第28話 恐ろしく、忌避するもの。
ラクス視点です
『私、闇属性の魔法を使う』
全部納得できたんだ。
最初に出会った時、いとも簡単にあの蜘蛛の糸から抜け出したのも、俺の前で戦うのは嫌だとか言っていたのも。
ああ、あれもそうだ。倒した魔物をどこかへしまっていたのだって。手品師になりたいだとかふざけたことを言っていたが、そんなわけがない。
闇属性の魔法の使い手。
残酷で、非道。楽しんで人を殺し、操り、疑心暗鬼になったその人々を見てまた楽しむ。童話でだってそういう残虐非道な人物として描かれている。
『ねえ、失礼じゃないかな』
『女で何か不都合でも?』
女らしさなんてちっともない。
華やかなわけでも、明るいわけでもない。
『そう。弱いの。だから魔物はよろしく』
『誰でも秘密はあると思うけど』
何かを隠していることはわかっていた。
それとなく聞いてもはぐらかされ、絶対にその内容を教えてくれることはなかった。
『ん〜美味しい〜!』
聞き出そうと思えば出来たんだと思う。
それをしなかったのは俺だ。隠したいことくらい、誰でもあると。それに納得してしまって。
青のワンピース。フリルとリボンの装飾がたくさん付けられている、“女”らしい服。銀の髪は街で見るような女たちのように可愛らしく結ってある。こんな姿は初めて見た。
青の布の下、黒い影が不気味に揺れ動く。
ノアとミーシャを後ろに立たせ、こちらを真っ直ぐに見るその様子は大した脅威には見えなかった。
見えなかった。そう、見えなかっただけであり、感覚ではこれは駄目だと。恐ろしいと。闇属性というだけでそういうものだと思ってしまう。
まるで────悪魔だと。
『私、そういうのは言われ慣れてるから』
慣れている、そういう割に一瞬見えた悲しそうな表情はなんなんだ?今にも泣き出しそうな顔。
すぐに消えてしまった表情。見間違いだ。
影と水が衝突する。水は全て弾かれてしまい、逆に襲ってきた影は氷の盾を削っていく。
闇の魔法は初めて見た。これで相手が戦闘慣れした者なら俺は負けていた。言っていた通り戦闘には慣れていないらしい。粗が目立つ。
だからほら……今俺に攻撃している間はただ突っ立っているだけだ。確かにこのままだとまずい。でも。
氷が削りきられる前に、1つ。唱える。
「【氷雹牢】」
本来なら人相手には絶対使わない魔法。格上の相手を閉じ込め氷の礫を多量に浴びせるえげつない魔法。大抵中にいたものは身体中に穴が開き、酷い時は元の形がわからないようや肉塊へ変化し、絶命する。
そんな魔法を使ってしまうほど、“闇属性”ということは忌避するもの。
怖い、恐ろしい。こんなものが人の中に紛れているなんて穢らわしい。そんな思いが頭の片隅にあり、過剰なその攻撃を実行してしまった。
青い布が揺れ、氷の中へと隠れていく。こうなればもう逃げられない。ノアとミーシャは上手く避けられたようだ。良かった。
一瞬後、ズジャ、と氷の礫が大量に中で降る音がした。
中へいたのは人だ。助かるわけがない。あの至近距離から降る氷の礫を影で防げるとは思えないから。中はもう、細切れになった肉と撒き散らされた血があるのみだろう。
今ローズが使える魔法でもし、戦闘慣れしていたなら勝てなかったかもしれない、そうラクスは思っています。




