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エピローグ

 

 女王様に呼ばれただけなのに、王都では色んなことがあった。


 まずはエドワードのこと。

 全智教団と通じていたことで投獄され、ヴィルヘルム伯爵家も貴族位を剥奪となった。伯爵は王国で指名手配されていて、お父さんの職場でやりたい放題していた罪もあって、死刑囚に負けないくらい余罪が出ている。リュカ様によれば、国際指名手配の手続きも進められているのだとか。


 まぁ、あんな男のことは置いておこう。

 今の私にはどうでもいい話だし、リュカ様も気にするなって言ってくれたし。


「それでお姉様、ここはどうしてこうしたの?」

「お姉様じゃありませんが……」


 私は今、ナディアさんやルネさんと一緒にお茶会をしていた。

 テーブルの中心に置かれたケーキスタンドのクッキーを摘まみながら私はナディアさんの手元を覗き見る。連結魔法陣の応用法で悩んでるみたいだ。


「あ、そこは二つ繋げるんですよ。ここをこうやって……」


 魔法ペンを使ってサッと線を引く。

 その裏にも細工をすると魔法陣が淡く光って、ナディアさんは驚いた。


「なんでそうなるの? α地点を多重層的に捉えて双方向に魔力を行き来させたら混戦して魔力が暴発するはずなのに」

「え、えっと。そのために裏の階層を使うと言うか……魔力で編んだ魔法陣の裏に隠した小さな魔法陣を連結させて……」

「どうやったらそんなこと出来るのよっ?」

「え? こんなの誰でも出来ますけど……」

「お姉様しか出来ないわよっ!!」


 だからお姉様じゃないと何度言えば。

 あの事件のあと、ナディアさんはエドワードが螺旋魔法陣を盗んでいたことを正式に公表し、自分もそれに協力してしまったことを謝罪した。おかげで男爵家は色んなところから白い目で見られることになったけど、ナディアさんは甘んじてそれを受けている。リュカ様に言われたこともあって、最近はちょいちょい失礼だった言動もなりを潜めて来た。


 まぁ私、お姉様じゃないんだけどね。

 たぶん一つ年下だし。私、まだそんなに老けてないよ。

 などと思っていると、ルネさんが疑問を挟んできた。


「ですがこれだと魔力効率が悪そうですね」

「でも小さな媒体で魔法具を作れるので便利なんです。貧乏な時はこれを使って……」


 今まで魔法に関してお喋り出来る人が居なかったから嬉しい。

 ルネさんも最近は打ち解けて来たし、ナディアさんお友達になれそう。

 友達の定義が分からないけど。

 お茶を飲んでるんだし友達って言えるよね?


 ナディアさんがカップを傾けて息をついた。


「美味しいわ。さすがはルネ様ね」

「恐縮です」

「ほんと、なんでこの人がメイドやってるのか」

「趣味です」

「趣味なのっ?」


 ルネさんは相変わらずだった。

 ほんと、こんな綺麗な公爵令嬢が私のメイドなんて今でも信じられないよ……。


「その後、プラトン家のほうはいかがですか」

「まぁ、なんとかやってるわ。うちは全智教団との繋がりもないわけだし」


 ヴィルヘルム家の罪で最も大きいのがカルト──じゃなくて全智教団との繋がりだ。なんでもかの教団は王国内で暗躍しているらしく、今まで起きた大きな事件でも教団の影があったとか。ヴィルヘルム伯爵家は教団の中枢近くにいたため、こってり情報を搾り取るためにエドワードは毎日悲鳴を上げているらしい。


(全智教団か……)


 私は胸に手をあててぎゅっと唇を噛んだ。

 首から下げた鍵の硬い感触が嫌な記憶を思い出させる。


(結局、あの人たちの狙いはなんだったんだろう。この鍵って何だろう)


 あの儀式の中で私の中から出て来た金色の鍵。

 試しに空中でひねってみたけど、何も起きなくて恥ずかしい思いをした。

 そもそも身体の中に鍵があるってどういう感じなの?

 なんであの人たちは私にそれがあるって知ってたんだろう。


 考えても手掛かりが少なすぎて分からない。

 もしまた、あの人たちが襲って来たら……。


「大丈夫ですよ、ライラ様」


 ルネさんは静かに微笑んだ。


「あなたのことは我々が守ります。もう不意打ちは喰らいません」

「……うん」

「そうよ。あんな人たちのことは殿方に任せておきましょ」


 そんなことよりっ、とナディアさんが励ますように身を乗り出した。


「お姉様、あの方とはどうなのっ?」

「え?」

「だから、リュカ様よ、リュカ様! 婚約したんでしょ?」

「あ、あぅ……それは……はい」


 ……まぁ、突っ込まれるよね。


 先日、私とリュカ様の婚約が正式に発表された。


『氷焔の微笑』と名高いリュカ様が子爵令嬢と婚約した事実は国中でもちきりだそうだ。まるきりの無名だった私とあの人がどんな関係があるのか。出会いは何なのか、そもそもなぜ子爵令嬢が……などと、ゴシップ記事を賑わせている。


 今ではひっきりなりにお茶会の招待状が届いて困ってるぐらいだ。

 幸い、物見遊山でこのド田舎に来る人はいないけれど。


「と、とりあえずは今まで通り、かな。私、まだ結婚とか想像できなくて」

「まぁそうよね。わたくしも男なんて懲り懲りだわ。仕事と結婚するもの」

「あはは……」


 ナディアさんはルネさんの推薦で魔法省の研究室に配属になった。

 若い女性が一人頑張っていくには厳しい世界だけど、この人なら大丈夫そう。

 そんな私の心中を見透かしたようにナディアさんは微笑んだ。


「お姉様がいらっしゃるならいつでも歓迎よ? お姉様は宮廷魔法師の頂点になるべきお方だもの」

「か、勘弁してください……そういうの向いてないので……」

「そうかしら。でも……」

「その辺にしてあげて欲しいな。プラトン嬢」


 女子会の席に近付いてきたのはリュカ様だ。

 最近は臣籍降下の準備で忙しく動いている婚約者は私の髪をひと房とってキスをするげげ。


「ライラはとてもシャイなんだ。そういうのは向いてないのさ」

「りゅ。リュカ様っ、そういうのは人前でしないでください!」

「なんでさ?」

「なんでって」


 ほらぁああああ! 

 ナディアさんもルネさんもめちゃくちゃニヤニヤしてるじゃん!

 絶対あとでからかわれるやつだよ、もう!


「人前じゃなかったらいいの?」

「え」


 …………。

 かぁぁあああ、と顔が熱くなった。


「そ、そういう意味じゃなくて……」

「嫌なの?」

「嫌じゃないです! けど、」

「ふぅん。そっか」


 リュカ様は優しく微笑んだ。


「嫌じゃないんだ」

「~~~~っ」

(こ、この人はほんとに……もう! もう!)


 内心で悶えていると、ナディアさんが口元を扇子で隠した。


「見ていて砂糖を吐きそうなほど甘いですわね。あのリュカ様がこんな顔をされるなんて」

「プラトン嬢、これはまだ序の口ですよ。我が主様と上司様は大層仲が良いので」

「これで序の口?」

「いや普通ですから! 別に! これ以上とかしてないし!」


 き、キスとかだってまだだし、恋人らしいことなんてしてないし!

 そりゃあ、手を繋いだりはしたけど……それ以外はしてないから!


「こんなので恥ずかしがってたら身が持たないよ、ライラ。まだまだ溺愛するから覚悟してね」

「ひゃぁ!」


 後ろから抱きしめられて私は思わず悲鳴をあげる。

 もう色々と限界のいっぱいいっぱいだったから、席から立って後退った。


「ライラ?」

「で……」

「…………で?」

「溺愛なんてお断りですぅううううう!」


 心臓が持たないから! 

 ドキドキしすぎて死んじゃうからぁあ!!





 ◆◇◆◇





 王子様との恋愛と聞いたらどんなことを想像する?

 たとえば玉の輿であったり、すごい王太子妃教育だったり、社交界で針の筵になったり。

 あるいは政略結婚とかかも。貴族の婚姻なんて当人たちが決められないのは当たり前だし。


 私も小さい頃は色んなことを想像したものだけど……。

 現実で色々と経験した今とあっては、王子様との恋愛に夢は持てない。

 私にとって王子様というのはもっと身近で、どうしようもないものだった。


 ほんのり苦くて、甘酸っぱい。

 近付きたくても今さら近付けない淡いもの。

 子爵令嬢と王子様の恋なんて、絶対色々あるに決まってるもんね。


 これを書いてる今となっては、よくあんなの乗り越えられたと思うもん。

 全智教団のことも、お母さんのことも……。


 そう、本当に色々あった。

 あの人のいいところも悪いところも、全部知った。


 これは、恋の物語。


 弱気な令嬢が婚約を断ったら王子様が溺愛してくるようになったお話。

 そして──役立たずと呼ばれた私が身の程知らずの想いを抱くお話。


 私と、あの人の物語だ。




『溺愛なんてお断りです』




 完




ひとまず完結です。

ご愛読ありがとうございました!

少しでも楽しんで頂けたなら評価のほう入れて頂ければ嬉しいです!!


下記に新作のリンクも張っていますので、

もしよろしければそちらのほうもよろしくお願いします。

乙女ゲームに転生した女の子が自分の手で人生を切り拓いていくお話です。


それでは、またどこかで。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結お疲れさまでした! 少し謎も残るので(鍵とか)気が向いたら、 二人の結婚式やその後の謎も外伝とかで知り得たらいいかな~ [一言] 二人共も年をとってもデレデレの甘々な生活かな(笑)
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