118. ユキ、帰還
ユキが目覚めた報を受けた一行は、ルリフィーネを先頭にユキの眠っている部屋へと向かう。
そして部屋の扉を急いで開けると、今まで眠っていた少女がベッドの上で座っていた。
「ユキ様!」
「ユキ!」
「あ、ルリ。ホタルお姉さま」
寝起きなのか、あるいはネーヴェの変身から戻った反動なのか。
ユキにいつもの元気は無く、少し曇った瞳でルリフィーネたちの方を見る。
「よかった……、本当に良かった……」
「このー! 心配かけさせてー!」
そして、いつ目が覚めるか解らなかったユキを、ルリフィーネとホタルは強く抱きしめた。
「い、痛いよ二人とも……」
急に勢いよく二人に抱きつかれたせいか、ユキは少し苦しそうだった。
「どこも怪我はないでしょうか? お気分はどうでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ」
いつもの様子とは少し違う事に、ルリフィーネもホタルも気づいていた。
故にユキを心配して言葉をかけたが、ユキは弱った瞳のまま二人の方を見て無事だと伝えた。
「えっ、あなた……」
「久しぶりだね」
三人の久しぶりの再会から間も無く、人ごみをかきわけてユキの友がゆっくりと歩いてくる。
ユキもまさかこの場所にココが居るとは思っていなかったらしく、目を見開いたまま呆然としてしまう。
「ココ……、ううぅっ……」
「よしよし、泣かないで」
ユキが泣き出すまでには対して時間はかからなかった。
ベッドに座ったまま、曇った瞳を潤ませて震えながら嗚咽するユキを、ココは優しく抱いて頭を撫でた。
「でもどうして? あなたはジョーカードールになったんじゃ……?」
「それに関しては私が話すわ」
ユキはココの登場が意外であり、そして疑問だった。
かつてジョーカードールとして組織の手駒となってユキの前に立ちはだかり、陥れようとした張本人がどうして組織とは対極の立場である新世界の人々に匿われているのかが解らなかった。
その謎を払拭するため、マリネはユキへ今まで起きた出来事を全て話してゆく。
ルリフィーネが運良くサクヤの館から逃げ出せて、その後ユキを取り返すために苛烈な修行をしたこと。
セーラは重傷を負いながらも復活し、新世界のアジトに身を寄せていたこと。
人間である事を捨てて新たな力を手に入れたホタルが、セーラの後を追ってここまできたこと。
ユキがネーヴェとして、水神の国でしてきたこと。
ユキを取り戻す為にハーベスタが犠牲になったこと……。
「そうだったんだ……」
全てを話し終えると、ユキは酷く悲しい表情をしていた。
「そんなに気を落とさないで下さい。あなたは操られていた、組織の手にかかって――」
「それでも、私は……。私は……。ううっ……」
ユキは、洗脳されていたとはいえ自らがしてきた事に対し、酷く責任を感じてしまう。
その重さに耐え切れず、伏せて再び泣き出しそうになろうとした時。
「泣かない!」
「えっ……」
後ろでこの状況を傍観していたミズカが一喝し、自らの手を一度だけ強くあわせる。
「ハーベスタはあなたを助けるために犠牲になった。ホタルお姉さまだって……、あなたの力になりたいから自分を捨てた。みんな自分の為、そしてあなたの為に頑張ってきたんだから」
「うん……」
「あなたが胸を張らないと、頑張ってきた人達に失礼じゃない!」
ミズカは、自身もうっすらと瞳に涙を浮かべながらユキに伝えた。
ユキの為に皆が頑張った事、そしてユキが一人じゃない事を必死に説いた。
「ごめんなさい……、泣いてばかりで……。弱くて……」
そんなミズカに懸命な思いが伝わり、ユキは目を何度もこすってどうにか泣かない様に努める。
気持ちの高ぶりはどうにかおさまる見込みはついた、だがこすりすぎたせいか目は真っ赤になって腫れてしまった。
「ねね、ユキ。あなたの絵、出来たよ。ほらっ」
二人のやり取りがひと段落したのを見計らい、ココが今まで描いていたユキの絵を見せた。
「おおー」
「見事ですね」
キャンバスに描かれたユキはちゃんと色がつけられており、線画だけだった時よりも淡く優しい印象がより強く表現されている。
絵の中のユキはとても幸福そうであり、かつどこか儚そうだった。
「凄い……、凄いよココ……」
「えへへ。そんなに感動されると、照れちゃうね」
ユキは完成した自身の絵を見てとても感動し、泣き止んだはずの瞳がまた潤みだしてしまう。
それは絵の上手さもそうだが、ココがユキを思う気持ちが伝わったからであった。
「本当に、戻って来てくれてありがとう……」
「あたしは何もしてないけれど、これからもよろしくね、ユキ」
「うん……。うんっ……」
経緯はどうあれ、ユキのした行いは消えない。
そして、ユキ一人ではその重圧に耐えられなかったのは事実だろう。
しかし、今はそんなか弱い少女を支えてくれる人達がいる。
今まで辛く苦しい環境を乗り越え、たくさんの仲間を手に入れた。
「ルリ、ホタルお姉さま、セーラちゃん、みんな……、心配かけてごめんなさい。私はもう大丈夫だから」
ユキは自身を大切に思っている人らに心から感謝した。
そして、ココの描いてくれた絵をもう一度見た後、強く頼もしい眼差しで立ち直る事を周りの人達に伝えた。
それから、しばらくの時が経った。
ユキを取り返すために出て行った人らの傷は癒え、疲労も回復した頃。
「これからの話だけど……」
マリネは全員を呼び出し、これからについて話そうとしていた。
ハーベスタを失った新世界は、彼の次に年長者であるマリネが代わりに作戦を考えている。
「当初の予定通り、ユキちゃんを擁立していこうと思うの。ユキちゃん、大丈夫かしら?」
「はい。私は大丈夫です」
それは、ここにはもう居ない二人の新世界のメンバーであるハーベスタとサクヤが提案、推し進めた計画だった。
「私とミズカ、くろの三人で今準備しているわ。その準備が出来次第、作戦決行よ」
「具体的に、何をするのでしょうか?」
「今までの組織がしてきた行いや高官が組織と繋がりがある事を、魔術の媒体に封印させてあるわ。それを国の全土に広めたら……、どう思う?」
「民衆は混乱するでしょうね」
「そこでユキちゃんが登場して、真の統治者はアクアクラウン一族だって主張するの」
新世界がどのような作戦で組織打倒を画策していたかはユキ達も知っていたが、詳細な手段を聞いたのは初めてだった。
「ちょっと力押しすぎやしない? そんな都合よく動くいくのかい?」
ユキは災難続きの中でも頑張ってきた。
しかし、その事を何も知らない民衆が、果たして十代前半の少女を長として受け入れるのか?
ホタルはその点がどうしても不安だったのだ。
「正直、賭けよ。成功する確率は半分以下ってとこでしょうね。大暴動に繋がる恐れもある、最悪国そのものが無秩序な状態になってしまう」
「おいおい……」
勿論、その事はマリネも承知であり、この作戦が失敗した時にどうなるかもはっきりと伝えた。
「でもねホタルちゃん。もうこうするしか手はないの。サクヤが抜け、ハーベスタが居なくなって、人も大分減ってしまった新世界は、この作戦を決行するのが精一杯なのよ」
新世界の活動資金はサクヤが調達していた。
そのサクヤが居なくなってしまい、金銭で解決出来る物が出来なくなってしまった。
それでもハーベスタや他のメンバーらがどうにかやりくりし、ここまで新世界を存続し続ける事が出来たのだが、水神の国が寒さに支配された時に物資を大量購入したせいで資金が底をついてしまったのだ。
「……解ったよ。水差すような事言って悪かった」
「いいのよ。ホタルちゃんのいう事も正しいのだから」
次の作戦が最後であり、秘密結社トリニティ・アークと新世界の命運を決める一手となる。
その事を理解したホタルはマリネへ深く頭を下げ、マリネも笑顔でホタルを許した。
「いよいよだね」
「そうね」
「みんな、最後の作戦。絶対成功させるよ!」
ミズカの言葉によって、全員の気持ちが一つになる。
アジト内は、緊張感が高まっていく。
「はい!」
「勿論~」
「了解しました」
各々は明るい未来の為、トリニティ・アーク無き新たな世界の第一歩を夢見ながら、ミズカの言葉に声をはって答えた。




