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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fifth Part. 玉座から処刑台へ
109/232

108. 合流

 防寒具を着込んだ少女は、貧民街の奥のさらに地下へとルリフィーネ達を誘う。

 その場所は暗くて、埃やゴミが散乱しており、室内へ入ると生臭い匂いが一行の鼻につく。

 お世辞にも衛生的で、快適に過ごせる場所とは言えない。

 そしてそこに居る人らはいずれも、自分よりも大きな存在に踏み潰されないよう、必死にもがいて抵抗しているような雰囲気を出していた。


「ここはどこなのですか? あなたは?」

 ルリフィーネは、防寒具で素顔が見えない少女の正体を知りたがっていた。

 それはこの場所はかつてハーベスタが伝えた、サクヤの罠から新世界の人々を守る隠れ家のある場所だったからだ。


「こんな格好じゃ解らないよね」

 水神の国はネーヴェ姫の手によって大きく変わってしまった。

 そしてその姫君は、秘密結社トリニティ・アークの三人居る総帥のうちの一人だ。

 彼女の目的は未だ知れない。

 だからこそ不気味であり、逸れたユキや仲間達の様子が気になっていた。


 そんな中、ルリフィーネは少女が防寒具を脱いでいくさまを見守り、脱ぎ終えて姿が露になった瞬間、驚きの表情を見せた。


「ミズカさん!」

「久しぶり」

「良かった。無事で何よりです」

「メイドさんも元気そうだね」

 防寒具の少女の正体は、新世界の幹部であるミズカだったのだ。

 ルリフィーネは無事な彼女の姿を見ると、胸を撫で下ろした。


「という事は……」

 この時ルリフィーネには、ある確信があった。

 新世界に所属しているミズカが無事ならば、きっと他の人達も元気なはず。

 そう考え、真っ先に隠れ家の奥へと入っていく。


「皆さん!」

「その声、専属メイドか?」

「ルリさん!」

「良かった……。ご無事で何よりです」

 そしてルリフィーネの予想が的中した瞬間に表情は明るくなり、また新世界のメンバーも同じ様な顔をする。


「あれ? こちらの方は……?」

 そんな明るい雰囲気の中、ルリフィーネの知らない顔が一人。


「私だよー、ホタルだよ! 助けに来たよ! まぁ、魔術師になるはずがいろいろあって、悪魔になっちゃったけども」

 正直、ルリフィーネにはホタルの言っている事が理解出来なかった。

 だがそれでも、風精の国で別れた後に連絡の取れなかった仲間が、無事に合流した事に対して大きな喜びを感じていた。


「ほおほお、ますます魅力的になられましたね」

「でしょー?」

 ルリフィーネは、私は前にも増して体型がグラマーになったホタルをまじまじと見つめ、思わず感動してしまう。


「セーラさんも可愛らしい格好ですね。お似合いですよ」

 次にルリフィーネは、無言で見張りを続けていたセーラの方へと寄り、年相応の愛らしい格好を褒めた。


「……」

「あっ! セーラちゃん照れてるな?」

「照れてるって何?」

 ルリフィーネの褒め言葉の意味が解らなかったのか、それともホタルの言うとおり照れ隠しをしただけなのか、セーラはホタルの言葉について問いながら、ルリフィーネから視線を逸らした。


「お二人が居るという事は、ユキ様はご一緒なのですか?」

 ホタル、セーラ、新世界の面々。

 これだけの仲間が揃っている。

 そうなれば、私の最愛の人だって居るはず。

 ルリフィーネはそんな願いを隠し切れないまま、一番近くに居たホタルへユキの所在を聞く。


「あのさー……、それがね」

 しかしユキの名前が出た瞬間、今まで高揚していた雰囲気が元に戻っていく。


「ユキはここには居ない。あいつだけ行方が解らない」

 ホタルはルリフィーネの気持ちを十分理解していた。

 だからこそ、ユキが居ない事を素直に打ち上げる事が出来なかった。

 そんな様子を察したのか、今まで厳しい表情をしていたハーベスタが口を開いた。


「そうですか……」

 一番再会したかった人が居ない。

 その事を思い知らされたルリフィーネは酷く落胆した。

 肩をがくりと落とし、心なしかどこか瞳が潤んでいる。


「ルリさん……」

 落ち込むルリフィーネを慰めようと、ホタルが近寄った時だった。


「大丈夫です。このルリフィーネ、ユキ様の所へ必ず戻ります!」

「その意気だ! 私も頑張るぞ!」

 ルリフィーネは目をぐっと閉じた後に、強い口調でそう言った。

 誰もが専属メイドの強がりを理解していたが、誰一人とそれに関しては言わなかった。


「ようハーベスタ。久しぶりだな」

「あ、あなたは……!」

 そんな感動の再会と、強い決意を共有している最中。

 今までルリフィーネの後ろに居たサラマンドラは、ハーベスタを見つけるとのそりのそりと歩きながら挨拶をする。

 それに対してハーベスタは、今まで文鎮のようにどっしりとしていた態度が一変し、羽ペンのように浮ついてしまう。


「随分立派になったじゃないか」

「……」

 サラマンドラは、元々かしこまるようなタイプでは無いのを皆解っていた。

 それを差し引いてもハーベスタに対して妙に馴れ馴れしさを感じたルリフィーネは、不思議そうな顔をしながら彼らのやり取りを見守る。


「ねえ、どうしたのハーベスタ。そんな小さくなっちゃって」

 ミズカも気になったのか、すっかり縮こまってしまったハーベスタに聞いた。


「ミズカ、ハーベスタは元々サラマンドラ国王と同じ傭兵団に居たの」

「うん」

「当時ハーベスタ”ちゃん”は十代中盤、サラマンドラは三十代で傭兵団のリーダーをやっていた。傭兵団のリーダーは団員全ての憧れ。後は解るわね?」

「解らないよ!」

「これ以上はかわいそうだから、後は自分で考えなさい」

「ぶーぶー」

 ハーベスタの態度が変わった理由を、マリネが代わりに話すが、内容が抽象的だったせいでミズカはまるで解らず、さらに解りやすく説明を求めたが答えて貰えなかったので、頬を膨らまして不満を露にした。


 しかし、ルリフィーネにはマリネの言っている意味が解ってしまい、感動の再会に思わず感嘆してしまった。


 マリネの解説が終わるとサラマンドラは、ハーベスタのすっかり小さくなった背中を強く叩く。

「何を気弱になっている? ここではお前の方が立場が上だろう? それに俺とお前はもう無関係だ。もっとしっかりとしろ」

「あ、ああ……。そうで……、そうだな」

 かつての上司であり、ずっと憧れだった人を目の前にしたハーベスタは完全に萎縮していた。

 しかし、そんな人から直接激励を受けて少し戸惑いながらも目を閉じ深く息を吸って吐くと、いつもの剛毅な態度を取り戻し……。


「よく戻って来てくれた専属メイド。そしてサラマンドラ国王とその仲間達、ようこそ新世界へ」

 ルリフィーネが帰ってきた事を喜び、サラマンドラ達を歓迎した。


「こっちのジジイがシウバで、もこもこの娘がアルパだ」

「世話になるんよ」

「アルパは喋らない。無言なのは許せ」

「だいじょーぶよ、うちにも無口なのが居るからね」

「そうか」

 多分、くろの事を言っているのだろうとルリフィーネは感づいたため、特別説明はせず笑顔でこの場を見守った。


「ほぇー、しっかし初めて見たけど、いい体してるなあ」

 話の上でしか聞いたことの無い、伝説の人物を目の当たりにしたホタルは瞳に興味と好奇の光を宿しながら、サラマンドラのうろこ状の皮膚を触る。

「お前こそ、凄い見た目だな。仮装じゃないのだろう?」

 サラマンドラもホタルの悪魔じみている姿が珍しいのか、あごを撫でながらこめかみから生えている角や背中の翼をまじまじと見つめた。


「ふっふん~、惚れるなよ?」

「悪魔の嫁か、それも面白いな」

 二人は案外、お似合いかもしれない。

 それは変わった見た目という意味ではなく、内面的な意味で合っている。

 ルリフィーネはそう思いながら、笑顔で二人のかけ合い話を見た。


「あー、とりあえず皆疲れただろう? 何も無いところだがゆっくりと休んでくれ。話は明日にでもする」

 その言葉に甘えたルリフィーネ、サラマンドラ、シウバとアルパは、新世界の人らにアジトの奥へと案内される。

 そしてその日の夜は慎ましくではあるが今日来た一行を歓迎し、再会を喜ぶ宴が開かれた。

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