112. それぞれの宿命に向けて
背後から声が聞こえる。
謁見の間に乗り込んだ新世界の人ら全員が、そちらを振り向くと……。
「サクヤ!」
「フィレ!」
一人は、かつてサラマンドラやルリフィーネを倒したフィレであり、もう一人はかつて新世界のメンバーとして行動を共にしてきたサクヤだった。
組織の幹部二人は、驚く新世界の人らとは逆にこの場を冷静に見据えて立っていた。
「来ると思っていましたよ」
「ちっ、全てお見通しと言うわけか」
今回もまたサクヤ達に一歩先を越された事が解ったハーベスタは、悔しそうに舌打ちをして不快感を露にする。
「……ちょうどいい」
「どうした、私と戦うのか?」
「当然ッ!」
しかしサラマンドラは驚きもせず、悔しがる事もせず、新世界の人らを無視して自身を倒した相手へとにじり寄りながら、利き手をぐっと強く握り決闘を申し込んだ。
「サラマンドラ!」
今ここで兵力を分散するのは愚かな行為であり、強大でかつ未知な力を秘めた組織の長達には、新世界の人達も力を合わせて戦わなければならない。
それは作戦参謀のハーベスタは勿論、他の全員が解っていた。
故にサラマンドラの行動は無謀で、他の人達の身を窮地に追いやる可能性があったため、ハーベスタは全力でかつてのリーダーを制止しようとした。
「あー、おいっ! 言っちゃったぞ?」
ホタルも勿論例外ではなく、ハーベスタと同様にサラマンドラを呼び止めようとする。
しかし、火竜の元国王は一切彼らの声を聞かず、フィレへと付いていき謁見の間から出て行ってしまった。
「おねえ、裏切ったの、……嘘だよね?」
次に言葉を発したのは、今まで驚いたまま硬直していたミズカだった。
今まで新世界の中で最もサクヤを信頼してた彼女は、とても不安げな顔をしながら真意を確かめようと問いかけた。
「ミズカ、嘘ではありませんよ。私は秘密結社トリニティ・アーク三総帥の一人、絶望の黒桜姫チェリーなのですから」
しかし、サクヤは一つ軽くため息をつき、自身の本当の姿を打ち明ける。
この瞬間、ミズカの顔は青ざめて泣きそうになってしまう。
「そんな! じゃあ、私たちと一緒に戦ってきたのは!?」
「全てはあなた達の動向を探るため、そして組織にとって不要になった者を都合よく排除するため」
真実を淡々と語るサクヤ、それを聞き絶望の淵に叩き落されるミズカ。
その光景は、ユキがサクヤに撃たれた時の再現だった。
「じゃあ……、私のお父さんやお母さんも……」
「はい、私の命令であなたの村を襲わせました」
「うっ、ううっ……」
両手で顔を覆い、信じたくなかった真実を受け止めきれないまま、ミズカは自身の仇がもっとも愛していた人であった事を聞くと、体を震わせ号泣する。
そんなみじめでかわいそうな少女を目のあたりにしたサクヤは、意識を集中して、いたいけな少女の命の幕引きをしようとしたその時だった。
「サクヤぁぁぁあああっっ!!!」
泣くのを止めたミズカは、鬼気迫る形相で杖を取り出し力を籠めると、そのままサクヤへと突撃する!
「おいっ! 待てミズカ!」
この状況を辛うじて冷静に見守っていたハーベスタは、今までのやり取りがサクヤの狡猾な罠である事を当然解っていたため、ミズカが羽交い絞めにして全力で止めた。
「うわああああっ!!」
「さあ、ついてきなさいミズカ。決着をつけましょう」
「くそっ、行くな! おい!」
ミズカは怒りで我を忘れていた。
細身かつ思った以上の力で暴れたせいか、ハーベスタの拘束から脱して謁見の間から出て行くサクヤを追って行ってしまう。
「このままミズカ一人を放ってはおけん。ネーヴェの相手、頼んだ」
「解ったよ」
行けば何が待っているか解らない。
しかし、ここでミズカを見送れば間違いなくやられてしまう。
そうなってしまった場合の結末は死か、ユキがネーヴェに成り果てたような洗脳か、あるいはセーラのような肉体の改造か。
いずれにしても彼女にとって最悪な結末を押し付けられるのは明白だったため、ハーベスタはホタルに後の事を任せると、不満げな表情のままミズカを追って行った。
そして残されたのはルリフィーネ、ホタル、セーラの三人だけとなってしまう。
「みんな居なくなってしまったわね。ウフフ」
「ユキ様……」
「あなた達はどうするのかしら? 私の命を奪うの?」
ルリフィーネにとってユキは、どんなに変わったとしても主君である事に変わりは無い。
しかし、水神の国の人々を苦しめているのは事実であり、止めなければならない。
父親代わりの人だけではなく、主人にすら拳を振るわなければならない自身の運命を酷く呪った。
「なあルリさん」
「はい」
そんな葛藤の中、ホタルがルリフィーネの肩をそっと叩いて声をかける。
「ふぅ、私に一つだけ手がある。偽者を引き付けておいてくれないか?」
「どういう事……、ですか?」
「私とユキの二人きりにして欲しいんだ。ほんの少しでいいから」
「……かしこまりました」
ホタルは悪魔となって、刻印術を扱えるようになった。
それだけで、今のユキに対抗出来るのか?
そんな不安と、悪魔だからこそ誰も知らない奥の手があるという期待を心に抱きながら、ルリフィーネは頷き返事をすると、自身の偽者の方を向き構えを取る。
「いくよ。ユキ」
ホタルは聞き手にはめている手甲に、もう片方の手を添えて精神を集中させる。
手甲は紫色に強く輝くと同時に、周囲に小規模な魔方陣が展開されていく。




