第三十九話 謁見のあとに...。
「はぁ──……」
げっそり、だった。
中庭を後にした私はげっそりと廊下を歩いていた。
時間にして三十分くらいなのに、一年分の気力を使い果たした感じ……
「もうダメ……動きたくない……一生寝ながら本を読んでいたい……」
「リュカ様と会えてよかったですね」
「まぁそれは……って何言わせようとしてんの!?」
「でも、喜んでいらしたじゃないですか」
「別にリュカ様と会えたから喜んでたわけじゃなくて、ただ無事だったのが嬉しいというか」
「ちょっと離れたくらいで心配しすぎでしょう。婚約者ですか」
「あぅ……」
確かにそうだ。
たった三日離れていただけなのに、何かあったか心配するなんて……
いやでも、リュカ様が明日帰るって言ったから!
それがなかったら心配してないし!
「む~」
ルネさんは無表情だけど面白がってる目をしている。
「婚約を受けないんですか?」
「だってリュカ様と婚約したら……ずっとこれが続くんでしょ?」
「これとは?」
「偉い人に呼び出されたり、人が多い所に行ったり……」
「あぁ……最低限はあるかもしれませんね」
「だよねぇ」
やっぱり私には荷が重い気がするなぁ。
そりゃあ、私を好きって言ってくれるのは嬉しいけどさ……。
そのうち飽きられて捨てられるって、もう経験したくないから……。
「リュカ様はライラ様を溺愛されてるかと思いますが」
「そうかなぁ」
確かに色々と良くしてくれてるとは思うけど。
やってくれたことに関しては、感謝でいっぱいの気持ちだけど。
「そういうルネはどうなの? 婚約者とかいないの?」
「私のように不愛想な女を好む殿方は居ませんので」
「え、そう? 結構感情出るよね」
確かに表情は変わらないけど、目に感情が出るタイプな気がする。
怒っている時はすぐ分かるし、嬉しそうなときは目が輝いてるし。
「ルネは綺麗だし、可愛いと思うけど。結婚してないのが不思議なくらい」
そう言うと、ルネさんは虚を突かれたように固まった。
「あれ? 私、なんか変なこと言った?」
「……ライラ様は天然の人たらしですね」
「なんでっ?」
「そういうことを言うからリュカ様が溺愛するんですよ」
控室に着いた私はどっとソファに座り込む。
ふかふかして沈み込みそうだけど、部屋が豪華すぎて落ち着かない。
……王族の人ってこんなピカピカに囲まれて暮らしてるの?
「はぁ……寝たい……」
「目を閉じるだけでも楽になりますよ」
「そうかな……」
「はい。茶葉が切れていたので私は少し席を外します」
「うん……分かった……」
目を閉じると、ルネさんが毛布をかけてくれる。
そっと扉が閉まる音がして、頭がふわふわした私は背もたれに体重を預けた。
「はぁ……ねむ……」
ぼーっとしていること、しばし。
三分もしないうちに扉が開く音がした。
ルネさん、もう戻ってきたのかな……早いなぁ……
そう思っていると、
まぶたの裏を焼くほどの淡い光が弾けた。
慌てて目を開けた私は黒ローブの男に口元を塞がれる。
「!?」
「じっとしていろ。転移漏れで腕を失いたくなければ」
足元から頭の先まで徐々に上がっていく魔法陣。
その術式には見覚えがあった。
(転移魔法陣……!? こんな高等魔法、一体……!)
「少し眠れ。我らの『鍵』よ」
「……っ」




