101. 耐え忍ぶ時
何とかセーラちゃんと合流して、ユキ達がどんな苦境に立たされているのか教えて貰った。
私が予想していたよりも現状は余り良くないな。
無事で居てくれればいいけれど……。
そう思いつつ私は、ハーベスタとか言うふざけた野郎と話をしている。
私の可愛い妹をむざむざ死地へ送ったのは許せない。
後々おとしまいはしっかりつけて貰うとして、今はこの芳しくない状況の打破に専念しないとだねえ。
だがな、その前にだ。
「お前と話す前にセーラちゃんの拘束を解いて、服を着せな。魔術兵器とはいえ、女の子を裸にしたまま椅子に括り付けておくとか変態すぎだろう?」
何でセーラちゃんに服を着せないまま拘束してるわけ?
私の仲間を何だと思っているんだこいつは……。
「……ミズカ、頼んでいいか?」
「勿論。私もてっきりハーベスタがそういう趣味かと思ってたよ」
「違げえよ!!」
どうやらこのミズカって魔術師の子はまともみたい。
少しは話が解ってくれそうな人が居て助かるよ。
そう思いながら、セーラちゃんは拘束を解かれていき、着替えをするために別の部屋を連れられていった。
「質問を続けていいか?」
「ええどうぞ、スリーサイズでも下着の色でも、好きなだけ教えてあげるよ」
「そんなんいらん。どうしてこの場所が解った? お前は新世界とは関係ないだろう?」
「ラプラタ様が、こっそりセーラちゃんに探知の魔術をかけておいたのさ。今までばれなかったのが幸いだよ」
セーラが通り魔をしており、ユキの手で捕まってラプラタの下へ連れて行かれた時。
どうやらあの時にしかけておいたらしい。
しかも、私やラプラタ様にしか探知できないようにしてあるとか……。
まるでこうなる事を予知していたような、ほんとあの人は恐ろしいよ。
「魔術兵器をここへ持ち出したから、救おうと来たら今この現状って訳か」
「そうだね」
「解った、なら次の質問だ」
「はいはい、もっと楽しい事聞いてよ」
「その悪魔の力は、風精の国で手に入れたのか?」
「そうだね。でも私のはお試しというか、本番前の予行練習みたいな感じらしい」
私は悪魔に魂を売った。
厳密に言えば、人の体を捨てて記憶だけは別の体に引き継いだ。
その引継ぎ先が、まさか伝説上の生き物な悪魔だったなんて。
覚悟は決めていたけど、人間じゃなくなるとはねえ。
まんまとやられたわけだ、本当にラプラタ様は食えない人だよ。
「と言う事は、もう一人別の悪魔が生まれるってわけか。ったく宮廷魔術師長は何を研究してるんだ?」
「んー、私も聞いたんだけど難しい単語ばっかりだったから、よく解らないしそんな覚えていないよ」
しかも、私の後にももう一人生み出そうとしていて、ラプラタ様にとってはそっちが本命だとか。
だから最終調整も兼ねて先に私がした。
後に悪魔化する子の体形は私に似せるみたいだから、その子はスタイルいいしラッキーだね!
「まあいい。それについては今おいといて……。お前は何が出来る? 組織の連中をまとめて倒したその力はなんだ?」
「えっと、刻印術だね」
刻印術とは、魔術の一種でルーンと言う特殊な文字を刻んでいろんな現象を引き起こす。
とは言うものの、正直よく解っていない。
完全にラプラタ様から又聞きしただけの状態だ。
「しかも、ルーンを刻まなくていいから便利なんだよねー。私はお試しだから、ルーンを重ねたりは出来ないけども」
何か、本来は刻印術はルーンを刻むから隙が大きくて、実戦には向かないみたい。
でも私のは特別で、着けている小手に特殊な加工がしてあるお陰か、何の予備動作も無く使う事が出来る。
極めれば複数のルーンを組み合わせてより強力な術が扱えるみたいだけど、私では無理のようだ。
「それで倒したのか?」
「うんうん」
それでも、組織の雑魚を倒すには十分だったみたいだけどね。
自分でもここまで出来るなんてびっくりだよ。
「なあ」
「何?」
「確認だが、お前は俺達の味方か?」
味方……、味方ねえ。
「私は可愛い妹のユキやルリさん、セーラちゃんの味方だよ」
結果としてあなた達も助けたけれど、私の味方はあの三人と修道院の人ら、後はラプラタか。
意外と多いね?
神父を殺そうとしてた時は、誰も私の事を理解する人なんて居ないと思っていたのに。
「という事は、俺達の味方だな」
「しょーじきあんたは気に入らないが、そういう事になるね」
こいつは、一応話の上ではユキ達の世話をしてくれたようだ。
行方の解らない可愛い妹の手がかりを掴むためにも、とりあえずはこの人達と組むのが妥当かねえ。
「頼みがある」
「ユキ達が行った館へ行けと? 流石に無理だよ。ルリさんの強さは解るだろう? その人が帰ってこないって余程だぞ」
その貴族の館に入って、無事だったのはセーラちゃんだけだ。
ルリさんの格闘術なら、どんな相手でも倒せるはずだ。
ユキだって非力じゃない、変身してとんでも生物を召喚する力を持っている。
そんな人らが帰ってこないとか、どう考えても何かヤバイ事があったに決まってるじゃないか。
悪魔の力を手に入れたけれど、それだって万能じゃない。
「ああ、だから別の頼みだ」
てっきりその館へ行って、ユキ達を迎えに行って欲しいとか言われると思っていた。
それ以外というと……。
「何?」
ここを脱出する手伝いか?
自分らが逃げている間に組織の連中が近寄らないようにしろって感じかな?
「俺達はここに留まろうと思っている」
私は、意外だった。
一番選択肢としてはありえないものを選んだからだ。
「組織の連中に位置がばれているのに?」
このまま居れば、再び組織の連中が攻めてくる。
それなのに何故?
「その通り……、だが行き場が無いのも事実だ」
こいつら、ここ以外に別の隠れ家とか無いのか?
それなら篭城し続けようって事ね。
「じゃあ私がこの最後の隠れ家を守ればいいんだね?」
「ああ、そうだ」
「いいよ」
私はハーベスタの作戦を理解し、そしてこの場所を守る事に同意した。
「でも本当にいいのかしら? このまま留まり続けて」
「他に雨風を凌げて、組織の目から隠れられ、攻められにくい場所があればそっちへ行くんだがな……」
このマリネって言う女装男も私と同じ考えみたいだけど。
やっぱりこの場所以外にないみたいだね。
話し方から、彼らもまた窮地に立たされているという事を感じてしまう。
「くそっ、もう少しサクヤに嵌められている事に早く気づいていれば……」
この人らの中に裏切り者がいたのか?
どうにも雲行きは怪しそうだねえ。
会話も途切れ、誰もが沈黙してしまう。
ハーベスタは難しそうな顔をしながら考え、マリネは魔術の道具の整備をしている。
特別この人達と親しいわけでもない私は、そんな人らにどうやって声をかければいいか解らず、無言で見回した。
そんな中、大した時間もかからずにミズカとセーラちゃんが戻ってくる。
「ほい、着替えなおしたよ」
「な、なんだその格好は……」
新たに着替えた服は、確かに名前の由来は崩さないよう襟はセーラカラーだ。
しかし、大きく広がった姫袖の裾と短いスカートの袖には白いフリルがあしらっており、どういうわけか胸元には正教の印が刺繍されている。
組織の人体兵器とは思えないくらい、実に女の子らしく可愛い衣装だ。
「これ、邪魔」
セーラは腕を振って、姫袖を振り回しながらそう言う。
今まで半そでだったせいか、不慣れな衣装を着せられたセーラちゃんは、表情こそ一切変えないが不快感を隠せずにいた。
「正教に忍び込んだ時に使った修道服があって、私が使った後に少し改造したの。この子に合う服ってこれくらいしかなかったから」
小柄なセーラちゃんが着れる服、限られているんだろうな。
私はそう思ったけれども……。
改造したって事は、やっぱりこの子の趣味も入っているってことだよね?
「セーラちゃん、我慢してくれるかい?」
「解った」
理由はどうあれ、他に着れるものが無いなら仕方ないよね。
セーラちゃんはそれを理解しているのか、それともどうでもよくなったのか。
私のいう事を素直に受け入れ、腕を振るのを止めた。
「じゃあ組織の連中が来る前に食料の調達してくるか」
「付いて行ったほうがいい?」
「いや、上で見張りをしているロカを連れて行く」
「私も行くよ」
「助かる」
とりあえず方針は決まったみたい。
でも、これからどうなる事やら……。
ユキやルリさんはどうしちゃったのかねえ。
無事で居てくれればいいけれども……。




