135. スノーフィリアの旅 ~傲慢編⑥~
「うぐぐっ、誰が! このまま二人とも闇に葬ってくれますねぇ!! 行けゴーレム!」
ブローカー集団の長である男は、たじろきながらも魔術兵器をけしかける。
「こいつは絶対に壊せないんでねぇ! このままひねり潰してやりますよぉ!」
ゴーレムは間接から再びエーテルの白煙を噴き出すと、二人をまとめて攻撃するべく腕を横に振り回しながら、ユキ達に迫ってくる。
「スノーフィリア・アクアクラウンが命ずる。深淵を彷徨いし漆黒の使者よ、我の下に姿を現し、驕り高ぶる者を撃滅せよ! 白雪水晶の浄罪人!」
だが、女王は一切恐れずに精神を集中させて詠唱を完遂させると、聞き手をゴーレムが居る方へと差し出す。
すると、指先から雪のような光の粒が一つこぼれ落ち、そこからドレッドロックスの髪型をした、ロングコートを纏う屈強な男が現れた。
「俺を呼んだか?」
「お願い、あいつを倒して」
「解った」
屈強な男は、コートの懐から二丁の銃を取り出すと、強く踏み込みゴーレムへと突撃しながら何度も引き金を引く。
銃撃はゴーレムの間接部や胸部、頭部といった急所を的確に撃ちぬいていった。
「はははっ! 召喚術で何を呼ぶと思えば銃の使い手とは、女王も気が利きませんねぇ!」
「確かに、物理的な攻撃ではゴーレムには……」
しかし、屈強な男の甲斐も無く、ゴーレムは地面に飛び散った薬莢を踏み潰してながら迫ってくる。
男や一緒に戦うルリフィーネを叩き潰そうとするが、二人はぎりぎりのところでゴーレムの拳を避けていく。
「そうね、物理的な攻撃では駄目でしょうね」
その様子を見ていたサクヤはそう言いながら両手を前に出して、目を閉じる。
すると、今まで何も無かったサクヤの手の中から二丁の銃が現れた。
「これを使いなさい」
サクヤは呼び出した銃を、スノーフィリアが呼び出した屈強な男の方へと放り投げる。
「何だ? これは」
男は今まで使っていた銃を懐へとしまうとそれを受け取り、まじまじと見つめながらどういう意味かを聞いた。
「お願い、それで戦って」
「……解った」
サクヤのその言葉で全てを察したのか、少しスカした表情をしながら受け取った銃を構える。
「究極奥義解禁!」
「さあ、パーティの始まりだ。俺の銃で踊らせてやる」
スノーフィリアの最終攻撃命令を聞いた屈強な男は、鋭い目を光らせながら風体に見合わず軽快かつアクロバティックな動きでゴーレムの攻撃を掻い潜り、無数の弾幕を浴びせていく。
この時のゴーレムの様子は、まるで原っぱでどしゃぶりの雨に打たれる石のようだ。
しかし、たとえどんなに撃ちこんでも物理攻撃ではゴーレムは再生してしまう。
ブローカーの男はそう信じて疑わず、銃撃を受けた箇所がみるみると元通りに戻っていく……はずだった。
「無駄無駄! 銃撃ではゴーレムは――」
「おいおいどこを見ている?」
屈強な男は無数の弾丸を撃ち込んだ後、ブローカーの男の言葉を遮りそう言いながら、ゴーレムの方を向くと……。
「な、なにぃ!? ゴーレムが……!」
「幕引きだな」
ゴーレムは受けた損傷の再生を行わなくなり、小刻みに震えだすと粉々に砕けてしまい、ただの金属屑と鉱物片の集合物へと成り果ててしまった。
「陛下の召喚術で武器の使い手を呼び出し、サクヤさんが強力な武器を呼び出す連携攻撃、お見事です」
「初めてやったけど、上手くいってよかったね」
「そうね」
「ところで、どんな武器を渡したの?」
「簡単に言うと、物質を再生不可能な状態まで砕く弾丸を撃ち出せる銃よ」
「ほおほお……」
別の世界はそんな事も出来るのかと感嘆しつつ、またとてつもない武器を呼び出したサクヤに対して感心しながらユキは頷いた。
「さあ、どうするの? あなたの頼みの綱はもう無いわよ」
「く、くそぉ……!」
ゴーレムを失ったブローカーの男は、まるで小さな子供のように座り込み、涙目になりながら悔しがった。
この瞬間、ユキ達の勝利が決まった。
今回の一連の出来事は、即座に住民達へと知らされた。
真実を知った住民達はブローカー集団をブルンテウン地区から追い出すと共に、中立派も反対派も関係なく改めてバルディヤ卿の墓前に手を合わせて彼を弔うと、正体を知ったユキに跪いて許しを乞いた。
ユキはそんな住民達に、彼らの罪は問わない事を告げると、悪行の主犯を裁く為に一旦都へと戻った。
それから数日後。
バルディヤ卿の邸宅にて。
「本当にありがとうございます。あなた方には感謝してもしきれません」
卿の執事をしていた男と住民達が、女王の来訪を歓迎しようと邸宅の敷地内で待っていた。
全員が孤児院設立に納得いったらしく、もう不満の声をあげる者は誰一人として居なかった。
「それにしても、まさか女王陛下だったなんて……」
「隠していてごめんなさい」
「いえいえとんでもない!」
「スノーフィリア様、これを」
「はい」
住民との他愛の無い会話の後、ルリフィーネは高級な紙で作られた書簡を主君へと渡す。
「今から伝える事は国の決定であり、また私からのお願いでもあります」
スノーフィリアはそう言いながら、受け取った書簡の紐を解いていき、中身を読んでいく。
「卿の執事を勤めていたブラウン氏を、ブルンテウン地区孤児院の設立と運営を取り仕切る役に任命します」
「えっ、私が……ですか?」
まさか自分が、今まで仕えてきた主人の意思を告ぐとは思っていなかったらしく、執事の男は口を開いたまま硬直してしまった。
「不服ですか?」
「と、とんでもない! 勅命、謹んでお受けいたします。才乏しき身であり、至らぬ点は多々あるかと思いますが、今後ともよろしくお願いします!」
「ありがとう。共に頑張っていきましょう」
それでも男は女王の期待を裏切らないよう、そして亡くなった主人の思いを途絶えさせないよう、膝を折ってそう伝えると、女王は彼の手をぎゅっと握り感謝と激励の言葉を送った。
こうして、ブルンテウン地区の騒動は終結する。
地区の人らは、晴れ晴れとした笑顔でスノーフィリア達を見送った。




