63 光泰 つたえる
次の日、爺が亡くなった。
茂兵衛「爺様は安らかな顔をしておりました」
光泰 「そうか、苦しまずに逝ったか」
葬式は近親者のみで、僕は仕来りで参加できない。
茂兵衛「爺様の遺言で、私は葬式には参加せず、
ボスの側で、お勤めを果たすようにと、言われております」
光泰 「別に、一日ぐらい休みをとっても大丈夫なのじゃがのう」
権兵衛「そうじゃ、孫が出ないのはおかしかろう」
茂兵衛「簡単な葬式で済ませます故、人手は要らぬそうです」
この後の事を考えると、爺は幸せかもしれない。
茂兵衛「そういえば、爺様が植えていた物が
芽を出して居るのですが、如何致しましょうか?」
光泰 「収穫は、八月まで待て。育て方は、瓜と同じようにすれば良い」
茂兵衛「母上に、そうお伝えしておきます」
西瓜は、育って居るようだ。一緒に食べる約束をしていたのだがな。
茂兵衛「今日は、浪士組に役目を与えますか?」
光泰 「訓練内容は、いつも通りに行え。
競わせるのでは無く、同じ行動をさせるのじゃぞ」
トレーニング内容はランニング、腕立て伏せ、腹筋運動、投石、素振りを、
休憩を挟みながら行わせている。
読み書きなどは、教えない。とにかく、筋力増強のみ行う。
一ヵ月で間に合うわけないのだが、命令に忠実で有ればそれでいい。
権兵衛「焼き物屋が、参りました」
光泰 「そうか、いつもの様に見張りを頼むぞ」
邪魔者が居ない内に、焼き物屋店主と打ち合わせをしておく。
店主 「若様、本日はどの様なご用件で御座いましょう」
光泰 「戦が近い。準備を致せ」
店主 「何処と戦をするので御座いますか?」
光泰 「それは教えられぬ。じゃが、大きな戦になるのは解っておる」
店主 「すぐさま、ご用意致しましょう。
ところで天王寺屋は、如何致しましょう」
光泰 「今回は天王寺屋に儲けさせぬ。利益はわしらの物じゃ」
明智家の戦準備は、天王寺屋が関わっている。
他の商人もいるが、まとめ役が天王寺屋の津田宗及である。
京子姉さんの夫と、同じ津田だが親戚ではない。
津とは船着き場などの意味なので、湾岸によく有る名前である。
店主 「大丈夫でございますか?」
光泰 「天王寺屋とは縁を切らせる。父上も重視しておらぬ」
明智光秀が謀反を企てていたなら、天王寺屋などどうでもいいはずだ。
天下を取れれば、他の商人を使えば良いと考えるだろう。
津田宗及にしてみれば、取引先の一つに過ぎない。
本能寺の変が始まれば、文句など言える暇などない。
それに、責任は僕が持つ事になるからな。
店主 「では、武具や弾薬も揃えておきましょう」
光泰 「足りない分は、天王寺屋に任せればよいのじゃ。
弾薬は要らぬぞ、武田の戦に使っておらぬ物が余っておる」
店主 「兵糧と武具だけにしておきますか」
光泰 「それと、コレとコレを用意せよ」
僕は、細かく書いた注文書を見せた。
店主 「これは一体、何で御座いますか」
光泰 「菓子の道具と、わしが戦で使う道具じゃ」
店主 「いつ頃、お届けいたしましょうか?」
光泰 「菓子の方は、早めに致せ。
こちらは五月三十日に京の都に運ばせよ。
良いか遅れても早くても駄目じゃぞ」
店主 「数は如何致しましょう」
光泰 「菓子は一個で良い。
こちらは、出来るだけ多くが良い。
数は一万が、最低条件じゃ」
店主 「いつもの様に、内密に行えば宜しいで御座いますね」
光泰 「気付かれても構わぬ。どうせ解らぬ」
店主 「それと、紙角力で御座いますが、
いつ頃から売り始めましょうか」
光泰 「部屋で遊ぶものじゃから、六月の梅雨の時期から始めよ」
店主 「売る相手は広う御座いますから、
安めにして他の商人達にも売らせましょう」
光泰 「すぐに真似されやすいからのう。
短期間に売り抜けねばならぬか」
店主 「利益は、薄う御座いますから、作る者も限られるでしょう」
紙相撲は、四月二十五日の手紙に書いて遊び方を伝えていた。
その後、店主からの手紙で売れると判断して判子を作らせておいた。
範熈祖父さんと遊んだのは、僕の手作りである。
光泰 「墨で書けば済む話じゃからのう」
店主 「それを売るのが、商人の腕で御座います」
光泰 「利益が出なくとも、次の手は考えておるから安心致せ」
店主 「しかし、良く思い付きますな。
何処で知恵を、手に入れたので御座いますか?」
光泰 「南蛮(ヨーロッパ)や唐土(中国)、天竺(インド)等じゃ」
店主 「流石で御座います。出来れば焼き物にも、
知恵をお貸しして頂けたら、幸いで御座います」
光泰 「形以外は無理じゃ。
いや、焼き物ならアレがあるのう」
店主 「あれとは、一体何で御座いますか」
光泰 「石油を知っておるか?石の油と書く」
店主 「聞いた事が御座いませぬが」
光泰 「石炭はどうじゃ。石の炭じゃが」
店主 「それは、どのような物で御座いますか?」
光泰 「石油は、無いかも知れぬが、臭くて黒く燃える油じゃ。
石炭は、黒くて燃える石じゃ」
店主 「石油とはもしかして、臭水の事ではないでしょうか?」
え!石油あるの?
光泰 「それは何処に有るのじゃ」
店主 「越後の国で御座います」
新潟かよ。今は、上杉景勝の領地だ。
直江兼続は、頑張っているだろうか。
結婚したのは、今頃だっけ。(注:去年です)
光泰 「手に入れるのは無理か」
店主 「あれは臭くて、使いたがる者はおりませぬ」
石油は、温めて温度で分離するだったよな。
作るにしても、金がかかるな。諦めよう。
光泰 「石油は無しじゃな」
店主 「石炭で御座いますが、筑後の国に
そのような話が、有ったよな気が致しますが」
筑後は、現代で修羅の国で有名な、福岡県である。
戦国時代は、修羅の国だらけで意味が無いけど。
光泰 「遠いな、すぐには無理じゃな」
店主 「どの様に使えば宜しいのでしょうか?」
光泰 「石油や石炭は、加工すれば良く燃えるのじゃ」
店主 「その製法はどの様な物で御座いますか?」
光泰 「石油は、銭がかかるから無理じゃ。
石炭は蒸し焼きにして、余計な水分を取り出す方法が有る」
たしか、そんな感じだったはずだ。正確にはコークスだっけ。
実際は、やってみなければ解らないが、利用価値は有るだろう。
店主 「蒸し焼きとは、何で御座いましょうか?」
光泰 「詳しくは知らぬ。炭焼きと同じ事をすれば作れるかも知れぬ」
店主 「試してみなければ、解りませぬな」
光泰 「日の本の国が、纏まらければ無理じゃな」
店主 「若様が、大名に成る頃になりますかな」
大名には、なる気は無いから。
光泰 「筑後の大名にやらせて、取引をお主がすれば良い。
石炭は煙が酷いから、海沿いでしか出来ぬ」
琵琶湖や京の都の近くでやれば、苦情が来るに決っている。
店主 「それでは、若様が儲けぬでは、御座いませぬか」
光泰 「石炭はやりようでは、莫大な利益を産む。
天下人に成る者に、目を付けられては叶わぬ」
店主 「利益が出たら、取り上げられる恐れがあると
お考えで御座いますか?」
光泰 「それほど可能性と危険性が有るのじゃ。
わしの手には負えぬ」
店主 「なんと残念な話で御座います」
光泰 「わしは、小銭を稼ぐのが関の山じゃ」
店主 「関の山とは、どこの山で御座いますか?」
関の山って、まだ使わないのかな?適当に誤魔化すか。
光泰 「亀山じゃ」
(注:本当は現在の三重県の亀山市ですので、
京都の亀岡市の亀山城は違います)
本能寺の変まで、あと一ヵ月。
石油や石炭は作る予定は有りません
焼き物屋店主の名前ですが、
地名と同じなので書いてません。
屋号は坂本屋で名は高島儀兵衛です。
話が続いたら変える予定です。




