第2話 なーんか見覚えあるんだよね。
「は、女か。 そこの青いのも髪長いからそういう男かと思った」
艶のある真っ黒な髪に、光の届かない暗い海の底みたいな極々黒に近い青の瞳。なんの感情も伺えない表情。年は私と変わらないくらいかな。
あれ?なんか見たことある気がするぞコイツ。
「何、女で不都合でも?」
「別に。声も話し方もどっちとも取れるやつだったからそう思っただけ」
わかった、あれだ。前世の。
乙女ゲームだ。攻略対象。え?攻略対象?あの村のゲームじゃないよ。全く別のゲームなんだけど。
似てるだけ?
「へぇ。で、なんでこんなとこにこんな罠を?」
「依頼で。ここらを縄張りにしてる魔物を捕らえるためにやった。まさか人がかかるなんて思わないだろ」
まあその通りですが。
依頼か。じゃあこの人は冒険者かな?旅の途中で会ったことあるよ、冒険者の人に何人か。収入はいいけど死亡率No. 1の職業で、子供の憧れ。
「あの蜘蛛の糸、蜘蛛が出す唾液から作られた薬品使わないと絶対取れないんだけどどうやって取った?」
そうだったのか。でも自分でもどうやったのかわからないな。
いや、さっき振り向く前ムカついた拍子に魔力出してた気がする。この糸を出した蜘蛛は魔物だし、魔物強化しちゃうこともあるんだから何か影響を与えられるってことだよね。だったら闇のこの魔力に当てられて取れたとか。うん、ありそう。
「知らないよ。知ってたとしても言わない」
闇属性だなんて知られたら碌なことないし。今までの経験でそれはよぉくわかってます。
ついさっきまで仲良く話してた人が知った途端に顔を青くして走り去るの、酷くない?洗脳するつもりだったんだろ!とか。
おかげでメンタルはすごく強くなったよ。
「……ローズ、取れたことですし行きましょう」
「うん。あ、待って」
話すことないしね。
罠の向こうに転がって行ってしまった指輪を拾う。ちゃんと付けとかないと。ていうか魔法で取れば良かったな。立ったまま、影操って。
「魔道具……?光の……?」
黒髪が何か言ってる。
やっぱり似てるよなぁ。声も、顔も。雰囲気とか髪型とか違うけど。
「無くしたらシンくんに怒られそうだな。落としたってこともバレたら面倒くさいことになりそうだ。黙っとこうな」
「そうだね」
兄さんとは毎夜毎夜話してる。魔道具使って。その日合ったこととか、今どこの辺りにいるとか、私に会えなくて辛いとか会いたいとか会いに行きたいとか。
ちょっと何か危険そうなことがあったって話しただけで心配だ、戻ってきて、やっぱり俺が行くから動くな、って言うからそれを止めるのが大変です。
「待て、シン?シン、と言ったか?【光の騎士】の?」
ん?この人兄さんのこと知ってるの?知り合い?騎士の人?いやでも依頼で罠かけたんだから冒険者であって、騎士じゃない。んんん?
そして光の騎士?兄さん光属性だけどそれのこと?そんな風に呼ばれてるんだ。知らなかった。今夜それで呼んでみよ。
「私が思っている人と君の思っている人が同じなら合ってるんじゃないかな。光属性の魔法の使い手で、ここからはちょっと離れてる王国の騎士」
「騎士で、光属性の魔法を使う。その通りだ。知り合いか?【光の騎士】が魔道具を売ってるなんて話聞かないし、無くして怒られるなんてそれしか考えられないか」
確かに兄さんそういうことしなさそう。
「知り合いというか、シンはローズのお兄さんです。話はそれだけですか?夜になる前に街へ行きたいので失礼します」
「待て待て。その街ってウィルフィスだろ。俺も行くとこだから話聞かせてくれ」
「依頼でここにいるんだろ?こんな森の奥だし、近くで野営でもしてんじゃないのか」
「罠はいくつも作ってんだ。順番に見て回ってる途中でさ」
本当なのかな。
兄さんのことを聞きたいってどういうことだろ。知り合い?それとも何かしてもらいたいとか?でもこんな離れたとこなら他の光属性の魔法使う人1人くらいいるんじゃないかな。
うーんなんだろ。
「狙いはなんですか?これでも長く旅していますし、戦闘経験もそこそこあります。簡単にやられるつもりはありませんよ」
「いやいやそんなじゃない。ただ、知りたいことがあるだけだ」
「ふむ。まあ、街までだけだ。そっちの人間には見えないからね。君、名前は?」
ナラルさんの人を見る目、あんまり信用できないんだよね。
「ラクス。冒険者だ」
……ラクス。
本物の、他のゲームの攻略対象だ。絶対にそう。なんで?なんで他のゲームの攻略対象が……?
え、どうなってるの?
感想頂きました…!ありがとうございます!!
嬉しいです!!!
1年半の内になぜ気がつかなかったのか、というのは1つの街に長期滞在することはありませんでしたし、そもそも街中で会うことがほぼありません。会っても話すことなどないのでわかりませんし。
見かけても「あ、なんか似てるけどありえないな」ですぐに忘れてしまうからです。目の前に推しがいますしね。




