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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Omnibus Part 始まりから転機へ
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129. 新たな始まり

 それからいくつかの年月が流れた時……。

 捕らえたサクヤからの聞きこみもあってか、トリニティ・アークに関与している高官らを排除する事に成功した水神の国は、女王スノーフィリアを代表として新たな国家の運用がなされていた。


 それは、国王あるいは一部官民主導による政治運用ではなく、議会を設けたという事だった。

 女王が最終的な決定権を握っている事に変わりが、あくまで国の象徴という立場を強め、各代表が立案した法案の可否や改正は議会で行う事とした。


 そんな国の変化と同時に、女王の周りに居た人々の生活も変わっていった。

 スノーフィリア本人は国事に追われる日々を過ごし、ルリフィーネはそんな彼女の身の回りの世話をする。

 新世界のメンバーだったくろ、ミズカは水神の国の研究機関へ入り、魔術の研究を行っている。

 マリネも最初は魔術の研究機関へ入る予定だったが、元々一定の土地を治めていた貴族であったため、政治に関しての知見を求められ議会入りをした。

 セーラとロカは女王や首都の護衛任務をしながらも学校へ通う事となり、数奇な運命を歩んできたが故に周囲から浮く時もあったが、何とか上手く学生生活をこなしている。



 そんな、誰もが平和で穏やかな日々が続くと信じていた時。


「う、うぅ……」

 女王は、今まさに死と隣り合わせだった。

 美しいドレスは破れてしまい、傷と埃にまみれ表情にはかすかな生気しか残っていない。



「み、みんな……」

 そんな苦しい状況であっても、スノーフィリアは親しい仲間達を呼んだ。 

 しかし、その声に反応する者は、誰一人居なかった。


 スノーフィリアの周囲の景色は激変していた。

 原型を留めていないほど崩れた城と町、曇った空、既に事切れている仲間達の姿。

 何もかもが色と命を失い、限りなく灰色に近い世界が広がっている。


「どうして、こうなっちゃったのかな……」

 そして、そんな暗色な景色の中で一際彩りを見せている存在が一つ。

 空に浮いたその存在の姿は遠くにあるせいか、誰も知覚する事は出来ない。


 この現状に絶望したスノーフィリアの命が尽きる瞬間、眩い閃光と共に世界は真っ白に染め上げられていく。

 その瞬間、女王の意識は完全に途絶えてしまった。



「うわあああっ!!!」

 自らの最後を迎え入れようとした瞬間、女王は叫びながらベッドから飛び起きて周囲を見回す。

 温かい朝の光、心地よい小鳥のさえずり、爽やかな風。

 そこは先ほど見た絶望的な風景ではなく、スノーフィリアがいつも見ている平穏な日常の始まりだ。


「大丈夫ですか?」

 そんな女王を見た使用人のルリフィーネは、すかさず主人の着替えを準備している手を止め、女王の背中を優しく撫で続けながら優しく声をかけた。


「また、悪夢を見られたのですか?」

「うん」

 スノーフィリアが先程見た悪夢は、今回だけでは無かった。

 天使として目覚め、捕らえたサクヤと言葉を交わし、そして”彼女の話”を聞いてから不定期に何度か見るようになったのだ。


「でもねルリ、私が見た夢は夢じゃないと思うの」

 そして、スノーフィリアは確信していた。

 今まで見てきた悪夢。

 守るべき民は死に絶え、大切な人達が傷つき倒れ、世界が終末を迎えようとする。

 しかも、そうなった原因は天災でも戦争でもない。

 たった一人。

 全てを破壊し、この世界に壊滅的打撃を与える”何者か”の仕業。


「それを確かめないといけない」

 しかもその時は確実に迫っている。

 そんなに遠くない未来に、必ず夢と同じ事が起きる。

 スノーフィリアはそう確信し、自らがそんな絶望に立ち向かわなければならないと理解していた。


「本当に行かれるのですか?」

「うん。大分落ち着いたし、必要があればお城に戻るから」

 女王になったばかりは、国や民衆は混乱していた。

 一時期は暴動やそれに便乗した窃盗や暴行もあった。

 しかし新女王が打ち立てた国家を擁護しようと有能な新世界の人々や組織とは縁遠い貴族達、はたまたスノーフィリアに好意的な商人や他民衆が尽力し、この数年間で水神の国は、かつて女王の両親が統治していた頃を遜色ない程に立ち直っていた。


「では私もお供しましょう」

「よろしくね、ルリ」

 ルリフィーネも、スノーフィリアと行動を共にする事を、当人の目の前で簡潔に伝える。

 専属使用人の決意は主人も理解していたため、一切否定する事無く同行を認めて喜んだ。


「セーラさんにも声をかけた方がよろしいでしょうか?」

「ううん、セーラちゃんはこのまま普通の女の子として過ごして欲しいから」

 この話を聞けば、セーラもきっと付いていくのは間違いない。

 だが、”普通の女の子”として生まれ、組織の手で”普通ではない女の子”へと変えられてしまった少女の、平凡で平穏な生活を邪魔したくない思いがスノーフィリアにはあった為、セーラは敢えて連れて行かない事を伝えた。


「そうですか。かしこまりました」

 その思いはルリフィーネにも伝わり、特に理由を聞く事も無く彼女は笑顔で主君の言葉に同意した。


「実はね、もう一人連れて行きたい人がいるの」

「どなたでしょう?」

 スノーフィリアには、ある考えがあった。

 自身が見た悪夢の真相を確かめるためには、最も信頼している人ともう一人。

 今回の旅で欠かせない人物であり、女王とも縁深い存在。


「今日はそこへ行こうと思うの。ルリも付いてきて欲しい」

「かしこまりました」

 そういうとスノーフィリアは着替えと支度を済ませ、ルリフィーネと共に旅へ同行する三人目が居る場所へ向かう。


「私は反対です。どうしてあの方がスノーフィリア陛下と……」

 その道中にて、スノーフィリアは三人目の人物を伝えると、ルリフィーネは女王とその人物と共に行動する事を反対した。

 今までスノーフィリアの意見を聞いてきた従者が、ここまで強く反発するのは珍しいが、そうなる事は女王の中では予想の範囲内だったので、ルリフィーネの気持ちを汲みつつ理解を求めつつ、目的地を目指していき……。


 船と馬車を使って二日程かけて移動してたどり着いた場所は、国内とはいえ大陸より離れた小島で、僅かな見張りの兵士以外は人気も無く、まるで時代に取り残された退廃感がする場所だった。


「久しぶり」

 スノーフィリアは、目の前に居た人に挨拶をする。

 その人は、黒く艶やかな長い髪と赤い瞳が印象的な、清楚で凛とした少女だった。


「お久しぶりですね。女王陛下」

 かつて秘密結社トリニティ・アークの総帥として裏社会を支配し、スノーフィリアを様々な苦境へ追いやったブロッサム家の当主チェリーであり、周囲からはサクヤと言う愛称で呼ばれている少女は、事前に女王一行の来訪を聞いていたのか、普段住んでいる小屋から出て外で彼女らを待っていたのだ。


 サクヤは国家騒乱罪と非合法の商会を取り仕切った罪、数多くの非道な事をしてきた罪から、全ての資産を没収され、かつ自身は辺境の島への流刑となり、今ここに居る。


「今日はどのような御用で?」

 しばらくの間、俗世から隔離された生活をしていたせいか。

 それとも年齢が上がったせいか。

 元々落ち着いていた人物ではあったが、久しぶりに出会う彼女はさらにその落ち着きに深みが増しているような印象をスノーフィリアとルリフィーネに与えた。


「サクヤ、お願いがあるの」

「なんでしょうか?」

「私はこれから国内を見回ろうと思うの。あなたにもついてきて欲しい」

「ほう……」

 スノーフィリアの願いは意外なものだったのか。

 サクヤは一言だけ声を漏らすと、目を閉じて少し考えだす。


「……あなたも見たのですね」

「うん」

 そして、目をゆっくりと開くと穏やかな表情は少し厳しくなりながらそう言った。

 この時、スノーフィリアが言った言葉が”全ての破滅の夢”である事を、二人は理解し言葉で表さなくても理解しあっていたのだ。


「ですが、私の正体はどうするのですか?」

 サクヤは大罪人であり、それは民衆にも知られいる。

 そんな人物が女王と一緒に居れば必ず良くない事が起きてしまう。


「うん、そう言うと思って用意したよ」

 サクヤがそう言うと事前に予想していたスノーフィリアは、ルリフィーネへ目で合図をする。

 ルリフィーネはカバンの中から小さな皮袋と出し、中に入っていた赤い精霊石が埋め込まれた指輪をサクヤへ渡した。


「その指輪をつけていれば、あなたの存在はばれない。でも変身している時は錯覚の魔術が効かないから気をつけてね」

「ありがとうございます」

 彼女は早々にその指輪をはめてその手を遠い景色にかざした後、軽く頭を下げてスノーフィリアへお礼を言葉を告げた。


「これで心配は無いよね?」

「はい。あとこれを」

 サクヤは指輪を受け取った手で、懐から出した一枚の紙を渡す。


「これは……、地図?」

「ミズカに渡してください。そして、そこへ行かれるようお伝えください」

「解った。ミズカちゃんに渡しておく」

 それがどういう意味なのかはスノーフィリアは理解出来なかったが、この期に及んで危ない事をするとも思えなかったので紙をルリフィーネへ渡し、サクヤに約束した。


「それでは出発しよう」

「はい」

 スノーフィリア、ルリフィーネ、サクヤという意外な組み合わせの中。

 夢で見た滅びの時を、回避するための長く辛い旅が始まる。

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