同じ騎士の話
「ぁぁぁあああああああ…………」
「……」
わざとそうしてる訳ではなさそう。
ただ今の現状に納得できていない、でも仕方がないことだから……みたいな感じ。
「ああ…………はああぁぁぁあああ……」
「……どうしたの」
いい加減やめてほしい。
「…………。はぁぁ……」
なんだ今の。僕を見て、すぐに目線をずらしてまたため息を吐いた。え、僕のこと見たよね?声聞こえてるよね?
「ねぇ。いい加減にしてよ」
「だぁってぇ……」
気持ち悪い声出さないで欲しい。シンは綺麗な顔してるけど、そこに女らしさとかは皆無なんだから気持ち悪いだけだ。
「何かあったの?」
「……ローズがさぁ、行っちゃったんだよぉ……。もう心配で心配で……隣にはアイツがいるんだよ?俺が居たかったのにぃ……なんで騎士なんて職に就いたんだろ、俺。ローズを隣で守れないとか騎士の意味ないよぉぉぉおおお……」
ローズ、というのは妹さん。これはわかる。
そしてシンが妹さんのことを大好きだということも、この前からの話で嫌というほどわかってしまっている。
シンの地元の村を妹さんが出て旅することになったのもなんか聞いた気がする。
【光の騎士】なんて呼ばれているシンが実はこんな人だと知って何人の令嬢が卒倒するだろうか。それでもいい!という子もいそうだけど。
多くの人が思うような人ではないということはわかってたけれど、あそこまで妹さんに入れ込むのは僕でも驚きだった。
ずっと妹さんの話ばかりするんだ。村に帰ってる間に何があったのか気になる。
「妹さんが安心して旅できるように、じゃない?ていうか悩んでももう仕方ないことだよねそれ」
「そうだけど……そう、なんだよなぁ……悩んでも仕方がない。……でも悩まずにはいられない……。そうか、悩むのも仕方ないことなんだ。ならずっと悩んでようぁぁぁあああああローズ……」
机に突っ伏し、また大きな溜息を吐く。
どうしたらそんな考えが出てくるのか不思議だけど、僕は溜息をやめてほしかったんだよね……。これじゃ最初に戻ってるし。
「取り敢えず溜息吐くのやめてくれない?」
「幸せ逃げるぞ〜」
そんなことを言いながら突然話に入ってきたのはオーマだった。
「その幸せがローズの元に行くんだ……ならいいことだよな」
「……これは重症だ。やばい。よくこれで嫌われてないよな。兄ちゃん嫌いっ!気持ち悪い!って」
「ローズは俺のこと好きだぞ?大好きってこの前も言ってくれた。それにローズは俺のことそんな呼び方で呼ばない。兄さん、って呼ぶんだ。可愛いだろ?」
さっきまでの溜息は何処へやら、嬉しそうな声でオーマへそんなことを言うシン。妹さんのことを思い浮かべて話しているみたいで、顔が緩んでる。
「見たことないからなんとも言えねぇ。あ、声は良かった。でも女の子らしいかって言うと違うかも。高くなく低くなく、だった。声変わり前の男でも通用すんじゃね?」
「ローズは女の子だ!男だなんてお前俺の前でローズが男らしいなんて良く言えたなぁ?」
オーマは地雷を踏んでしまったようだ。
言葉を言い終わる前にシンは座っていた椅子から立ち上がり、オーマに向かって行く。
「いやっ!違うっ!俺は、あれだって!カッコいいよねって話!」
僕はシンの妹さんを見たことはないし、声も聞いたことはない。でもシンの妹なんだし、美人なんだろうな。オーマの言うようにどっちの性別とも取れる声なら、中性的な見た目で……中性的な見た目?兄はシン?名前はローズ?
何か……何か、引っ掛かる。“前”に……見た……?よう、な気が……。
「ローズは可愛いんだ!それはもう、花みたいに愛らしくてずっと愛でていたくなるような可愛さがあって、可愛くて、最高なんだよ。カッコいいんじゃない、可愛いんだ。いいか、それはもうものすごく可愛いんだ。お前、女の声がするって言って俺とローズのひとときを邪魔しただろ。……そうだ、邪魔されたんだ。俺のローズに頭悪い声聞かせやがって!」
「わかったよ!悪かった!てか頭悪い声ってなんだよ!俺は……いやあのその手下ろして?なんで指先が光って……」
「頭の中を浄化すればお前もまともになるだろ。さらばだ、オーマ。【天の……ユーラ?どうした?」
何か思い出せそうだけど思い出せない。
嫌だな、これ。
「……ううん、大丈夫。なんでもない」
顔を上げれば、シンがオーマへ手を向けたまま、僕を見ているのがわかった。僕は俯いていたようだ。
「やめろよな、この雰囲気でそれはない。……ん?でもそうしてくれれば俺助かる?」
「助からない」
パシュ、という微かな音を立ててシンの手から光の弾が放たれた。
容赦ない。
「うぎゃっ!?……あれ。何も変わらない?なんだよ〜、脅かすなよ〜。もう、シンの妹さんが可愛いのは当たり前なんだから褒めたっていいだろ〜」
変わってる。
前にもやってたやつだね、認識を変化させる魔法。シンってほんとえげつないことするよね……。
「ああそうだな、さっさと消えろ」
「へぇへぇ。今度妹さん紹介し……冗談冗談!たいさーん!」
オーマがいなくなったことで、居間は元の静かさに戻った。
何しにきたんだろう、オーマ。
ここにサウラがいればもっと収拾がつかないことになっていたけれど、今は夕飯の買い物に行っていていない。
いつも騒がしくて楽しいのはいいことだけどね?
サウラのご飯は美味しい。今日は何が食べられるんだろう。
思い出しそうで思い出せず引っ掛かるものから思考を逸らすように僕はそんなことを考えていた。
よくわからない終わりになり申し訳ないのですが、これにてシン王都編は終了です。
わかった方はわかったかもしれませんが、ユーラくんはあれです。不穏な感じですがそんなことは全くありません。
次話はルフト編にするか2章に入るか迷っています。




