110. 目指すは王都、そして玉座
外は雪が吹き荒んでおり、乾いた荒野も、爽やかな草原も、全て純白へと塗り替えられてしまった。
ルリフィーネ、ホタル、セーラ。
ユキが好きな人達であり、そしてまた三人もユキを親しみ慈しんでいる。
そして秘密結社トリニティ・アークの手でかけがえの無いものを失った新世界の人々と仲間達。
生まれ、育ち、年齢、見た目のどれも共通点は無い人々が、同じの思いを胸に抱きながら、果て無き雪道を一歩、また一歩と力強く踏みしめてゆく。
そんな人々には、共通の思いがあった。
それは水神の国の王都に居る、王宮の主プリンセス・ネーヴェに出会うこと。
”ネーヴェに出会えば、全てが解る”
そう信じ、一行は目的地へ向かっていく。
――水神の国の、都へ通じる街道にて。
「本気でこの国全土を氷漬けにする気か!?」
腕で顔にかかる雪を防ぎながら、ハーベスタが叫ぶ。
しかし、猛吹雪に遮られてしまい、彼の声は半分しか仲間達へ届かなかった。
「すごい吹雪……、うううっ」
「ミズカ、帰ってもいいぞ?」
「嫌よ! 私も実際にネーヴェ姫を見に行くんだから!」
比較的体格のいいハーベスタですら、この吹雪では歩くのがやっとであり、そんな彼よりも小さくて力も無いミズカは、ルリフィーネの手を借りてどうにか付いていってはいるが、表情が険しくとても苦しそうだ。
「それにしても前に進めんな……」
王都へと道のりは長く、馬車の調達も出来ない。
仮に調達したとしても、この吹雪では使えるかどうか解らない。
体を鍛えてあるサラマンドラやルリフィーネ、そもそも人間ではないセーラやホタルは問題なさそうだが、それ以外の人はこの尋常ならざる悪天候で、体も気持ちも既に参りかけていた。
「んー。ああ、そうだ。良い方法があった」
そんな中、ホタルはふと何かを思い出したかのように、ハーベスタとミズカが居る方を振り向き。
「風のルーン発動!」
腕の手甲に、力をこめて刻印術を発動させる。
「おお、風が止んだぞ」
すると、狂ったように吹いていた風がぴたりと止み、雪だけが優しく空から降るだけになった。
「私達の周囲に吹く風の流れを変えたよ。これでいけそうかい?」
ホタルの言うとおり、一行が居る場所から少しでも離れた場所は、真上から落ちてくるはずの雪が右から左へとの流れている。
「風が無いだけでも大分楽だな。助かった」
「ホタルお姉さますっごい~!」
風という大きな障壁を払い、一行は再び歩みを進めていく。
ホタルの甲斐あってか、以降の旅はとても順調に進んでいき、日が落ちて周囲が暗くなった頃には都と隠れ家のちょうど中間にある村へと到着する事が出来た。
これだけ寒いならば、村の人達もただでは済まないだろう。
そう思いながら、一行は村の中へと入っていくが……。
「ねえ、村人とか誰も居ないのって」
しかし、村人の姿はなかった。
こんな吹雪では外出なんてするはずも無いと、全員は思いながら村にある宿へ入ったが、宿の中にも誰も居なかった。
「サラマンドラ達を襲った氷の騎士にやられたんだろうな」
「見境無し……ですね」
かつて、サラマンドラとルリフィーネを襲った氷の騎士が、国の辺境にあるシウバの小屋にも来ていたのならば、より都に近いこの場所にも現れたのは当然なのかもしれない。
村人は勿論、氷の騎士を退ける力も術も持っていない。
その結果、無人の村だけが残されたと、全員がそう思いながら胸を痛めた。
「まあ宿は宿だ。代金だけ置いて使えばいいだろう」
サラマンドラはそういうと、担いでいた荷物を降ろして胡坐をかいて座り、そのまま目を閉じる。
各々は暖炉に火をつけたり、宿内にある食料を集めて料理したりして、一時の休息を得た。
村で夜明けまで体を休めた一行は、再び都へと歩く。
相変わらずの悪天候だったが、前日に引き続きホタルの刻印術の手助けもあり、薄暗くなる頃には都へ到着することが出来た。
そして到着した一行は、宮殿を見て愕然とする。
「な、なんだこれは」
水神の首都アウローラにある王宮は、芸術に秀でた国として相応しい佇まいをしており、美術品としての価値があると評される程だ。
だが今はその王宮が青白く凍りついてしまい、氷柱がとげとげしく生えている様は、まるで深い森の中にある魔女の館のようだった。
「ここからは私が案内します。外観は変わっても内部は大きく変わらないでしょうから」
「ルリさん……」
本来なら、長い間ハウスキーパーとして過ごしてきた彼女が一番驚くはずだった。
しかし、大きく変わってしまった王宮を目の当たりにしても、ルリフィーネは冷静に他の仲間を手引きしようとする。
「大丈夫ですよ。さあ、行きましょう」
もしかして、無理をしているのではないのだろうかと他の仲間達が思うと、ルリフィーネはそんな人達の思いを察したのか、一度だけ笑みを見せた後にそう言った。
街を抜け、過去にユキが命からがら逃げた裏口へと向かう。
いつもなら見張りの兵士が居るはずなのに、兵士どころか城の中で働く人達の気配すら感じない。
ルリフィーネは氷の騎士の襲撃を警戒し、細心の注意を払いながら敷地内を進んでいく。
しかし、一面の雪景色が広がるだけで、動いている者は王宮へ侵入した人達のみだった。
「宮殿の中は意外と暖かいね」
そして一行は意外にも、宮殿の中へ難なく入る事が出来る。
ミズカは中の気温の違いを察知し、深々と被っていたフードを外しながらそう言った。
「少なくともお姫様が居るからな。あんな極寒じゃ生活できないだろう?」
「う、うん」
宮殿内は外の極寒な空間とはまるで異なり、防寒具がむしろ暑くなるくらい暖かい。
そんな妙に生活感溢れる様子が、忍び込んだ一行を余計に不安がらせてしまう。
内部へ入ってからも、一行は慎重に進んでいく。
何らかの妨害なり襲撃なりがあると思われたが、ここでも一切なにも起きず……。
「この先です。この階段を上っていった先の扉を入った場所が謁見の間です」
いよいよ姫君が居るであろう謁見の間へ通じる扉がある、宮殿の広間に到着する。
全員が扉を見上げてネーヴェ姫の事を考えながら、無言のまま階段を登っていく。




