同じ騎士の話
ユーラ視点、続きます
「はぁぁあああああ……」
「…………」
何度も繰り返されるため息。
いい加減やめてもらいたいな。
僕はユーラ、王国騎士の1人だ。まあ平民出身だから大した地位には上がれないんだけどね。ここらが最高、って感じかな。
僕と同じ時期に平民出身で騎士になった人が3人いる。
貴族と仲良くなんてできないから彼らと一緒にいることが多かったんだけど、最初に思っていたよりずっと……彼らといるのは楽しい。
気が合うだけじゃない、毎日が刺激的で、飽きがこない。ずっと一緒に居たいと思える。
でも多分これは、僕がそういう人たちとこれまで接してこなかったからなんだろうな。
僕の出身は王都から離れた所にある港町。貧富の差が激しくて、僕の家族は決して恵まれてるとは言えなかった。父親は賭け事ばかりして碌に働かず、母親は娼館で働き稼いだ金は全部煙草や香水に使ってしまっていた。
いい親とは、言えなかった。
兄と弟がいた。兄は父親と一緒になって賭け事にはまり、何もわからない小さな弟のために僕は働き、その日その日を何とか生きていた。僕が働いて稼いだお金は見つかれば3人に取られてしまうから、貯めるなんてことはできなかった。
13の時に兵士になれ、きちんと定期的に給料がもらえるようになった。
もちろんそれを知った家族は喜んだ。働かなくても金が入ってくるから。
僕が稼いだ金は半分以上3人に盗られてしまっていた。残った金で僕と弟は生きていた。前と、変わらなかった。
どうにかしたくて、努力した。
家(と呼べるようなものではなかったけれど)にはほとんど帰らず、先輩たちに鍛えてもらった。元から才能があったのか、どんどん実力が付いていくのが自分でもわかった。
3人には金を多く渡す代わりに弟をきちんと育てること、と約束させた。金が入らなくなるのは嫌だろうからきちんとするだろう。
数年後、王都で仕事をしないかと上司に言われた。王都で働くことができれば給料は今以上になる。僕はすぐに頷いた。
嬉しくて、滅多に帰らなくなっていた家へ帰り弟へそれを知らせようと思った。弟を連れて王都へ行く。僕はその考えで頭がいっぱいだった。
『──、ただいま』
この時間には弟しか家にいない。だから弾んだ声で弟の名を呼んだ。返事はない。
寝てるのかな、そう思って寝床を覗けば思った通りに弟は寝ていた。
『──?──?寝てるの?』
僕へと背を向けて横たわる弟の肩へ手を置く。
『…………ゆ、にぃ……?』
弟は、ゆっくりと体をこちらへ向けた。細い体をゆっくりと動かして、青い顔を僕へと向け、笑顔になる。
『ゆー、にぃ、だ……ど、した、の……?』
『……!』
しばらく見ていなかった弟は酷く痩せ、自分で動くこともままならないようだった。
何かの病を罹っているのは僕でもわかった。聞けばこれはここ数日のものではなく、しばらく前からだと言う。
3人は、約束など守ってくれなかった。
帰ってくるなりどう言うことだと詰め寄ったけれど、3人ともへらへら笑うだけで自分のせいではない、医者に診せる金なんてない、と返してきた。
『それより金は?給料日来てんだろ?』
それより。
それより、なんだ。
頭が真っ白になった。
僕が離れている間に弟はこんなことになってしまった。3人は変わらず真面目に働こうともしない。
弟だけを連れ、王都へ行こう。僕はそう決めた。3人にバレると絶対に良くないから、こっそり支度をした。
王都へは、仲の良い先輩も一緒に行くことになっていた。先輩は王都の彼女へ会うために行くだけで、王都へ着けば別行動だ。
出発前夜。
弟の体調が悪くなった。
金を借りて医者には診せていたけれど、弱っていた体で病に勝てるかは怪しいと言われていた。
『にぃ……お……て、かな、いで……』
『大丈夫、居るよ、ついてるから……』
苦しげに僕へ手を伸ばす弟は、今でも忘れられない。




