130. スノーフィリアの旅 ~傲慢編①~
サクヤと合流してから数日後。
女王の私室にて。
「これでどうかな?」
「はい、とてもお似合いです」
女王は普段着慣れたドレスを脱ぎ、ココから貰った衣装とよく似たエプロンドレスを身に着けて楽な髪型に変える。
その姿は、傍から見れば村娘かどこかの貴族の使用人にしか見えない。
「じゃあこれから、私の事はユキって呼ぶんだよ?」
「はい、かしこまりました」
旅をする上で、スノーフィリアが間違っても国のトップなんて事はばれてはいけない。
姫だった頃よりも、さらに大きな混乱が起きてしまうからだ。
「サクヤもね」
「解りました」
そして、それはサクヤも例外ではない。
名門貴族ブロッサム家は、組織に加担し国家を混乱させた罪により、資産の没収と島流しの刑に処された。
その事は国内全土にお触れが出ており、貴族や高官は勿論だが商人や農夫でも周知しているため、そんな人物が居れば大問題になってしまうのである。
「あと! サクヤは敬語禁止だよ?」
「別に良いでしょう。ルリフィーネも敬語ですよ」
錯覚の魔術が付与されたアクセサリを身に着けているとはいえ、今回の旅はお互いの素性がばれる事は極力控えたいので、全員がメイド衣装を着たルリフィーネと同じ立場を装わなければならない。
「うーん、二人とも敬語使うと解らないじゃない? いろいろと……」
「そこまでの配慮は越権行為かと思うけれど……、解ったわ」
さらにユキは、意味深な表情をしながらそう伝えると、サクヤはその真意を理解したのか目を閉じたままユキの言葉に賛同して言葉を崩した。
「それで……、どこへ行くの? あてはあるのかしら?」
「まずはブルンテウン地区へ行こうと思う」
ブルンテウン地区とは、水神の国内でも有数の高級住宅街である。
国家運営の中枢を担う高官や貴族、大商人の本邸が建っており、それに伴い数多くのブランドショップが並んでいる。
民衆の間では、そこの地区に住居を構える事が一種のステイタスになる程だ。
「どうして?」
「この辺りを治めているバルディヤ卿は、福祉に対して強い感心を持っているみたい。私財を使って孤児院を作ろうと計画しているんだよ」
「ほおほお……」
金銭的に余裕のある者が、福祉行為に及ぶ事はこの世界でも珍しくはなかった。
だが過去の戦争の影響で、そういった活動が下火になっていた。
そんな中、特に金銭的に余裕のあるバルディヤ卿が現状を憂いで立ち上がったのだ。
「この国は、まだまだ不幸な人達がたくさんいる……」
多くの未来を持つ子供達が不幸になる理由は、何も組織だけではない。
併合された国や地域が反発した結果勃発する小規模な紛争や、殺人や誘拐といった犯罪行為に巻き込まれたり、あるいは日々の生活すらままならない程の貧困、そして病気。
「私は、そんな人達を救いたい」
ユキは使用人や修道女として過ごしてきた日々を経て、一部そういった人らがどのような運命を辿ってしまうのかを目の当たりにしてきた。
だからこそ、自身の手で可能な限り救いたいと思ったのだ。
「国庫から直接資金提供をする約束を取り付けると?」
「うん、必要があれば援助はするよ。でもね、それ以外に問題があって」
サクヤの質問に、ユキは物憂げな表情をしながら答える。
「なにかしら?」
「孤児院を作ろうとしたんだけれど、住民と反発しちゃって……」
これから向かう場所は、一つだけ問題が起きていた。
それは、孤児院設営を推進するバルディヤ卿の派閥と、そこの地区に住む一部の住民とで反発しあっているのだ。
「今日は、私達の素性が本当に隠れているかの確認と、お忍びの視察って感じかな」
「なるほど、そういう事ね」
そしてそれを確かめるべく、またそういった行動を推し進めようしている貴族達を応援するために向かう事を、二人へ伝えた。
「それじゃあ、行こう」
「ええ」
「はい」
こうして一行は、高級住宅街ブルンテウン地区へ向かう。
目立たない格好のお陰か、それとも錯覚の魔術のお陰か、王宮を抜ける際も町を出て行く際も一切気づかれず事は無かった。




