第1話 1年半過ぎました。
2章です
雲1つない青空。とってもいい天気。風が穏やかに吹いてて、暑くも寒くもない気温。
うーん、気持ちいい。
こんなに気持ちのいい天気だから気分も良いはずなんだけどおかしいな、気分は最悪だね。
「もうやだおうちかえるぅ……」
「そんなこと言わないで下さい。全く……誰がこんな森の奥にこんな罠を仕掛けたんだか……」
私がナラルさんとノアと一緒に村を出てから1年と半分が過ぎた。旅なんてしたことなかったから結構大変なことがものすごくあったし辛いこともあったけど、それと同じくらい楽しいこともたくさんあった。
だいぶ慣れたと思うんだ、旅するの。
ま、今はこんな罠に嵌っちゃったけどね。
人が1人潜り抜けられるくらいの木と木の間に糸を張るような形で作られていた罠。蜘蛛の糸みたいに細くて見えなかったから私はそのまま突っ込んでしまった。糸は本当に蜘蛛の糸だった。蜘蛛は蜘蛛でも魔物の蜘蛛。でっかいやつ。すごく丈夫な糸を出す蜘蛛で、その蜘蛛の糸は高く売れるらしい。粘性をもった糸ともたない糸の2種類があって、ここに仕掛けられていたのはものすっごくネバネバする糸。
え?なんで狭い木と木の間に入ろうとしたか、って?
仕方ないことだったんだよ、兄さんからもらった魔道具の指輪を落としちゃって、そっちに転がっていったから。まさかこんなものがあるとは思わない。
「うぅ……」
「うーん、こりゃ手強いな。危険を承知で火付けるか……いやそんなことしたらシンくんに怒られるだろうし……」
「あの浄化の魔道具は?魔物の糸なんだから浄化できるんじゃ?」
頭から糸に突っ込んで、髪と顔が糸に捕まり、上から追加の糸が降ってきて全身がベタベタの糸だらけになった。うまい具合に糸の先が木に括り付けられているから動けないんです。
体についた糸はどうにか取れそうだけど髪に絡まった糸が取れない。引っ張られて痛い。
もう髪切らないとダメなやつかな。肩の辺りで切り揃えられていた髪は、1年半経った今じゃ胸の下辺りまで伸びた。伸びるペース早い。下ろしてると邪魔だから頭の上で1つにまとめてて、まあそのおかげで切るとしても結んだ所辺りで大丈夫……なはず。そうと信じたいです。
“ローズ”のこの銀の髪、綺麗で私も気に入ってるからできるだけ切りたくない。
「それで取れるならこの蜘蛛の糸で作られた防具は全部消えちまうよ。俺かノアが火属性の魔法の使い手ならなぁ。髪を燃やさず糸だけ燃やせたんだが」
燃やすくらいなら切ってほしい。熱いのは嫌だよ?頭燃えるとか怖いし……。
「うーん。どうしましょうか…………っ!?誰だっ!」
「んぇ?」
蜘蛛の糸が絡みついた私の髪を手に取って見ていたノアが、急に後ろへ振り向き声をあげる。ナラルさんもノアと同じタイミングで振り向いていた。いや、ナラルさんの方が少し早かったかな。
私は振り向けない。振り向いたら頭が引っ張られる。痛い。
「んー、お兄さん達も冒険者か何か?」
「……ただの旅人だ」
「最近の旅人はこんなに気配に敏感なのか。なるほど、覚えておく」
男の声。まだ若い感じの。どちらかというと少年っぽいかも。
感情をほとんど感じない声だった。
「気配を消して何の用だ?」
「ああ、その罠。そこにやったの俺だから。何かかかったなぁ、って思ってきたらその白髪がかかってたって話」
え、白髪……?白髪って言われたの?
確かに銀髪って白髪っぽいとこあるけどさ!綺麗な銀髪でしょ!?白髪じゃないんですが!
「ねぇ失礼じゃないかな」
酷くない?女の子に向かって白髪とか!
「俺は事実を言っただけ。白髪は白髪だろ」
「は?君は色の区別も付かないほどの阿呆なの?」
ムカつく。あ〜もう!顔みて文句言ってやろ。
パラパラと蜘蛛の糸が取れていく。あれ?あんなにベタベタくっ付いてたのになんでこんな簡単に取れるんだろ。何かした?
ああもうどうでもいいや。
振り向いて、声の主を見る。
「女性に向かって白髪だなんて失礼だよね、もっと物を考えてから言葉を発するべきだよ。常識を疑う」
「は、女か。 そこの青いのも髪長いからそういう男かと思った」




