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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fifth Part. 玉座から処刑台へ
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115. 追憶

 ホタルは利き手に意識を集中させながら、一歩ずつ着実にネーヴェへと迫る。

 主人の危機を感じたセーラは、懐いていたユキの成れの果てであるネーヴェから離れ、かつての仲間であるホタルへ刃を向けた。


「セーラちゃん! ……ごめん。拘束のルーン発動!」

「ぐっ」

 ホタルはセーラが妨害してくるのを見越しており、彼女が襲いかかろうとする前に刻印術で動きを封じてしまう。

 セーラもホタルの悪魔化の力や刻印術について把握しているわけでは無かったので、術は見事に決まり、身動きがとれず苦しそうにもがいている。


「この術だけは誰にも邪魔させない」

 ホタルは悪魔化した時、あるとっておきの術を託されていた。

 それは、風精の国の前宮廷魔術師長が半生をかけて見つけた力であり、過去にルリフィーネらがブカレスから聞いていた時間操作の術だった。


「時のルーン発動! いっけえええええええ!!!」

 手甲が輝きに満ちるとホタルは、一気に駆けてネーヴェとの距離を詰めていく。

 そして眩く光る手で氷の姫に触れようとする。


 もしもこの時、触れる事に成功したならば、ネーヴェの時は逆行して組織に囚われる前のユキへ戻るはずだった。


「く、くううぅぅ……」

 しかしホタルの手が、ネーヴェの肌に触れるか触れないかぎりぎりのところで止まってしまうと同時に、姫の胸に埋め込まれた雪宝石が強く輝きだし、手甲の光を吸収しだす。


「嘘だろ、雪宝石が……力を吸っている……!」

 力を吸収される事による苦痛と、この予想外の展開に対する驚きは、ホタルの表情を酷く歪ませる。

 二人の距離がだんだんと離れていく。

 その様はまるで、ホタルの救いの手を拒絶するかのようだった。


「く、くあああああぁぁぁっっ!!!!」

「ホタルさん!」

 後一歩、もう少しのところだった。

 ホタルは結局触れられず、叫びながら大きく吹き飛ばされて、床へと叩きつけられてしまった。


「はぁっ、はぁっ……」

「大丈夫ですか、ホタルさん!」

 手甲の輝きは失われてしまい、代わりに真っ赤な血が流れ落ちていく。

 ホタルの息づかいは荒く、赤く染まった手は小刻みに震えている。


「ネーヴェが命ずる。虚無の果てに住まいし魔人よ、我の下に姿を現し、その力で愚者を永遠なる虚ろへ誘え……。暗雪水晶(シャドウクリスタル・)の純黒使者(ヴォイドレジデント)!」

 だが、そんな手負いのホタルにネーヴェは容赦しなかった。

 墜ちた姫は妖しげに微笑みながら詠唱を終えて召喚術発動を完遂させると、しなやかな指をルリフィーネ達へ向ける。

 するとそこから一粒の光が零れ落ち、召喚した生命体が現れた。


「サモナー、用件は何だ?」

「そこの悪魔と偽者に最高の夢を見させてあげて……」

 しかし、呼び出されたのは今までの召喚体とはまるで異なる、禍々しい瘴気で全身を包んでいる黒紫色の包帯を顔を巻いた魔術師風の男だった。


「解った」

 魔術師風の男は術者であるネーヴェの命令に一言返事をすると、ルリフィーネとホタルを交互に見つめて少しの合間の後に、まだ動けるルリフィーネの方をぐっと凝視する。


「ああああっ!!!!!」

 この時、悪魔になったホタルですら、何をしたのか解らなかった。

 ルリフィーネと魔術師風の男の目線が合った瞬間、ルリフィーネは黒い瘴気に包まれてしまい、酷く苦しんだ後にその場で力なく倒れてしまう。


「ルリさん! く、くそっ……」

 この時、今まで拘束していたセーラも体が自由になり、負傷したホタルは絶体絶命の危機を迎えることとなる。


「ウフフ。大丈夫よ、二人ともとっても素敵にしてあげるから」

 このままユキを救えず、ネーヴェによって倒されてしまうのか。

 全てを捨てて力を手に入れたのに、それでも駄目なのか。

 悔やみながらも、この絶望的状況を受け入れざるをえないとホタルが思い、視線を落とした。


 しかし物語は、まだ彼女らの旅と戦いを終わらせない。


「おい、手こずっているようだな」

「どうにか間に合ったみたいだね」

 謁見の間入り口には、三総帥のうちのサクヤとフィレを追って出て行った、サラマンドラとミズカが現れる。


「サラマンドラ! ミズカ!」

 ミズカは簡易的ではあるが傷ついたホタルへ治療の魔術で応急処置を施し、サラマンドラは倒れたルリフィーネを担いで部屋の隅へと寝かせた。


「小娘、何を泣いている」

 ミズカは信頼していたサクヤに裏切られ、ハーベスタの命を奪われ、その状態で大魔術を使った。

 結果、精神は酷く疲労し、自身が意識していなくても涙が零れ落ちていく。


「う、うるさいわねっ! 泣いてなんかないんだから! だいたい、あなたもぼろぼろじゃない」

 サラマンドラは同門のフィレと戦い、彼女の究極奥義を受けた。

 謁見の間へ向かう道中、ミズカと合流した時にホタルと同様の応急治療を受けて止血は出来たが、それでも生々しい傷あとは残ったままだ。


「こんなもんかすり傷だ。俺はまだ戦える。だが、一旦引いたほうがよさそうだな」

「……そうだね」

 敵はネーヴェと呼び出された魔術師風の男、偽者のルリフィーネ、寝返ったセーラの三人だ。

 サクヤとフィレは倒しており、頭数としては五分である。

 しかし新世界側の消耗は激しく、無傷の組織側と戦うのは厳しい。

 そう察したのか、二人はどうにかこの場からの撤退しようとする。


「ま、待って! ユキを……、ユキを取り返す!」

 しかし、ホタルは頑なに拒否した。

 それはこの機会を逃せば、もう二度とネーヴェに会う事はできず、それはユキがこのまま帰ってこない事を意味する。

 それらをホタルは理解しており、痛みの残る腕を抱えながら、二人をどうにか説得しようとする。


「頼む、ルリさんの偽者とセーラちゃんをどうにか……」

 全員に余力なんて無い。

 このまま逃げなければ全滅だって有り得る。

 それはホタルも十分解っていた。

 だがホタルは、今までにないくらいに懇願した。


「……いいだろう。俺は偽者をやる」

 そんな純粋で必死な思いが伝わったのか、サラマンドラはぐっと拳を握りルリフィーネの偽者へと対峙する。


「えっ、ちょっと! もうぼろぼろじゃない! 無理だよ!」

 ミズカはまだホタルの案に対して肯定的ではなかった。

 ゆっくりとかつ堂々と歩んでいくサラマンドラをどうにか止めようと試みる。


「あーもう! 解ったよ!」

 しかし、それら行為は全て無駄だった。

 サラマンドラとホタルの顔を交互に見たミズカは、大声を出して顔を横に振りながらも、ホタルの作戦に乗る事を約束した。


 ホタルは二人に無言で軽く頭を下げた後に再び立ち上がり、腕の痛みを歯を食いしばってこらえながら、再び力を集中させてゆく。

 この時、今までの出来事が頭の中を駆け巡りだす。


「私が一人ぼっちの時、何の躊躇いも無く、訳隔たり無く接してくれた」

 ユキに出会う前のホタルは誰にも心を開かなかった。

 それは、自らの黒い野望に他者を巻き込まないためだった。

 だからこそ素行の悪さを演じ、他の誰からも好かれる事がないようにしてきた。

 その結果、修道女達からは変人と見られ、腫れ物扱いをされた。


 そんな中、ユキはホタルに対して何ら分け隔てなく接してきた。

 ユキの正体を知っていたホタルは、”どうせ自分の心が余裕の時にだけ生まれる都合のいい博愛精神”と思い真面目には受け取れなかった。


「……自分の正体ばれるの覚悟で私を助けようと審問官にかけあった。私が復讐心に囚われていた時、ユキは変身して私を救ってくれた」

 しかし、ホタルの目測は誤っていた。

 ユキは自らを犠牲にして、ホタルを守ろうとしたのだ。


 ユキの年齢や出自や境遇なんて、どうでもよかった。

 真の意味で自分を信頼してくれる人が居た事が、ホタルは嬉しかった。

 だからこそ、ホタルはユキを救いたいのだ。


「そりゃあ、ユキの歩んできた道が全て正しいなんて思っちゃいないさ」

 ホタルの手甲が再び輝きを取り戻していく。


「けどな、私はお姉さまだからな! 可愛い妹は助けないと!」

 歯を食いしばり苦痛を堪え、鮮血が滴る腕をあげてぐっと手を開き、ネーヴェへと再び触れようとする。


「くそっ……!」

 だが、そんなホタルの頑張りを遮るかのように召喚した魔術師の男が間に入られてしまい、ホタルと目線を合わせようとしてきた。

 助けに来てくれた二人は専ら戦っている最中で、とても助けに来れる状況ではない。

 ”最早ここまでか”と、諦めそうになった時。

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