50 十次郎 とどく
本能寺の変まで、あと9ヶ月になった。
果たして明智光秀は、織田信長を殺すのか?
いままでに、謀反する素振りは見せていない。
だが僕は、確信している。絶対すると。
なぜか!
答えは六月二日に、明智光秀は、家中軍法を定めた。
簡単に言うと、ルールを決めたから、明智家の家臣は、
書いている内容を守って、戦の準備してねと、言えばいいだろうか。
これ絶対、本能寺の変の準備だよ。間違いない。
こんな偶然ないだろ。
これで、正確な日にちが解った。
今から、やらなければ成らない事は、
1、謀反を諦めさせる。
2、明智光秀に、早く死んでもらう。
3、謀反を失敗させ、明智家を存続させる。
1は、どうやってやればいいいの?
指摘しても、しらばっくれたら意味がない。
下手をすれば、今すぐにおこすかもしれない。
2は、無理だ。一年以内に死ぬとは思えない。
暗殺する、チャンスもない。祈る事しか出来ない。
3が、一番ベターな考え方だろう。
実は、もう作戦は始まっている。
上手くいくとは、限らないが。
爺 「元服の準備は進んでおりますかな?」
十次郎「明日には、わしの甲冑が届くぞ」
爺 「楽しみでございます」
十次郎「来年は、坂本城に戻れるのだな」
僕は元服したら、坂本城の城代に成ることが、決まっている。
爺 「南蛮胡椒(唐辛子)は、いかがなさいますので?」
十次郎「今年は、種植えの時期を逃したからのう」
爺 「来年こそは、西瓜を育てておきませぬと」
今年は、農作業をしなかった。
種植え時期を、お菓子作りに専念していたからだ。
おかげで、すっかり忘れていた。
十次郎「坂本城の方が、風通しも良いから、育てやすいかもしれぬ」
来年は、もっと忙しくなるだろうから、無理だけど。
爺 「私のお役目も、もうすぐ終りで御座います」
十次郎「本当に、隠居するのか?まだ、元気ではないか」
爺 「孫も、元服しますので心残りは御座いませぬ」
十次郎「家族は、坂本に住んでいるのであったな」
爺 「お呼びとあらば、すぐにでも駆けつけられまする」
十次郎「退屈になったら、いつでも城にたずねて来い。
仕事は、いくらでもあるからのう」
爺の故郷は美濃だが、実家があった場所は、
森家の森長可が治めている。
爺の本家筋にあたる為、戻ると色々面倒くさいそうだ。
十次郎「そうじゃ、西瓜の種を分けておくから、育ててみよ」
爺 「上手く育ちましたら、若様にご献上いたしましょう」
十次郎「そうか、八月が収穫時期じゃから、楽しみにしておるぞ」
明智家が存続していたら、一緒に食べよう。
次の日、僕の甲冑が届いた。
具足師「今まで、色々変わった甲冑を作ってきましたが、
本当にこれでよろしかったのでしょうか?」
十次郎「安心いたせ、迷惑はかけぬ。ご苦労であった」
具足師は、逃げるかのように帰っていた。
注文した時も、何度も確認されたからな。
爺 「これはまた、立物(飾り)の無い地味な兜ですな」
十次郎「飾りなど、重くなるだけで、役にはたたぬ」
兜は、ヘルメットの形にした。
派手な兜では、狙い撃ちになるだけだ。
爺 「胴が見当たりませぬが、お作りに成られなかったのですか?」
十次郎「わしはまだ、大きくなる。一々作り直していたら
面倒じゃからのう」
鎧は、胴の部分を作らなかった。
だって、邪魔で動きにくかったから。
十次郎「その代わり、直垂(鎧の下に着る着物)の柄にはこだわったぞ」
爺 「これは、蛇のような柄でございますな」
十次郎「蛇は首を刎ねても、すぐには死なぬからのう」
蛇柄の着物では無く、迷彩柄の着物である。
隠れるなら、この柄が一番いいはずだ。
爺 「ご家紋は、入れなかったのですか?」
十次郎「最近わしが、跡取りの座を狙っておると、
噂する者がおるからのう。
家紋を付けない事で、継ぐ意志は無いと示したのじゃ」
跡取りなど、絶対いやだ。僕は自由でいたい。
爺 「手盾を、ご使用なさるのですか?」
十次郎「胴の代わりにのう。槍や刀では、大人にはまだ叶わぬ。
火縄や弓ならば、やりようが有るからのう」
爺 「先が、丸くなっておりますな。
これは一体、どういう意味がおありで」
十次郎「鍬の様に使う為じゃ。反対方向に、棒を差せる
金具が付いておるじゃろ」
爺 「なるほど、面白き手盾でございますな」
名付けて、鉄スコップの大盾。役に立つかは、解らない
ちなみに戦国武将は、盾を使わない。
木の盾は有るのだが、持たせた足軽を並べて、
その隙間から、弓矢などを撃ったりする。
十次郎「父上が見たら、さぞ驚くであろうな」
爺 「必ず殿に怒られますな」
十次郎「やり過ぎたかのう」
爺 「ふざけていると、思うでしょうな」
十次郎「ちゃんと、意味があるのだがのう」
爺 「殿は、人前では感情を出しませぬ。
家臣達が大勢居る時に、見せた方がよろしいでしょう」
十次郎「そうするかのう」
飾りの無い兜、迷彩柄の着物、大きなスコップ型の盾、
そして、元々あったクロスボウ。
統一感の無い、メチャクチャな甲冑一式は、
はたして、どのような評価になるのか。
見せるのは、皆が集まる予定の十二月に決めた。
連続投稿いたします。




