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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fifth Part. 玉座から処刑台へ
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124. 姫から天使へ

 サクヤが呼び出したミサイルと呼ばれる巨大爆弾は、ゆっくりと落下していく。

 もしも着地したならば、押し潰されるだけではなくて大爆発を引き起こしてルリや新世界の人達は勿論、関係のない人々まで巻き込んでしまう。

 そんな確信じみた考えに至ったスノーフィリアは、召喚術で呼び出したルリフィーネをつかわせる。


 ルリフィーネは落ちてくるミサイルを受け止め、地面との接触を阻止する事には成功した。

 それら常人ならば絶対にありえない行為に、サクヤはよろめきながら感嘆してしまう。

 だが、あまりにも質量が大きいせいか、受け止めたルリフィーネの足元はじわじわと地面へめり込んでいった。


「私は知っているのですよ。あなたが姫に戻りたいという事を」

 頭を抱え、ふらつく体をどうにか支えながら、サクヤはスノーフィリアへそう言う。


「無条件で万人から慕われ、愛され、否定もされない、そんな自分に戻りたい。違いますか?」

 その発言を聞いた時、かつて風精の国でラプラタに”それとも、あの姿でずっといるつもりだったの? お姫様。”と言われた事を思い出す。


「そうだよ。私は姫に戻りたかった」

 サクヤの言うとおり、スノーフィリアは昔の自分に戻りたかった。


「ずっと苦しかった。昔の穏やかな生活が恋しかった」

 厳密に言えば姫と言う地位ではない。

 サクヤの言うとおり、誰からも愛され、何の不便不快も無く、ハプニングやアクシデントとも縁遠い。

 そんなぬるま湯に浸かるような心地よい生活を懐かしんでいた。

 そしてその感情は、苦境に立たされれば立たされるほど強くなっていった。


 しかし、それを表へ出す事は許されなかった。

 皆が私の為に頑張ってくれている。

 だから私も頑張らなければならない。

 自分の本当の思いを曝け出す事は、周りの尽くしてくれている人たちにとって最大の冒涜行為だと解っていたスノーフィリアは、誰にも打ち明ける事が出来なかった。


「でもねサクヤ」

 だが、その気持ちとは別に、スノーフィリアの中にはある思いがあった。


「私にはやらなきゃいけないことがあるの」

 それは天使として目覚めたからではなく、不遇な境遇の中で自分が悩み苦しみ、そして同じように苦しむ人達を共に過ごしてきた結果、育まれた物だった。


「それはなんですか?」

 サクヤは、冷たい表情のままスノーフィリアに尋ねる。


「私の仲間や、無力な人、苦しんでいる人を助ける事」

 自分が受けた痛みを、繰り返してはいけない。

 他の誰かの苦しみを、とめなければならない。

 それらは、姫として平穏な日々を送っていたら絶対に得る事が出来なかった思い。


「欺瞞ですね」

 しかし、スノーフィリアの利他的精神を、サクヤは真っ向から否定した。


「あなたにはネーヴェと言う側面がある以上、本当に心から望んでいる事はそんな事ではない!」

 サクヤはスノーフィリアが自らの感情に溺れ、欲望を求め続けた姿を目の当たりにしてきた。

 目の前に対峙している天使がどんなに綺麗事を言っても、暗い側面は必ず存在している事を強く伝えた。


 そんな二人のやりとりを聞いている中、ふとマリネがそう漏らす。

「それにしても不思議ね」

「何がよ……」

「サクヤの言葉を聞いていると、サクヤが正しいんじゃないかって思えてくるの」

 マリネは、サクヤの主張を聞けば聞く程、まるで不思議な力で操られているかのような、どこか眠たげで甘い痺れが全身を支配していくのを感じており、その事に対して酷く恐怖した為、近くで同じ様に見てきたミズカへ伝えた。

「ちょっと、マリネしっかりしなさいよ!」

 だが、どういう訳かミズカは平気らしく、虚ろな感情に流されようとしているマリネを、強い口調で元気付けようとする。

「そうね、ユキちゃんが頑張っているのにね……」

 その甲斐あってか、マリネは大きく首を振った後にそう言うと、再びサクヤとスノーフィリアの方へ意識を集中させた。


「今だっておかしいじゃないですか。自分を犠牲にして助けると言いながら、前線で戦っているのはあなたの従者」

「ううっ……」

 マリネと同じ感覚を受けているのか、召喚術の使いすぎのせいか、スノーフィリアは酷く苦しそうだった。


「そうやってあなたは、自分の手を汚そうとしない」

 辛辣な言葉の一つ一つが、弾丸のごとく天使の心を撃ちぬいて行く。


「召喚術はまさにあなたの驕りの象徴、身勝手な思いの具現!」

 そしてスノーフィリアに合わせて、呼び出したルリフィーネも同じ様に苦しみだす。


「だからあなたでは無理なのです。さあ、潔く倒れなさい」

 今まで支えてきたルリフィーネは遂に膝を折り、いよいよミサイルに押し潰されそうになってしまう。

 サクヤは自らの強い意志をスノーフィリアへとぶつけ、天使の思いを挫こうとした。


「い、いやだ……」

 それでもスノーフィリアは諦めなかった。

 この苦境の中を必死にもがき、苦しそうな表情をしながらも足を折る事はしなかった。


「あなたがどんな姿になろうとも、どんな力を手に入れようとも、誰かを召し使わせる”姫”である以上、私には勝てない」

「それなら……」

「何ですか?」

「それなら……、私は……姫じゃなくてもいい。姫をやめる!」

「そんな事が出来ると思うのですか? 散々昔を懐かしんできたあなたが今更?」

 そしてスノーフィリアはある決断と決別した。

 それは心の底から姫という立場を捨てると共に、穏やかだった日々への憧れに別れを告げて、苦しい現実を受け入れ人々を救うという決意だった。


「耳障りのいい事ばかり言って……。”スノーフィリア姫”は無力なだけではなく無責任で不誠実なのですね。不愉快です、このまま塵になりなさい」

「私はもう姫じゃない! 私は……、私は……、天使スノーフィリアだ!」

 スノーフィリアの強い決意は言葉となって、自らの口から今まで固執してきた姫という存在を否定し……。


解放する(リリースオブ・サーク)白雪天使のレッドエンジェル・エキスト真髄(ラエッセンス)!」

 天使は新たな解放の言葉を言い放つ。

 すると体から強烈な光を放ち、処刑場を眩く照らしていった。

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