を加えかねられないと察し専属使用人の返事に対して、答えを濁そうとした。


「大変だ! ”モンスター”が攻めてきたぞー!」

 二人のやり取りの中、見張り台の方から声が聞こえてくる。

 その声を聞くと大賢者の少年は、肉を焼くのを止めて村の入り口の方を向いた。

 ユキ達は”モンスター”という聞きなれない言葉に戸惑いながらも、少年が向いている方と同じ場所を見た。

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