第29話 影の中はこんな感じ。おお、すごい。
戻ります。ローズです。
ここは駄目、いるままだと駄目。早く出ないと。そんな警鐘が頭の中で鳴っている。
どうやって出るの!?
焦った私がしたことは、【収納】を使って自分を影の中へ引き込むということでした。
魔法を足元で発動すれば、地面が消え体が落ちていく。頭まで入りきったとたん影は閉じ、辺りは薄暗くなった。
「わっわあああ!?」
落ちる感覚に驚き声を上げる。数瞬後、私は尻から着地した。転けた。地面はしっかりしてるのに痛くないな。思ったほど落ちなかったからか。
辺りを見回しても何もない。薄暗い空間ってだけ。どこまで続いているのかもわからない。ここが影の中なのかあ。
息は出来る。魔法だって……
「わお使える」
使える。
何もなくて薄暗い以外は外とほとんど変わらない場所。
「どうやって出るんだろ」
何も見当たらないから出る方法がわからない。少しすればラクスの魔法だって消えてるはずだから出たいんだけどな。
【収納】の魔法で中に入れたものを出す時はどうしてた?……それと同じならわたし出られないんじゃ!?
と思った瞬間何か閃いた時のように、出る方法が頭に浮かんだ。
「よかった出られる……」
咄嗟に入っちゃったけど、これで出られなかったら私残念すぎる。
入ってきた所からだけじゃなく、別の所からも出られるなこれ。影がある所ならどこでも。どこが外のどんな所と繋がってるのかもなんとなくわかる。もう日は落ちかけてるし、夜になったら大抵どこにでも移動できるね!
これは便利。
と、そんな感激してる場合じゃないや。外に戻らないと。
氷の檻の中、積もった礫の下に見当たらない私を探してミーシャは今にも泣き出しそうになってて、ノアは普段見せないとても焦った様子で氷をどうにか退かそうとしてる。ラクスは困惑した顔で突っ立てるし。
その後ろで鬼の形相のシーナが迫ってても気がついてない。ルッカはどうしたんだろう。
出ますか。ラクスの攻撃はこれで防げる。多分私以外には攻撃しないはずだし、問題ないね。
出るのは簡単。出たい場所の辺りに立ってそこを思い浮かべ、一歩踏み出すだけ。ほら。
「お姉様!お姉様ぁっ!!」
「ローズ、無事ですよね、大丈夫ですよね!?」
「死ねぇぇぇぇぇえええええ!!」
ノアとミーシャの2人は私がいない氷に声をかけている。心配してくれてるのはものすっごく嬉しい。でも肝心の私は2人の後ろにいるんですけどね。
1人全く別のことをしている女、シーナは風を手に纏わせラクスへと突っ込んで行った。シーナの雄叫びでようやくそれに気がついたラクスは、防御が間に合わずドゴッ!という鈍い音を響かせ回転しながら私たちの後ろへと飛んでいった。
もしかしなくてもシーナってだいぶ強い……?
「女神っ!必ず仇は討ちます!……あれ?めが……ローズちゃん!大丈夫!?無事!?」
最初に私に気がついたのはシーナだった。ラクスを殴り飛ばした姿勢で私を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。
「お姉様っ!大丈夫ですか!?」
「ローズ!良かった!」
気がついた2人もシーナと同じように私の元へとやってくる。
「大丈夫。何ともない」
「よかった。ごめんね、あの女に気を取られすぎてて……」
何がごめんなのかわからないけど。その女はどうなったんだろう?
「私、私を避けさせたから……お姉様が危険な目に……ごめんなさい、ごめんなさい!」
「違う。私が相手を侮っていただけ。ミーシャは何も悪くない。ミーシャが手を握ってくれたこと、すごく嬉しかった」
あそこで2人が私に付いていてくれなければ私、耐えられなかったもん。あれでとても安心した。嬉しかった。
「お姉様ぁ!」
泣き出しそうだったミーシャは、ついに泣き出してしまった。私に抱きついて。
シーナがショックを受けた顔してる。
「怪我はありませんね?調子は?どこも何もないですか?」
とても心配した顔で恐る恐る、といったように私に手を伸ばしてくるノア。心配してくれたんだ。……いや、仲間を心配するのは当たり前か。そんな嫌われるようなことしてないもん。
でも嬉しいな。
「ん、大丈夫。何ともない」
笑顔でそう答え、伸ばされたノアの手を掴む。
大丈夫だと、そういった意を込めて。
シーナはショックを通り越して絶望的な表情になってた。
私を心配してくれたことに変わりはないし、あそこまでしてくれたからありがとう、って言ったら表情がすぐさま変わって感激したような笑顔で『ああ、今までが全て報われました……それ以上です……これからも付いていきます……』なんて言い出した。怖い。
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