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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fifth Part. 玉座から処刑台へ
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125. 六花転成

 処刑台を照らし、周囲の人らの目を眩ませるほどの量の光がおさまっていく。



挿絵(By みてみん)



「六花繚乱! アーク・スノーフィリア聖装解放!」

 今まで輪郭の定まらなかった白衣はスノーフィリアとネーヴェ、二人の姫が変身した時の衣装を足して二で割ったような今まで誰も見た事の無いデザインのドレスへと変化を遂げる。


「ルリ、今助けるからね」

 おだやかな口調のまま、スカートの裾を静かに揺らして背中の翼は雄々しく広げると、目をゆっくり閉じた。


「どんな姿になろうとも、あなたの召喚術では――」

 それがたとえ伝説上の生き物である天使であったとしても。

 スノーフィリアが召喚術を使う事に変わりはない。

 今までと同じ様に誰かを使役して自らの手を汚さず、戦果だけを得る。

 サクヤはそう思い、信じていた。


 だが、次の瞬間。

 その考えは裏切られる事となる。


「主の光、神意に背きし者の悪意を退けよ! グロリアス・ラディアント・バリア!」

 スノーフィリアは、目をかっと見開き術の名前を高らかに言い放つ。

 するとこの戦場に呼び出され、そして今にも潰されそうになっていたルリフィーネを白銀の光で包まれていく。

 やがて光は球形に広がると、今まで膝を折っていたルリフィーネは立ち上がり、サクヤが呼び出した巨大爆弾をみるみると押し返していく。


「ルリ……、私も一緒だからね」

 そしてスノーフィリアは、圧迫されていたルリフィーネの背中をそっと優しく包み込みながら、自らが白銀の光となって呼び出した最愛のメイドと一つになった。


「合体した……?」

「う、うそ……」

「スノーフィリア様……」

 まさか召喚した存在と合わさるとは誰も思っていなかったらしく、全員が唖然としてしまう。


 そんな中、スノーフィリアと一体になったルリフィーネは、白銀の輝きを宿しながらミサイルを抱きかかえると空中へ勢いよく放り投げ、自身も天高く飛んでいき。

「奥義、火懲風月!」

 かつて審問官を倒した時に使った技の名前を叫ぶと、ルリフィーネはたちまち一羽の火の鳥となってミサイルと激突し、上空で爆発させる。

 圧倒的なエネルギーの炸裂は周囲の空気を振動させ、それに伴う突風によって処刑場に居た人々は次々と倒れていってしまう。

 処刑台の上に居た新世界の人らは、どうにか飛ばされないよう近くにあった物へとしがみついた。



 爆発はおさまり、辺りに再び平穏が訪れた時。

 召喚されたルリフィーネはいつの間にか消えており、空からゆっくりとスノーフィリアが降りてくる。


「お、おい……」

「俺達今まで……」

「あ、あれ? どうしてここに?」

 先ほどの爆風の影響なのか、今までサクヤを支持し、スノーフィリア達が処断されるのを期待していた民衆達の熱はすっかり冷めてしまっていた。

 それらはまるで、何か憑き物が取れたような感じだった。


「あれは!」

「まさか、天使……?」

「ああ、そんな……」

 それと同時に、神々しい姿へと変わったスノーフィリアを見る。

 ある者は恐れおののき、ある者は涙を流して祈りを捧げ、ある者は口を開けたまま何もせずただ呆然としている。


「どうやら、私の負けのようですね」

 最後の攻撃も防がれてしまったサクヤはその場で力なく座り込み、生まれ変わった天使を見上げながら自らの敗北を認めた。

 その時彼女がどこか安心していた事にスノーフィリアは気づいたが、真意は解らなかった。


「これから、どうしますか?」

「ここで見逃すって言っても、納得してくれないよね」

「そうですね」

 今までサクヤはスノーフィリアに対して酷い事を散々してきた。

 当然、許されるものではない。


「今ここで私を助ければ、アレフィの時の二の舞になるでしょう」

 サクヤがその言葉を言うと、スノーフィリアはココに自身の甘さを指摘された事を思い出す。

 まさにそれは、かつての決断の再来だった。


「お願い! サクヤを……、サクヤを殺して! ユキだって散々酷い目にあってきたじゃない! 組織の長は生きてちゃいけないんだ! だから!!」

 ミズカは必死に叫んだ。

 その声と同時に、スノーフィリアは過去を思い出して目を閉じる。


「組織っておい、あの裏ギルドの……」

「馬鹿な、あんな少女が仕切ってきたのか?」

 民衆がサクヤは組織の長であると気づくと、必然とざわめきだす。

 世界を裏で操る者の正体が、見た目は可憐で凛とした少女だという事を、誰もが素直に信じ切れなかった。


「ねえ、何を迷っているの……? あなたにはそいつを殺す意味はある! みんなの為ならお願いだから殺して!」

 ミズカは泣きそうになりながら、うつむいて考えているスノーフィリアへ訴えた。

 今天使の力を使えば、サクヤの命を奪う事が出来るのは間違いない。

 アレフィの時とは違い、確実な死を与えられる力が今ならある。


「そうだそうだ!」

「組織の人間は皆死ねー!」

「女だろうが子供だろうが関係ない、罪を償え!」

 そして組織への嫌悪感を持つ民衆は、長であるサクヤに対してミズカと同じ様な負の感情をぶつける。

 それは、迷うスノーフィリアの背中を押すには十分な熱気だ。


 そうだ。

 今サクヤを殺しても、何の憂いも無い。

 国の人、新世界の人、この場に居る全ての人が私に最後の決断をする事を期待している。


 スノーフィリアは目を開くと、戦意を失ったサクヤへとゆっくり歩み寄って行く。

 この時、内面には黒い物がぐるぐると蠢いており、その様は神々しい外見からはまるで想像がつかない。


 そして、 その感情をスノーフィリア本人も十分解っており、それに委ねようとする。


「組織の人間に裁きを!」

「お願い! そいつを殺して!」

「死ね! 死んで償え!」

 サクヤは、お父様とお母様を殺した。

 サクヤは、私を不遇な状況へ追いやった。

 サクヤは、いろんな人を騙してきた。


「殺せ!」

「殺せ!」

「殺せ!」

 だからこの人は、生きてちゃいけないんだ。

 私が……!

 私がこの手で……!


 自らの気持ちの赴くままに。

 天使は今、罪人に死の制裁を与えようとする!

イラスト:ささかげ

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